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蓬莱の妃 1章2節 《水の章》 §10



登場人物


 宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしているが、この地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行っている。その一方自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルをしている。元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。

 手嶋 晴(てじま はれ):手嶋屋HLD代表取締役社長であり江戸時代から続いている手嶋屋酒蔵の後継者。非公認の宮内輝夜のファンクラブ会長でありモデル業界でもタニマチ的存在で、輝夜が撮影で都内等に来る際には必ず差し入れをしてあくまでも「影から見守っている」ようなスタンスでいる。公では極めて「切れ者」として恐れられているが輝夜に関しては超甘々な態度しかとれない女性。現在未婚で容姿は若干ふくよかであるけど美人なので常に結婚相手を紹介される。しかし輝夜が居れば問題ないので結婚に関しては全く考えていない。

 イーティ アルメシア:亞人の純粋種。所属は古文書及び術学研究機関(通称4Aと呼ばれている)のアジア・レムリアン地域の技術員。

 アルガナ(本名 トゥーラット・アル・モルガナリアス Toratt Al Morganalias):亞人と人間のハーフ。現在高校生の非常勤軍属の子。元『仲介者』佃氏と知り合い。来春高校卒業して、軍属を続けながらも佃氏の会社に就職予定。



§10 イーティさんからの遺言、でしょうか【輝夜語り】


《埼玉の現場での調査に行っている輝夜だったが、この現場まで連れて行ってくれた晴が何者かに連れ去らせてしまった。
呪力の痕跡を辿りながら来たのが現場に隣接している水辺の公園。其処にある池付近に晴が発見されていたのだが・・・》


 晴さんを連れ去られた事に直面し、この事に対しての警戒を怠っていたという自分の不甲斐なさにいつも以上に苛立って居ました。
 身勝手ながらもその怒りを含んだままその一団の方に歩みながら、

 「今そこに眠らせれている方は私の連れになりますけど、さっさと貴方達の中で話のできる方に出てきて欲しいのよね。一体その方をどうするつもりでしょうか?
 でないと此処にいる3体のお人形さん全て破壊しますので現れて戴きたいのですけど。」

 と言いながら私は晴さんの手前に立っている3人に対していつでも粉砕出来るよう呪文をかけながら近づくと、眠っている晴さんが座っているすぐ後ろの方から『話の出来そうな人間』が術を解いて出現しました。

 現れた人間は顔が青白い純粋種の亞人でした。見た目は【人間】の顔を作っておりますがその人間から伝わるバイタルパターンが人間の血が入った【ハーフさん】とは違っていました。

 その亞人は性別的に中性的な声色で話をしてきました。

 「初めまして宮内輝夜様。私の名はイーティ・アルメシアと申します。貴方の方がこの現場に来られるとは思わなかったのと『現場に潜り込んでいる人間からの監視』も有りましたので敢えてこんな手を使ってお呼び出ししてしまいました。
 でもそうでもしないとピンポイントでお呼び出しすることが出来なかったものですからご迷惑をお掛けしました。」

 このイーティと名乗った亞人の何とも言いようがない冷静にも受け取れる態度に私は更にイラついたので、他人に滅多に出さないような言葉を投げつけました。

 「そうですか、今わざわざ名乗らなくてもよろしかったのです。何しろこれから貴方達を潰そうと思っていたものですから。
 でも、私に潰されたくなければこれから私の言うことに従って欲しいのですわ。

 ・・・んと、時間の無駄ですから早速要件をお伝えします。そこにいる方をすぐに解放しなさい。こう見えても結構私って短気なので早くした方が宜しいかと思いますの。」

 私は依然苛立ちながらイーティに脅しをかけましたが、先方はあくまでもマイペースなのか空気が読めないのかはわかりませんけど飄々として答えてきました。

 「モデルとして大変高名な方でもある貴方から『何しろこれから貴方達を潰そうと思っていたものですから』と言われるなんて大変光栄です。
 私とて貴方とここで戦ったとしても勝ち目が全く無いのは分かっておりますから、こちらのご婦人は今解放します。
 とは言え、この方を拉致した時に眠らせていますからあと30分ぐらいは眠ったままにはなりますのでご了承ください。

 それと、此処にいる【人形】たちを今去らせますので危害を加えないで戴きたいのです。これを傷つけたりすると何かと私が所属している長からクレームつけられるものですから。」

 イーティが3人の【人形】に向けて下がるよう命令すると、それらは周りの風景に溶け込むように立ち去りました。

 私は座っている晴さんの方に行き、晴さんをお姫様抱っこをして早速此処から立ち去ろうとしたらイーティから話かけてきました。

 「私自身危険を冒してまで貴方方宮内の方とお話しをしたいと思いこのような事をしましたので、せめてこの方が目を醒すまで向こうのテーブル付きのベンチでお話を出来たらとお願いしたいのですけど。」

 「お断り致しますわ。あれだけの大災害を起こした輩の一味である貴方の話を聞いて何になるのでしょうか?
 恐らく唯々苛つくだけになるかと思われますので辞めておきますわ。帰らさせて戴きます。」

 そうでなくてもこの現場の惨状を見ただけでも唯々不愉快にしかならない上にあっさりと晴さんを連れ去られたという失態を犯したので私は早く此処から去りたかったのです。

 ですが、この後イーティが言った台詞が私に留まるよう感じました。

 「・・・昨日貴方の妹さんが『ブラックシート』を見て【受け取って】おりますよね。それで今朝方それの原本が既に届いており輝夜さんも拝見なされているのではと。
 それを作ったのが私と言ったらお話を聞いて戴けるのでしょうか?

 それに何も原本が一つだけとは限りませんから、昨日前沢さんから【渡した】という連絡を受けて私は直ぐにそちらに郵送出来たのです。
 いくら何でも半日ぐらいであれを送れる手段自体限られますから、特に貴方達が住んでいる富士吉田へは普通郵便でも2、3日はかかりますから今回は時間外速達という緊急手段でしか使わないものを使用しました。」

 このイーティという人の話を聞いて今時点で少なくても嘘はついていないと感じます。
 確かにブラックシートが届いた方法が時間外速達というもので黒田さんも滅多に受け取れない類の郵便と言ってましたから。
 それとあのブラックシートに描かれていた法術のエネルギーのロジックパターンと同じような物をこの人から感じておりましたので、あのシートの解析含めて色々訊いてみたいと思い先方の企みに乗ってしまいますけどお誘いに乗りました。

 「・・・お聞きしましょう。変な弁解をする気もなさそうですから。」

 「宮内輝夜さん、貴方が理知のある方で助かりました。ではこちらへ。・・・でこのご婦人は私がお・・」

 「大丈夫ですわ。却って今晴さんは眠って居ますから私にとって運びやすいので私がやります。
 これが起きた状態でこんな事をやると晴さんが間違いなくパニックを起こしますので。」

 私は目の前にある大きめの池の手前に有った若干古めかしい机付きのベンチの方まで晴さんをお姫様抱っこしながら移動しました。

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7,535字
既刊している電子書籍が1記事1万字以内程度に収まるように再編集しておりますので空いた時間に読めます。

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