一級建築士試験一発合格のための戦略記(製図編)

学科が終了。そろそろ私が2008年=平成20年(一級建築士制度が変わる最終年度)に受験した際の体験記を、戦略を交えてご紹介しようと思う。

学科が終わり、1ヶ月が経とうとしている。7月下旬から10月中旬までの約2ヶ月(盆休みはしっかり休む想定)のスケジューリングは非常に大切だ。だが、これから示す内容は、事前にわかっていて定めたものではなく、事を進めていくうちに微修正を加えたらこうなった、といった類のものである。

※なお、この取り組み方での合格は保証しない。

1.製図に向かうための道具たち

私の場合、極力無駄を省くため、使用する道具は相当厳選した。特に自分の使い心地のためにシャープペンは何本も買って試した。結果的には以下のラインナップで試験に望むことになる。

・ステッドラー925 07(今は925 15-07)の0.7に2Bの芯

・三角定規は大きいの1枚、小さいの2枚(要フロート)

・ムトーのA2ライナーボード

正直、自分にあった道具であれば何でも良い。シャープペンは、グリップがゴムであることと、軽いこと、ある程度の太さがあることを重視した。0.7の2Bを1本ですべての線を書き分けるため、力の加減をコントロールしやすいように(だからゴムグリップの方が指が痛くなりにくいと感じた。)チョイスしている。また、通り芯を書いたら大きな定規は不要なので、機動力の高い定規を重用した。ムトーを選んだのは、マグネットで図面固定できるためだけ。コスト面でT定規を選んでも何ら問題無い。大きな定規を使う場面は、通り芯を書くときだけだからだ。

改めて言うが、自分に合ったものを。



2.最初の1ヶ月の過ごし方

どの学校でも作図スピードのアップを求められるわけだが、かと言って何を書けば良いのかわからないのもこの時期だ。特に最初の1週間くらいは、鶏が先か、卵が先かの感覚で、よくわからずに参考図面をトレースしたりする。すると、1枚書くのに8時間かかり、有り得ない!と思いながら貴重な休日の8時間をかけ、無駄に貧相な図面を書き終えた暁には絶望しか待ってない構図が容易に想像できる。で、挙げ句の果てには「明日仕事行きたくなーい」となりながらも5時起床で真夏の生コン打設に向かったりする、まさに地獄だったりするわけである。

「自分が『ここにトイレ、ここに階段書くって決めた!』という意志を持って決めたわけでもない図面のトレースなんて、そりゃ8時間かかるわ!」とは、すぐ気づく。ただ、はじめの一歩としては非常に大事なのだ。まさに図面密度・作図項目のあぶり出しに持ってこいなので、グッとこらえて1枚目を書くこと。

何度か課題をやってみるとわかるが、

「エスキスざっくり、作図スピードアップに重点」

なのがぼんやりわかるだろう。要は、大まかなエスキスを行い、それっぽく整えたら、「あれが足りない、これが足りない」を追加してもらい、作図できるだけのネタを仕込まれるまでがお膳立てで、あくまでよーいどん!で作図するのがメイン。自分の意志を持った風のエスキスを持たされての作図が展開される。こうなったら、8時間かけるわけにはいかないのだ。必死こいて書く。自分の貴重な休日を有意義に過ごすために、ただひたすら時間短縮を模索しながら、受かるためとかどうでも良く、「さっさと書き上げて休みてぇ…」を強烈なモチベーションに書く。ただし、密度や作図項目は漏れなく濃密に書くこと。薄っぺらい図面なんて速く書けて当然だ。

でもまあ、3枚も書けば良いと思うよ。スピードアップのためだけだから。



3.残りの1ヶ月ちょっとの過ごし方

徐々に作図のスピードアップも頭打ちになってくるタイミング。作図スピードの伸びしろが小さくなっているなか、限界を求めても仕方がない。おざなりになっていたエスキスの方がスピードアップの伸びしろあるやん!と思って作図に見切りをつけられた人が勝ちに近づく。

だから、8月のタイミングで作図に3時間かかるなら、6.5時間の試験のうち3時間は作図にあてる前提で、エスキスや作文、見直し時間を配分しなければならない。例えば、エスキス2時間、作文1時間、見直し30分でやりきる!と腹を括るのである。だから、エスキスは2時間でやりきる!作文は1時間で書ききる!それが出来なければ来年長期コースですサヨウナラ。

実は、この時期にエスキスの時間短縮に熱量を注ぐ、ある意味最もな理由がある。それは、

台風シーズンに電車の中で冷たい視線を感じながら製図版を持ち歩くのがいちいち面倒この上ない。

ということ。学校に製図版を置いておくことも出来るようだが、もはや作図スピードアップはもう求めていないし、寧ろエスキスの時間短縮を狙って特訓をやる方が良いではないか。どうせ宿題も溜まっている(涙。
この際一気にエスキスだけ!
をやるのだ。

「せんせ、せんせ。今まで出席できなかった分の課題のエスキスだけやりまくるから見てくださいな。」

実際私は講師にお願いし、溜まりに溜まった課題のエスキスをやりまくり、見てもらったことがある。まわりの皆は必死こいて作図しているが、私にとってはエスキスの時短の方が大事なのだ。また、いくつかの課題を一気に講評してもらい、「こういった場合はこうする」という動線計画のパターンなども見比べられるし、レクチャーを受けながら客観的に把握できる。

人それぞれだろうが、私の場合は、縦導線(エレベーター、階段)やトイレを如何に速く収めるかがスピードアップのカギだと感じ、便所マスターと階段マスターを目指した。実はこれらの部位はあまり変えようの無い部分だと思うので、総合資格ではポケット問題集としてまとめられていた。電車の中でちょこちょこやっていたのを記憶している。

作図はせず、エスキスの時短に執念を燃やす。作図はせず。



4.模試との向き合い方

さすがに最初の1ヶ月のみの作図練習だけで本番突入は無謀過ぎるので、模試で一度通してやってみる。実際その模試で、要求部屋数をきちんと書いたつもりが、通り線のみで壁線を書いていなかったために部屋数が足りず、一発アウトを食らった。一発アウトって相当きついなぁ、と思い、

「まず採点の土俵に乗る。出来栄えはそれからだ。」

と痛く感じた。模試でこういったミスを体感できたのは実にラッキーだった。普段の授業では感じることのない緊張感の中で起こったミスなので、本番でもやりかねないからだ。

で、最後に授業を1回受けて本番へ。ここでは講師から頂いた言葉を。

問題文に書いてある内容に素直に答えなさい。これは出題者と受験生とのキャッチボールだ。向こうが投げたボールをちゃんと受け止め、出題者を目がけて真っすぐ投げ返せば良い。ただしボールは1球だ。ボールをきちんと取らないといけないし、暴投も許されない。



5.前日の過ごし方

学科の時は、会社から木・金・土曜と休みをもらい、土曜にダラけたものだが、製図の時は「特に詰め込むものも無いんで、土曜だけ休みをください」だった。試験前日の土曜は普段よりやや遅く起き、作文のネタを叩き込み、夕方から溜まった課題をチラチラ見てイメージトレーニングをしていた。そう、宿題は大半が手つかずで残っていた。今更慌てても仕方がないので、パッパッパッパと判断する練習でもしようと気楽に臨んでいた。何問かやってみて、最後の2問を「んじゃ、これ!」と課題の山から適当に引いたのが、ペデストリアンデッキからアプローチする問題と、エスカレーターを設ける問題であった。ふーん、と思いながらこなし、特にエスカレーターの収め方を「こんなもんか」と思いながらやっていた。



6.当日

あーとうとう来たかぁ。課題は、ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設。問題が配られ、「はじめっっっっ!」の合図で問題用紙をひっくり返してびっくりした。

・・・もらった!これはもらったぁ!(一級とるぞ!.Netより復元PDF)

ペデストリアンデッキからのアクセス、しかもエスカレーター付きやないか!一気に自分が舞い上がったのがわかった。まず書ききって土俵に乗ることを意識して、キャッチボールを意識して、「エレベーター5基って鬼や…」と思いながら何とか書ききった。答案回収時には白紙も多く見受けられ、「書ききったら勝ちや!」と、半ば合格を確信したかのようなテンションだった。

微差が大差。(大事なことなので。)



7.翌日から

10月中旬の試験が終わり、12月中旬の竣工引き渡しまで、2ヶ月間で1日も休みはありませんでしたぁ(涙

ちなみに、竣工引渡が12/15。竣工お疲れ様の台湾旅行出発日が12/18。忘れもしない合格発表が12/18(マジか)。

スッチーに「もう携帯は閉まってください!」と怒られ、結局翌日ホテルのPCで合格を確認し、「受かりました!」と一級建築士を持っていない副所長の苦笑いを見ながらホッとしたのを覚えている。

しばらく2ちゃんねるで様子を見たら、どうやらなかなかの難問だったようだ。そりゃそうだ、結構白紙の人がいたもん。



まとめ

製図の試験も、なかなか破天荒な乗り切り方なのは百も承知だし、こんなやり方が万人受けするなどとは思っていないが、作図は10枚も書いていないし、授業は前・中・後の3回しか出席していない。自慢じゃないが、新人として夏場の現場監督業に向き合う中で、一級建築士にも相対するのは容易なことではない。やっとの思いで日曜だけは休みをもらったものの、毎週製図に体力を持っていかれるのは本意ではなかったので、ほとんどの授業は行けなかった。宿題が溜まる一方だったり、大量のエスキスだけ見てもらう日があったりしたのは、そのためである。

良いんだよ、受かったから!だってオレ頑張ったもん!やれるだけのことはやったもん!最後まで粘ったもん!

2年目に設計部に移って、「一級建築士取ってきちゃったのぉ〜?」と、さも2年目の仕事は一級建築士の取得と捉えていたフシが見受けられ、この会社、何だ?とふと思ったのは秘密。だが、29歳で転職し、会社の設計思想の違いに苦しんだりできたのは、一級建築士を一発で取得したからだと考える。自分のためになると思って取得に励んでほしい。

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