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#1 ミニチュア写真家・田中達也「SNSのS(スゴイ)N(納得できる)S(スキル)っす」(2019.8.9&16)

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カミガキ談(アーティストはモノを作るだけじゃないんだBOYS)


いよいよはじまりました、「ホントーBOYSの文化系クリエイター会議」、ゲストを迎えたいよいよここからが本番です。

記念すべき第1回目の会議相手は、ミニチュア写真家であり見立て作家の田中達也さん。どんな人かって? あ、こんなところに都合よくプロフィールが!

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インスタフォロワー200万人。あの『ひよっこ』のタイトルバックの人であり『情熱大陸』にも採り上げられた、大人気のクリエイターさんです。そんな方がどうしてゲストに来てくださったかというと、カミさんと知り合いだったから。田中さんとカミさんは2年前にオープンした広島駅前にある「エディオン蔦屋家電」のオープニング・レセプションで遭遇。ミニチュア感あふれる作風同士ということで親近感を感じていたカミさんは、田中さんを「事務所に遊びにおいでよ!」と即勧誘。翌日ナゼか田中さん、カミさん事務所で行われてた英会話教室に参加させられ、「おれ、なんで広島で英会話してるんだろ……?」という奇妙な展開になったとか。

そんな出会いを果たした田中さんが、タイミングよくこの夏、広島福屋で展示を行うということになり、そのプロモーションも兼ねて出演してくださったというワケです。あ、ここからの作品写真はその展示会で撮ってきたものです。展示会は撮影&SNS投稿OKなんですよ~。さすがSNSプロ!

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さて、まずは田中さんのブレイクまでのいきさつを聞きました。驚いたのは、田中さん当時から鹿児島住まいで、こんなに売れっ子になった今も鹿児島在住ということ。TOKYOとかじゃないんですね。

「もともと鹿児島のデザイン事務所でフツーに働いてたんです。鹿児島の観光案内のイラストを描いたりして。その一方で趣味で始めたインスタグラムがあって、当時の事務所の社長が『社員もSNSで発信するべき』『ツイッターもやりなさい』という人で。SNSの活用をお客さんに勧める仕事なのに、働いてる社員のフォロワー数が少ないのはマズイだろう、と。それで僕の場合、言葉を書くのは苦手なのでツイッターよりインスタグラム、だったら好きだったミニチュアを写真の被写体として使おうかな……となっていったんです」

もともとは普通のグラフィックデザイナー。それが社長の要請でインスタグラムに精を出す、と。最初から今みたいな作風だったの?

「最初は風景とかラーメンとか普通のインスタ活動をしてたんです(笑)。で、たまたま僕の結婚式が3ヶ月後に控えてて、その結婚式用にミニチュアを使った席次表とか作ったんです。ミニチュアを円卓みたいに並べて、それを写真に撮って。見立ては入ってないけど、今の源流みたいな感じですね。その席次表のミニチュアを使って撮った写真を、結婚式までのカウントダウンのつもりでアップしてたら、社長がその結婚式のあいさつで『田中がSNSで面白いことをやってるから、みなさん見てやってくれよ』って言っちゃって。本当は結婚式が終わったら止めようと思ってたのに、それで止められなくなっちゃって……それで半年たち、1年たったら、今度は『写真集出したいな』と思うようになり。自費出版で出したら、出版社から声がかかって一般流通で写真集が出せて。今度はそれを見たNHKの朝ドラのディレクターさんからオファーが届いて……そんなふうに広がっていって今に至るって感じなんですよ」

なんと結婚式のための余興(宣伝?)がこんな大きな事態に!? 人生何がきっかけになるかホントわからない。まずは社長さんに感謝ですな!

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その後、田中家に子どもが生まれたことを契機に、家族とミニチュア作品に集中するため作家道に。しかしこれくらい売れっ子になるって、一体どんな感じなんでしょ?(うらやましい……)

「ブレイクを感じたのは、朝ドラの前に台湾での展覧会が決まったんです。『ひよっこ』とか朝ドラとかそんな実績もまだないのに向こうから展覧会やりたいって言ってくれて、いざフタを開けたら2時間待ちくらいの盛況で! 最終的には12万人近く来てくれて。言葉が通じなくてもここまで喜んでくれるんだ、写真や見立ての面白さってどの国にも通じるんだって。今の作風の懐の広さを感じられたというか。だから台湾には恩があります」

で、ここまで売れると収入もスゴイでしょ?ということでブンクリ名物、オカネの話。こういうところ、ウチら本気で突っ込んでいきますよ。

「収入はもちろん変わりましたね。一番お金がいいのは……広告の仕事のように思われるかもしれないけど、意外とそうでもなくて。僕的な収入の内訳では展覧会の方が多いです。作品の出展料に加えてグッズの印税とか、そこで売れる写真集とか。サイン会をやることで本も集中的に売れるし……よくミュージシャンの人もライブをやってグッズを売るじゃないですか。ただ、そのためには自分が何もしなくてもお金が増える『手ごま』を増やすことが大事(笑)。広告って一度やったらそれで終わりだけど、グッズの場合は一度作ったらそれが半永久的に自分の資本として広がっていくんです。だから瞬間だけ見ると広告の方がいいように見えるけど、長い目で見るとグッズとか作っていった方がいいのかなと思いますね」

なるほど~~~~。実際展覧会では展示の終わりに魅力的なポップアップショップがお待ちかね。これは欲しくなる! いろいろ買いたくなる! ということでライブ&ショッピングが重要な収入源になるんですね。

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で、気になるのは田中さんにとってのSNS観。田中さんは2011年から、ほぼ毎日SNSで「ミニチュア・カレンダー」を発表。「とにかく毎日(定期的に)、同じ時間に更新する」というSNS表現の鉄則を、すでに8年近く継続してこられたわけですが、それ以外にSNSによる作品発表のメリットってあるんですか?

「基本的にSNSは展覧会に来てもらうための広告塔って意味合いが強いんですけど、大事なのは毎日やること。結局毎日考えないとアイデアの限界って超えられないんです。1週間に一度いいものを作ろうと思ってもなかなかできない。僕的には、たとえば1週間のうち5日は面白くないものかもしれないけど、2日はすごく面白いものがあってほしいというか……最低限のクオリティは保ちつつ毎日発表して、たまーに跳ねたアイデアが出てくるのを待つという感じ。僕、8年間毎日作品を発表してるんで、単純に計算するとこれまで3,000作品は作ってるんです。だからネタは尽きていくんだけど、そのネタが尽きた後のアイデアが面白いというか……

たとえば面白いエピソードだと、唐揚げをモチーフにするとして、『爆発』『岩』っていうのは普通の人がすぐ考えつくレベルのアイデアですよね。それをまず先にやってしまう。そうするともうその2つのアイデアは使えない。それ以外で唐揚げを使って何が表現できるのか……それで出てきたのが唐揚げを木の枝に付けた『紅葉』(笑)。それをアップしたとき『アイデアの限界を超えた!』ってコメントがたくさんついて。だから限界を超えるために、あえてネタを枯れさせることが大事かと思うんです。最初にパッと思いつくアイデアなんて、誰でもできるようなものですからね。でも、そこから先は僕しかやっていない領域というか。その限界を超えた作品が週1でも週2でも出てくるといいなと思うんです」

この話はスゴイです。「アイデアの限界」を超えるためにあえてネタ枯れさせていく根性。3,000作品も作ってさぞかしネタに苦労してるんだろうなーと思いきや、むしろここからが本番と言わんばかりの肚の座り具合。田中達也が面白くなっていくのはむしろこれからかも!?

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同じ「ミニチュア使い」としてカミさんがマジで気にしてたのは、田中さんのビジュアルの作り方。ぱっと見た時に吸い込まれていく、アノ空気感は何を意図したものなのか?

「僕にとってはSNSで発表してるってことが大事で。タイムラインに流れていると一瞬で『面白そう!』って思ってもらえないと、まず指を止めてもらえないんです。だからパッと見て状況がわかるビジュアルでありながら、アイデアに関してはすぐわかりすぎても面白くなくて。2~3秒考えてわかるレベルが一番いいんです。難しすぎてもダメで、簡単すぎてもダメ。だからあまりアートに行っちゃダメというか、ポップとアートのさじ加減が一番難しいんですよ」

金言出ました! 2~3秒考えてわかるレベルの面白さ。難しすぎてもダメで、簡単すぎてもダメ。これって「インスタ映え」の極意かも。

「あと気にしてるのはシンプルさ、余白ですね。ごちゃごちゃしたビジュアルがタイムラインにずらーっと並んでたときに、シンプルなものがポツンとあった方が目立つだろうと思って。作ってるときは人形たくさん出したいんだけど、写真に撮って間引いていくと最後は1~2個になって、結果的にシンプルになるんです。本当に必要なものだけ残して、あとは削ぎ落としていく。SNSで引き立つことを突き詰めていくと、それが作風になっていったんです」

ついつい作り手はあれもこれもと入れたくなるけど、そんなヤヤコシイものはタイムラインの洪水の中ではうっとおしいだけ。だから削る。余白を入れてシンプルにする。それが田中さんが辿り着いた結論。そしてそれが結果的に作風として成立していく。ウン、筋が通ってる!

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それ以外、すぐにでも役に立つSNSテクを教わりました。これホントに役に立つよ~!!

・インスタを使う場合、作品以外はアップしない。記念写真とか食べ物の写真は混ぜない。インスタは作品集であり、ギャラリーくらいに考えて作る

・更新頻度。いつ更新するかわからないページを人は見に来ない。僕の場合は時間も決めてて、朝から昼までの間が多い。最近は外国のことを考えて、時差を意識してお昼ぐらいがいいのかな、と。以前実験してわかったのは、夜アップはダメってこと。日付がすぐ昨日になるからダメなのか。そうするとアップした『その日』ができるだけ長い方がいいと思う。その早すぎず遅すぎずのタイミングが難しい

そしてもっとも気になっていたコトのひとつ、田中さんは「いいね!」の数とかコメントとかそういう細かいことをいちいち気にするのか?

「フォロワー数とかいいねの数は気にします。気にしないわけないじゃないですか! めちゃめちゃ自信がある作品でいいねが少ないときは反省もしますよ。ネタがマニアックすぎたのか、キャッチーじゃなかったのかって。さらにコメントを見て、これはネタが伝わってないからこういう評価なのか、それ以外の理由があるのか、そこも調べます。もしかしたらアップのタイミングが悪かったからかもしれないし。

僕は基本的に『作品の質=いいねの数』は正しいと思ってるんです。いいねの数って点数に近いから、採点されてるような気もしてて。僕は自分の作りたいものをひたすら作り続けるより、お客さんの反応を見ながら作品を作る方が好きなんです。相手の反応が気軽に見れるのがSNSの長所なのかなって気もしますからね」

SNSは作品発表の場であり、展示会の告知の場であり、それとともにマーケティングの場でもある、と。どの作品がどのように刺さるのか、自分の何が多くの人にヒットして、何があんまりウケないのか。リサーチして→理由を考えて→その結果を作品に反映させて→そしてまた結果をリサーチする……。このPDCAサイクルを冷静に、キチンと、コツコツ毎日続けられることが、田中さんの図抜けた才能なのかもしれませんね。分析と制作をここまでシッカリ両立できるって、そりゃフォロワー200万人に到達するよ! だってそれだけのことやってるんだから!!

「だから僕は自分の作品はアートと思ってないし、デザインとも思ってないし、写真とも思ってない。もう芸風なのかな?(笑) 実際SNSがなかったら僕はここまで出てこれなかったと思いますし、自分の作風も見てくれる人に誘導されるようにしてできていったところはあると思います」

SNSによって注目を集め、SNSによって作風ができあがる。まさにSNSが生んだポップ・ビジュアル・アーティスト=田中達也。そう考えると田中さんって、ものすごく「今の人」だと思いません?

そしてその未来は?

「今後の目標は……動きを見立てるというか。この前、ケチャップのボトルとプロレスラーを対決させてみたんです(笑)。ケチャップのボトルってどう見てもプロレスラーには見えないけど、実際ミニチュアで闘わせてみると、ケチャップが出ることで血が出てるみたいに見えたりして(笑)。そんなふうに見た目だけじゃなく、動作的なものも見立てられると面白いですね。あとはやっぱり海外での作品発表には挑戦したいです!」

なんかすごいトコまで行ってるな……。田中作品の未来は、おそらくSNSの未来。いや、今後はそこから離れた道も探っていくのか……のっけから「ぼんやりSNSいじってる場合じゃねえな~」と覚醒させられたブンクリ・ミーティング。実に実のある会議、いただきました!

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収録2019.8.6

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