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「エモまらずにとりあえず100回」モッシュピットが象徴する野蛮でハッピーな大阪のパーティー「世紀末」

 古今東西の「人が集まってくる場所=たまり場」について話を聞く不定期連載を始めます。第1回は大阪のパーティー「世紀末」です。

「今日のVMOのフロア。全員見てる方向がバラバラなの最高だと思いませんか?」

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 平日夜のモッシュピットを記録したその写真の中では、皆がバラバラの方向を向きながら、屈託のない笑顔を浮かべている。

 みんな、音楽に合わせて好きなよう身体を折り曲げ、時に叫び、時に誰かとぶつかりあいながら、屈託なく笑っている。飛んでもいいし、叫んでもいい。ちょっと危ないし、メガネが壊れることもあるけど、落としたものは誰かが拾ってくれるし、倒れていたら助け起こしてくれる。モッシュピットには信頼関係が無くてはいけない。

 撮影日は2019年4月18日、撮影場所は心斎橋のクラブ「CONPASS」。大阪のバンド「VMO」が月1で主催するジャンルレスなパーティー「世紀末」での1枚だ。

 大阪は心斎橋。大通りを出て、飲食店の立ち並ぶ通りをしばらく歩いた場所にCONPASSはある。

 キャパはおよそ200人。地下の階段を降りると大きめのラウンジが広がる。ソファーやイスがあちこちにあって、踊り疲れたら寝そべることができるし、イスに座り込んで友人とおしゃべりすることもできる。

 ちょっとした部室のような雰囲気のラウンジと、フロアとの距離の近い低めのステージ。世紀末は、この小さなクラブで開催される月イチのパーティーだ。

 主催のVMOは、2015年に結成されたグループ。大阪の大所帯バンド「Vampillia」を母体としている。

   Vampilliaがブルータスオーケストラという聞き慣れない呼称を自らに冠し、オンリーワンでありつかみどころのないグループであることを表現しているように、VMOも分類しづらいグループだ。一応ブラックメタルに分類されているけれど、ジャンルに属している感じはしない。メタルのイベントに出るわけでもないし、衣装はTシャツに短パンだし、真っ黒なTシャツにはカタカナで「ブラックメタル」とか「ダークスローン(メンバーの名前)」とか書いてある。

 そのわからなさに沿うように、世紀末のブッキングはジャンルレスだ。エレクトロ・ノイズ・アイドル・ヒップホップ……。

 特定のジャンルに寄っていれば、集客の見込みも、フロアのノリも、まあそれなりに想像がつく。どういう人たちに愛されているイベントかというのも、何となく見える。

 でも、月イチ開催で、演者のジャンルも次々変わるこのイベントに、一体どういう人が来ているのだろう?

 SNSから垣間見える世紀末の様子は、いつもピースフルで、ちょっと暑苦しい。

 気の利いたブッキングのイベントも、集客力のあるイベントも東京近郊に住んでいれば珍しくない。でもそれだけじゃない何かがあるんじゃないか。

 2018年年末、超世紀末×SHIN-JUKE OSAKA大忘年会という拡大版のイベントに参加し、その熱気にふれてから4ヶ月。今度は4月の平日の世紀末に足を運んでみた。

 この日は開場18時の開演19時。18時ちょうどにCONPASSの階段を降りると、まだ自分以外にお客は誰もいなくて、演者同士があいさつを交わしていた。

 なかなか人が集まらないので、VMOのメンバーが「居酒屋セブンイレブン見てくる」と言って階段をあがる瞬間も。CONPASSの入り口すぐ横にセブンイレブンがあって、ライブ前にそこで酒を買っておしゃべりするのが常連のパターンらしい。

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 オレンジ色の電灯が照らすラウンジは、ライブハウスの猥雑さとも、クラブの過剰さとも違うカフェのような優しい感じがあり、開演までのぼんやりした時間ものんびりした気分で過ごすことが出来た。

 しばらくして、やっとぽつぽつ人が集まってきて、集客は最終的に30人くらい。常連ばかりのこの日、DJやライブが始まってからも、みんなすぐにはステージ前に集まらない。

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 CONPASSではステージとラウンジをつなぐ扉をふさぐのは、1枚ののれんだけ。だから、ラウンジに居てもステージの音が聴き取れる。皆、イスに座って世間話をしながら、それぞれの方法で音楽を共有している。フロアに出たり入ったり、ライブもDJも見たり見なかったり。

 のんびりとそれぞれがステージを楽しんでいる数時間が過ぎ、トリのVMO。常連がステージ前に並び、ミラーボールが消える。VMOのライブは、照明を消すのだ。

 真っ暗なフロアとステージに響く轟音とシャウト。待ち構えたように踊りだし、暴力的な音に導かれるように身体をぶつけ合う人たち。その原初的な光景を、時折焚かれるストロボが照らして、皆が暴れる様子がGIFのように浮かび上がる。なんだか映画のワンシーンのようだ。

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 ライブが終わると、みんなすっきりした明るい顔でラウンジに戻っていく。この日はボーカルのザスターの誕生日祝いにファンがケーキを用意していて、物販の合間に雑談しながらケーキがふるまわれていた。平日の昼間から、呑んで、おしゃべりして、暴れて、その後はたわいない話をする。熱量があるけど、どこかほのぼのしている。

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 ライブの合間、今回写真を提供してくれたたつやさんを見つけて話を聞いた。BELLRING少女ハートを招いた回をきっかけに足を運ぶようになったというたつやさん。その後、何度かアイドルが出演した回に参加し、今では世紀末の常連だ。

 たつやさんの話の中に、印象的な言葉があった。

「以前、せのしすたぁを見に新宿LOFTに行った時に、有名研究員のおすぎさんに『大阪には東京アンダーグラウンドみたいなシーンがない』と言われたんですよ。当時は東京がうらやましいと思っていたんですが、『世紀末』に通って、『ここにあるじゃないか』と」

 「東京アンダーグラウンド」は、アイドルカルチャーの持つ熱気に衝撃を受け、対バンやコラボレーションを重ねていたロックバンド「Have a nice day」中心に、かつて新宿LOFTを軸に存在した音楽シーンだ。東京アンダーグラウンドのフロアはとても原始的だった。アイドルオタクが演者に向ける熱が、そのままフィジカルに反映され、モッシュ・ダイブに姿を変える。声でも腕でも足りないと言うかのように、全身で感情を表現する人々が、まるで渦のようにうねり、叫び続けることのできる空間が、そこには発生していた。

 世紀末には、たしかにあの頃の熱気を思わせる解放感がある。一方で、「東京アンダーグラウンド」が抱えていた刹那とは違った牧歌的な空気もある。

 世紀末がシーンなら、その中身はいったい何だろう?

 大阪で生まれ育ちったDJ hOLysHiTさん。世紀末の前身にあたるイベント「いいにおいのする」シーリズ初期にDJとして参加し、それから継続的に世紀末に関わっている彼に話を聞いてみた。 

■大阪特有の人と人の距離

ーhOLysHiTさんが世紀末に関わり始めたきっかけはなんですか?

おれは、いいにおいの4回目、DJBAKUとか、ブレイクコアの人たちが出たことがあって、普通に客で行ったんです。それから何回目かに、前座バンド募集をしていて、「やりたい」って言ったらそのまま出演することになって。Vampilliaのリーダーがヴィンテージ好きで、古着屋とかで会っててあいさつする機会も増えてったんです。

日本橋にあるK2レコード。東のジャニス・西のK2って言われるレンタル店があるんですけど、そこでバイトしてたんですよ。そこの音源はいくらでも使えるから、友だちのイベントに出るためにDJソフト買って。で、ちょうどリーダーに会って「DJソフト買ったんですよ」って言ったら、いきなり「おー、hOLysHiT。お前DJやれよ」って。リーダーは今までおれのこと本名で呼んでたのに、そこで唐突にhOLysHiTって名前になるという(笑)。

大阪特有ですけど、演者と客の距離感が近いっていうか。たとえば、クリトリック・リスは半年に一回新潟の糸魚川の旅館を借り切って、ファン同士普通に中で遊んで。余興的にクリトリック・リスがライブするんですよ。それで、終わったらスギムさんも一緒に呑むんです。でスギムさんはああいう人だから、部活の合宿ノリでいらんことするっていう。客のケツにデスソース塗ったり。

ーほかの地域と違うと思いますか?

この間スギムさんがワンマンに向けて話してましたけど、大物と普通に絡むことができるっていうのが違うかも。難波ベアーズちょっと行ったら山本精一さんと話が出来たり。グーグールルのコマチ推しのこまちゃんしゅきしゅきbotさんとか、ハウスの有名なDJだったりしますから。いろんな意味で距離感がおかしいんですよ。地場が。

■ジャンル問わず、音楽性がヤバいところを呼んでる

ー世紀末は平日夜に月イチ開催ですよね。けっこう運営が大変だと思うんですが。

ブッキングがなかなか決まらないこともありますね。昨日のYuri Uranoさんなんかもっと人がくるべきなんですけど……。やっぱりVMOは売れたいというのがあると思うので。

ーちょっと意外です。近いジャンルでブッキングしたり、いわゆる売れる人呼ぶほうが集客とか楽だと思うんですけど、あんまりガツガツした感じではないですよね。

音楽をちゃんとやってるところで、呼びたい人を呼んでるんじゃないかと思います。Maison book girlとかも音楽性がヤバいからですからね。あとは、実際CONPASSのキャパにあったブッキングってことになりますからね。

ー私が「世紀末面白そう」と思ったきっかけのひとつは、ブッキングなんですよ。ジャンル分けするならVampilliaはオルタナティブ。VMOはブラックメタルになると思いますが、呼ぶ人は垣根がない感じで。

でも、いいにおいの時から色んな人を呼んでたんですよ。ローリー寺西とか、DAOKOとか、神聖かまってちゃんとか。相対性理論を最初に大阪に呼んだのはVampilliaですし。今は有名になって呼べなくなった人も多いですけど。いいにおいは、最初は変な人が集まるところだったから、Vampilliaもイロもんバンドみたいに思われてましたね。

ーVampilliaもVMOもちょっと説明しづらいですもんね。何に似てるとも言いづらいし。

色んな見方が出来ますよね。何なら関西ゼロ世代もちょっとかすってますから。オシリペンペンズとか、ミドリとか、ZUINOSINとか。ベアーズ周辺で何かが起こってたって言われる頃の……。

ー大阪っぽいっとか、大阪ならではってことですか?

いや、でも大阪であんまウケてないですよ。大阪は、やっぱりわかりやすいのが求められてる感じがします。Especiaが東京に出たのも、WEARが始まった頃はいわゆる楽曲派って言われるような曲をやってたのに、沸き曲を増やすようになったのもそういうことだと思います。

大阪の音楽っていい意味でも悪い意味でもまとまりがないっていうか。たとえば、同じスカムってくくりに入れられる音楽でも、スギムさんとかに比べると、東京のスカムはスタイリッシュな感じがします。NATURE DANGER GANGなんかもちゃんとしてますし。ベアーズに出てるバンドとかすごいですからね。なんとも表現しづらいですけど。

■アイドルオタクが集まったらモッシュ現場になった

ー今来ているお客さん、ドルオタが多いですよね。

昨日の世紀末来てくれた人とかはそうですね。ありがたいことにいつも来てくれてます。まあ、みんな呑むのが好きなんですよね。月イチの楽しみというか。

ードルオタが多いのはアイドルと対バンしてるからですか?

それもあると思いますが、ドルオタの人がVMOを気に入ってくれたというのもあるのかな。2014年に笹塚ボウルで「INTERESTING」というイベントがあったんです。それはNATURE DANGER GANGとかゆるめるモ!とかバンドじゃないもん!とかが出ていて。

その時にすごいモッシュが起こったんですよ。それを契機に、お客さんが暴れるようになって、VMOも暴れられる曲を増やしたりして。それからアイドルシーンで有名になってしまったという。アイドルさんに「白塗りの人でしょ」とか言われたり。

暴れるようになってから離れた人もいるんかな。でも、昨日のフロア観てると、ある意味理想的なんちゃうかなって。暴れる人は前で好きなようにやって、音楽聴きたい人は後ろでゆっくり聴いてればいい。まあ、どんなに売れても最前地蔵はないなって。

ーモッシュとかダイブって、ある程度信頼関係ないと出来ないじゃないですか。倒れているところに誰かが手を引いてくれたり、サーフを流してくれる人がいたり。今ってそういうのが全部「迷惑」の一言で片付けられちゃってますよね。

この間PassCodeがダイブ禁止になった時は「おおっ」って思いましたよ。パスコはもともとフロアがすごく激しかったんですけど、ロック系イベントに登場することが増えて、アイドルシーンから離れるにつれて規制が厳しくなるという。これが脱アイドルかーって。

だから、行き場がなくなった人たちがBiS以降のアイドルシーンに流れてきてるんじゃないかなって。その中でも極端な人たちがVMOに来てるんじゃないかな。VMOは暴れるっていうか、「つい身体が動いてしまう」って表現してくれる人もいて、それはすごくうれしいですね。

■2010年代アイドルシーンの謎の熱量

ーライブって自分を解放できる場所なのに、そこが「迷惑だから」に縛られているという。だから、昨日VMOのメンバーが「居酒屋セブンイレブン見てくる」って言ってたのがいいなと思って。東京だとO-NEST、O-WESTの下のローソンもそうですけど。まあ、迷惑かもですけど、そもそも人が集まるってこと自体が迷惑かけあうことでもあるし……。

たしかに、おやすみホログラムのオタクはNEST前で「ローソンパーティー」とか言ってますもんね。バンドの人とアイドルの人が混ざり合ってるのは世紀末の面白いところかもしれないです。東京でVMO見てる人で、大阪のレギュラー世紀末に行きたいって人がいたんですよ。BELLRING少女ハートの対バンで見てくれたらしいんですけど、「大阪の変わったオタクがVMOに通ってるぞ」みたいのがあったんじゃないですかね。

ーアイドルオタクが集まって場を作ってるのに、出てくるのはアイドルじゃないのが面白いですね。今の空気感ってどうやって出来たんですか。

やっぱりおやすみホログラムが出たときじゃないですか。その時は行松陽介さんとかが出ている、よくわからないメンツの中でおやホロだったんで。それもDJで出ましたけど、気を使いましたね。ちゃんとドルオタとそれ以外のファンの人とをつなげられるようにって。その時はHauptharmonieの曲書けて、すげえ盛りあがりました。アイドルのお客さんがVMOを面白がってきてくれるようになったというか。

あと、2016年におやすみVMOというおやすみホログラムとのコラボをやったんです。それが、すごく評判が良くて。アイドルオタク四天王の1人と呼ばれているカンジさんにも「今までのアイドルとバンドのコラボで一番いい」と言われて。それはうれしかったですね。

ーhOLysHiTさんはもともとバンドやってらしたんですよね。アイドルを見るようになったきっかけはなんですか?

働いていたK2レコードでアニメやボカロといったナード系の音楽を取り扱うことになったので、アイドルを入れた方がいいかと思って曲を探してて。当時、でんぱ組.incは知ってたんですけど、あとはどうしようかと思って探したら、BiSのprimal.のロゴがメタリカのパロディで。これなら受け入れやすいかなと思って。で、2014年にVampilliaとBiSがコラボするっていうから見に行ったら、モッシュとかダイブとかリフトとかめちゃくちゃ起こるし。客の来てるTシャツはLAUGHIN'NOSEとかガチのパンクで、これはヤバいことが起きてるなって。

ーあの頃のアイドルシーンって、何か面白いものとか夢中になれるものを探してる人がいっぱい集まってた気がします。BiSはなかでもファン自体の熱量がやばかったですね。

エモですよね。おれは急性エモ中毒って呼んでたんですけど。解散間際には、ツアーを追いかけるために家を売る人が出たりしたじゃないですか。そうでなくても、みんな病気に侵されているみたいな状態で。

ー生誕が結婚式の余興なんてメじゃないくらい凝ってたり、解散直前のライブの反省会で、いきなりみんなで狂ったように号泣してたりとか、いろいろありましたよね。それがツイッターでどんどん拡散されていって、それこそインフルエンザみたいに広まっていって。

あれを求めていた人はそりゃあ、今のBiSとかBiSHとかははまらないよなって。おれがアイドル聴くようなったのはそのへんがきっかけですね。

■月イチだからこそ、人と人が会う場所になる

ーあと、昨日いいなと思ったのは、常連さん同士がすぐにはステージ前に行かないで、おしゃべりしてたところです。箱にイスがいっぱいあるのがいいと思うんですけど。

ですよね!ラウンジで座ってても、隔たりがないから音がちゃんと聴こえるのに、うるさすぎなくて。DJやってる時もそうですけど、フロアに人がいなくてもちゃんと聴いてくれてるんですよね。昨日のDiamond Terrifierさんも、「サックスだからこのくらいの距離がいいや」ってあえて外で聴いてる人もいました。

ーモッシュしてもいいし、後方腕組みでもいいし、スマホ見ながら座っててもいいし。あと、昨日は、「推しが卒業してから一ヶ月音信不通だった人に久々に会えた」というドルオタの人の話を聞きました。アイドル現場で会う機会はなくなっちゃったけど、世紀末で会える。そして、そういう生存報告出来るってマンスリーだからこそですよね。

ああ、そうですね。続けていったらいろんな面が出てくるって感じですかね。一人歩きしてるって言うか。あんな感じ今までなかったですからね。横の人がつながっていったり。

アイドルと言えば、よく覚えてるんですけど、初めてアイドル現場に行った時に、いきなり友だちが5人増えたんですよ。今までもライブにはずっと行ってたんですけど、基本一人で行って帰ってたんで。特典会とかヤバいじゃないですか。とりあえず推しが一緒だというだけで年齢も性別も関係なく話しかけることができて仲良くなれちゃう。あの感じがあるから、みんな「世紀末」に来てくれるのかな。

あと、世紀末って高校生無料じゃないですか。あれはおれがVampilliaのリーダーに提案したんですよ。そしたら「ええやん」って2秒で決まったんですけど。高校生無料にしたのは、いろんなものがあるって知ってほしくて。おれも学校居づらかったっていうか、音楽の話出来る人おらんかったから、外にはそういう話出来る人がいるって知ってほしかったっていうか。

ー高校生来ますか?

来ますね。2年前くらいには、よく高校生の女の子も来てて。よう話聞いたら大阪の地下アイドルで、超世紀末がきっかけで来てくれたそうです。その子は音楽っていうか、その場の雰囲気が好きって言ってました。昨日は居なかったけど、中学生で来てくれる子もいます。たしか、4月に高校に入ったのかな。

■エモまらないでとりあえず100回

ー世紀末の今後の目標とかありますか?

いっぺんデカい箱でやってみたいですね。ZEPPとか。あとは野外とか……。うーん、そうですねえ。何か具体的な目標があった方がいいかもしれないですね。

ーいや、でも高い目標かかげるより、ずっと続けていくことの方が難しかったりしますよ。リーダーもHave aNice Day!の浅見北斗さんとの対談で、アイドルがバンドに勝てるとしたらどんなところかという問いに、「長く続けるところじゃないですかね?」と答えてましたし。

たしかに。アイドルさんの解散や卒業を見てると。Vampillia……。もう、何のエモみも出さずに10年以上やってるってこれはすごいことやなって。体育会系のバンドなんですけど、体育会系のところを出さないっていう。

「帯をギュっとね!」という柔道マンガに、主人公とキャプテンの斉藤がケンカする話があるんです。斉藤は「厳しい練習をしなきゃいけないんじゃないか」というんですが、主人公は「いや、おれは楽しくできてもちゃんと身になればいいところを見せたい」みたいな返事をするんです。これに対して「斉藤の意見は『こんだけ苦労したんだから勝たせてくださいよ!』という考えだ」という感想があって。たしかに我々は苦労したことを誇る感じではないなって。うーん、目標。でも、とりあえず100回はやりたいなってのありますね。

ー100回……。何年後ですかね?

今30回だから、あと6〜8年かかりますかね。あ、でも、そうなると体力持たないかも。お客さんも演者も(笑)。でも、体力なくなっても続けたいですね。

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私は普段、モッシュにもリフトにもダイブにも参加しないし、お酒もほどほどにしか呑まない。でも、そういうことが起こる現場が好きだし、酒がふるまわれる場所が好きだ。理由はシンプルで、自分の感情を表に出して、思いっきり自分を開放出来る人たちに憧れがあるから。そういう空間で生まれる熱量と笑顔に触れていると、たとえ自分は見ているだけでも幸せな気分になる。

そして、モッシュもリフトもダイブも泥酔も、それぞれそれなりに迷惑だ。でも、そういう場所の人たちは、迷惑をかけた時の謝り方もそれなりに知っている。誰かが失敗したら、謝り方を教えてあげることもできる。

それでも熱量がフィジカルな行動に結びつく現場ではトラブルも多い。時が経つに連れ、規制が増えていく現場は少なくない。そして、その変化を否定することは出来ない。

世紀末のフロアは雑多で激しくて、お酒もよく出る。でも、そういう現場の抱える刹那的な空気がない。ふらっと立ち寄れる、部室や銭湯みたいな感じがあって、その不思議なバランスが、このイベントをオンリーワンにしているように思う。

hOLysHiTさんは100回やりたいと言っていたけど、私も100回目の世紀末が見てみたい。常連が今と同じように全身で暴れているのか。それともすっかり大人しくなっているのか。客層が変わって、まったく新しいフロアが生まれているのか。

でも、100回目も変わらず、音楽を自由に楽しめる場所なのだろうと思う。

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Vampillia / Twitter Instagram

VMO / Twitter

DJ hOLysHiT / Twitter

写真提供:たつやTwitter


✳︎注釈
・SHIN-JUKE
シカゴ発祥のゲットー・ミュージック・JUKE / FOOTWORKを中心にしたジャンルレスなパーティー。
・BELLRING少女ハート
2012年結成のアイドルグループ。黒い羽に黒いセーラー服という退廃的なビジュアルと洗練されていない少女の声に、昭和歌謡からサイケデリックまでさまざまな音楽を組み合わせる。2016年に解散。
・せのしすたぁ
2012開始の福井のご当地アイドルグループ。ワイシャツにネクタイ、黒のズボンが衣装。フロントマンまおのプロレスラーのような煽りがライブを盛り上げることで有名。
・研究員
アイドルグループBiSが、アイドルを研究する女の子たち「新生アイドル研究会」として出発したことに寄ったBiSファンの総称。初期の研究員は、BiSの現場を作り上げる第二のメンバーという側面が強く、独自の遊びが日々開発されていた。
・おすぎさん
映像制作やアイドル運営スタッフもやるアイドルオタク。
・Have a Nice Day!
ボーカル兼サンプラーの浅見北斗が束ねるバンド。2011年結成。ダンスミュージックの浮遊感とロックの暑苦しさと浅見北斗のロマンチシズムが融合した音楽性が特徴。過剰なモッシュピットで知られていたが、ライブ参加者の大けがを契機にダイブ・サーフなどが禁止に。
・DJBAKU
DJ、トラックメーカー 、ターンテーブリスト。ヒップホップをベースに、ロックバンドとのコラボやアイドルへの楽曲提供など幅広く活動。
・K2レコード
アルバム10万枚の在庫と100以上のジャンル分けを誇るレンタルCD店。2006年開業。大阪における民営ライブラリー的存在。
・クリトリック・リス
大阪出身のソロユニット。2006年の活動開始から一貫してパンイチで活動しているスカムシンガー。客に対して寛容なため、ハプニング好きなアイドルオタクに人気が高い。
・難波ベアーズ
関西のインディーズシーンを代表するライブハウス。数々の演者の奇行と、運営の寛大さに対するエピソードは大阪アンダーグラウンドシーンにおける自由の象徴。店長は山本精一。
・山本精一
ギタリスト、作編曲家。ボアダムス、羅針盤、想い出波止場、ROVOなどの中心メンバー。ソロも含め、参加ユニットごとに表現の方法を大きく変える音楽家。
・こまちゃんしゅきしゅきbotさん
a.k.a TAKAMARU SHINJI。グーグールルの藤宮コマチ推しが高じ、現在はこまちゃんしゅきしゅきbot名義でも活動する。
・グーグールル
2015年結成のアイドルグループ。ハウス・トランス系の楽曲が特徴。
・YURIURANO
インダストリアル/テクノプロデューサー。テクノサウンドに自身の声や自然音をコラージュしたサウンドが特徴。
・Maison book girl
2014年結成のアイドルグループ。変拍子が多用される特徴的な曲と幻想的な歌詞で知られる。
・相対性理論
2006年結成の音楽プロジェクト。元メンバーの真部脩一は現在Vampilliaのメンバー。
・関西ゼロ世代
2000年代結成・活動の関西のバンドの一部を指す。あふりらんぽ、ZUINOSIN、オシリペンペンズ、ミドリなど。2000年代に結成されたこと以外の具体的な基準があるわけではないが、どのバンドもプリミティブかつオリジナリティがある。
・オシリペンペンズ
1999年結成の大阪のバンド。ボーカル・石井モタコのライブ中の奇行も有名。
・ミドリ
ボーカルの後藤まりこを中心に2003年に結成されたロックバンド。「大阪のいびつなJUDY AND MARY」と呼ばれた。2010年解散。
・ZUINOSIN
2000年結成のバンド。ハードコア、パンク、ブレイクコアの要素を融合させた音楽で話題に。2006年活動休止。
・Especia
2012年結成の大阪発のアイドルグループ。ヴェイパーウェイヴ的意匠とアーバンな空気感の音楽で人気を博す。2017年解散。
・WEAR
2018年結成の大阪のアイドルグループ。大阪からのポップカルチャー発信を目指している。
・NATURE DANGER GANG
2013年結成のバンド。パンクとハードコアをベースにした踊れる音楽と、見世物小屋的なステージで知られる。2017年活動休止。
・ゆるめるモ!
2012年結成のアイドルグループ。「辛い時は逃げていい」をステートメントとして掲げる。ニューウェイブ等を下敷きにした曲と、詩的な飛躍の多い歌詞が特徴。
・バンドじゃないもん!
神聖かまってちゃんのドラムス・みさこが2011年に始めたアイドルグループ。2018年にバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIに改名。
・PassCode
2013年結成のアイドルグループ。ラウド、ピコリーモ系の楽曲と激しいフロアで知られる。2019年4月13日、トラブルに業を煮やした運営が「危険行為発見次第ライブ中止の判断もある」旨を言い渡したが、その後もダイブ・モッシュなどが続いている。
・BiS
2011年結成のアイドルグループ。全裸MVに代表される過激なプロモーションと、当時まだ少なかったロック系の楽曲で話題となり、大量のフォロワーを生んだ。2014年に解散するが、新しいメンバー構成のもと再始動。現在は第3期が活動中。
・おやすみホログラム
2014年結成のアイドルグループ。東京アンダーグラウンドの中心的存在。さまざまなバンドと対バン・コラボを続けている。
・行松陽介
大阪出身のDJ。日本以外のアジア圏での評価も高い。
・Hauptharmonie
2014~2017年活動のアイドルグループ。UKロック、スカ、アノラック、ポストロックなどをベースにした楽曲が高く評価された。
・地下アイドルオタク四天王
一瞬だけ使われた「いろんな地下アイドル現場にいるおじさん4人」の仇名。
・カンジさん
アイドル以外のさまざまなカルチャーにも詳しいお金持ち。くじ運が強い。
・でんぱ組.inc
秋葉原のメイドカフェ発のアイドルグループ。2009年にでんぱ組として結成。アニメやゲームといったオタク文化や、元ひきこもりなどのマイナス要素をバックボーンにし、新しいアイドル像を作りあげた。
・BiSH
2015年結成のアイドルグループ。「BiSをもう一度始める」というプロデューサー渡辺淳之介の宣言のもと誕生。BiSの持つゲリラ性を薄め、ロックアイドルとしてもっとも商業的な成功を収める。
・Diamond Terrifier
サックス奏者/作曲家Sam Hillmerのソロ・プロジェクト。
・帯をギュッとね!
1989年開始の柔道マンガ。少年サンデーらしいシュッとした絵柄と根性論に寄らない物語展開で人気を博した。


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