イノベーションのリーガルデザイン

はじめに

大学院で「問いを立てるデザイン」という講義を取っている。先日は法律家の水野祐さんがいらっしゃってLegal Designについてお話ししてくださった。水野さんの話を聞いて、イノベーションの可能性のある技術が生まれた時に、それを本当にイノベーションに繋げるには、うまく法制度に適応する必要があることを学んだ。

イノベーションのリーガルデザインの練習として、自身の研究開発が達成された時にそれが実用化され社会の役に立つように、あらかじめ周辺のリーガルリサーチをし、問題があれば対応策を考えることをしようと思う。

研究内容

研究の内容を一言で言うならば、「複合現実におけるブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の開発」である。

アプリケーションの概要

・複合現実におけるBCIアプリケーションによって、使用者は環境情報に即した選択肢を提示され、その中から脳波を用いて選択を行うことができる。
・想定される使用状況は、病院の居室、療養中の自宅など。
想定される使用者は、筋肉を動かせない患者である。
・行われる選択として想定されるのは、エアコンやテレビなどの家電製品の操作である。

アプリケーションの詳細

1. Webカメラで環境情報を取得(映像取得)
2. Google Vision APIで画像処理、オブジェクト検知
3. Webカメラで取得した映像と検知したオブジェクト情報を統合し、それぞれのオブジェクトが順番に点滅する映像を作成
4. 作成した映像をヘッドマウントディスプレーに表示(Unityを使用)
5. 使用者の脳波を測定しP300に注目
6. 使用者の選択をコンピュータが認識、操作を実行

リーガルリサーチの趣旨

アプリケーションが開発されたとして、実用化に向けて法的に対処すべき事柄をまとめる。
問題があるとすれば対応策を考える。

はじめに、開発されたアプリケーション(「アプリケーションX」とする。)は医療機器に含まれるかについて検討する。

関連する法律等

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「法律」という。)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令(以下「施行令」という。)
施行令別表第一
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二十三条の二の二十三第一項の規定により厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器(厚生労働省告示第百十二号)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第五項から第七項までの規定により厚生労働大臣が指定する高度管理医療機器、管理医療機器及び一般医療機器(告示)及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二条第八項の規定により厚生労働大臣が指定する特定保守管理医療機器(告示)の施行について(薬食発第0720022号)

関連する記述

・法律 第二条第四項

この法律で「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるものをいう。

・施行令 第一条

(医療機器の範囲)
第一条 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「法」という。)第二条第四項の医療機器は、別表第一のとおりとする。

・施行令別表第一

機械器具
21.内臓機能検査用器具

・法律 第二十三条の二の二十三第一項

第二十三条の二の二十三 厚生労働大臣が基準を定めて指定する高度管理医療機器、管理医療機器又は体外診断用医薬品(以下「指定高度管理医療機器等」という。)の製造販売をしようとする者又は外国において本邦に輸出される指定高度管理医療機器等の製造等をする者(以下「外国指定高度管理医療機器製造等事業者」という。)であつて第二十三条の三第一項の規定により選任した製造販売業者に指定高度管理医療機器等の製造販売をさせようとするものは、厚生労働省令で定めるところにより、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の登録を受けた者(以下「登録認証機関」という。)の認証を受けなければならない。

・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第二十三条の二の二十三第一項の規定により厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器(厚生労働省告示第百十二号)

第一条
2 法第二十三条の二の二十三第一項の規定により厚生労働大臣が基準を定めて指定する管理医療機器は、別表第二又は別表第三の下欄に掲げる基準に適合する同表の中欄に掲げるもの(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)であって、基本要件基準に適合するものとする。ただし、当該管理医療機器の形状、構造及び原理、使用方法又は性能等が既存の管理医療機器と明らかに異なるときは、この告示の規定は適用しない。

・厚生労働省告示第百十二号 別表第三

番号:三百七十四
医療機器の名称:「脳波計
使用目的又は効果:「脳の活動電位の導出、記録若しくは分析又はそれらの組合せにより、診療のための情報を提供すること。」

・薬食発第0720022号

2.クラス分類告示における各一般的名称の定義等について
医療機器の一般的名称への該当性は、別添CD―ROM中の「定義」に基づき判断すること。

・薬食発第0720022号 別添CD―ROM

類別名称:「内臓機能検査用器具」
中分類:「生体電気現象検査用機器」
一般的名称:「脳波計
一般的名称定義:「脳の電気活動によって生じ、通常、患者の頭皮で検出される電位の変化を記録するために用いる装置をいう。頭皮及び耳たぶに固定したリードからレコーダに電気信号が送られ、その特性が脳電図(EEG)に再現される。様々な神経学的疾患の試験、精神疾患の評価、腫瘍又は脳表面付近の病変特定の支援に用いる。」


考察

アプリケーションXは、確かに脳波を測定する工程を含むが、家電製品の操作を目的とし、「診療のための情報を提供をすること」が目的ではない。また、「様々な神経学的疾患の試験、精神疾患の評価、腫瘍又は脳表面付近の病変特定の支援に用いる」訳でもない。したがって、これら二つの観点から、アプリケーションXは現行の法制度上「脳波計」には分類されないと主張することができる。

しかし、それら用途以外の目的のためにアプリケーションXが使用される可能性もある。つまり、アプリケーションXの使用目的が家電製品の操作だとしても、診療の目的のために利用される可能性がある。実際Appleはその可能性を否定する難しさから日本国内で新型Apple Watchを売り出す際、心電図機能の実装を断念した。この事実を踏まえるとアプリケーションXも使用目的は診療とは関係ないとしても、診療目的で利用される可能性を否定できないため、医療機器として扱われざるを得ないかもしれない

元々想定していた使用状況は医療の現場なので大きな問題ではないが、このアプリケーションXを一般の健常者が使用できるようにするには、「医療機器」ではないと主張する必要がある。そのためには、アプリケーションXでは、脳波の測定をP300と呼ばれる特定の脳波にのみ注目して行っており、診療のための情報を提供することに繋がらないと主張することが効果的かもしれない。

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