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クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書【第7回】


『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(著:渡邉 格)

クソ世界の片隅で起こす革命

現代社会を否定してファックと叫び、仲間達がそれに同調し、酒を呑み交わし、快楽の果てに夜の公園のベンチに寝そべって星空を眺めて最高な気分に浸り「夜よ明けないでくれ」なんて呟いても、夜は明ける。

昨晩の最高な気分は夜空に輝く星のようなもの。
日が昇れば消えてなくなる。財布の中の金もすぐになくなる。
否定したはずの現代社会のど真ん中で、呆然と立ち尽くし、金を稼ぐために仕方なく労働へ。朝から晩まで忙しく働いて手に入れた金で酒を買い、アルコールの力で退屈な現実からプチ逃避して、酔いの醒めないうちに眠りにつく。

「こんな世の中から抜け出したい」

「ここではないどこかへ行きたい」

いつしかそんな想いを抱き始める。
人生の貴重な時間の大半を、退屈でやりたくもない労働に費やすなんて馬鹿げている。そして、意を決して仕事を辞める。
「これでオレは自由の身だ!ファック資本主義!」
と、思ってもそこはやっぱり資本主義社会のど真ん中。パンクバンドを組んでも、海外を放浪しても、地方に移住しても、働いて金を稼がねば生きてはいけない。結局この巨大な社会システムの外に出る事はできないのだし、いまさら社会主義のシステムがいいものとは思えない。じゃあ、この世界にうまくフィットしないクソ野郎どもは、どうやって生きていけばいいのだろう?

その哲学を『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社刊)の著者である渡邉格は、「田舎でパン屋を営む」というやり方で提示する。とは言っても、ただ単にのどかな田舎で、のんびりとパンを焼いてスローライフを満喫するということではない。資本主義社会の辺境である田舎において、パンを通じて誰にも搾取されない理想的な循環システムを創り出すという革命だ。

資本主義は「利潤」を求めてどこまでも増殖していく反作用として、ブラック企業や過労死などの労働問題、環境破壊や公害、食品添加物や農薬による健康被害、原子力発電所と放射性廃棄物の問題など、人の生活や地球の環境を蝕んでいく。
まちのパン屋も然り、農薬まみれの輸入小麦粉と、純粋培養された工業用のイースト菌を用いて、ブラック企業さながらに早朝から夕方までパンを焼き続ける。そんな経験を経た渡邉格は、田舎でパン屋を開業し、その真逆を目指そうと決意する。

「田舎のパン屋がめざすべきことはシンプルだ。食と職の豊かさや喜びを守り、高めていくこと、そのために、非効率であっても手間と人手をかけて丁寧にパンをつくり、利潤と決別すること」

その言葉通り、地元で穫れた小麦で生地を作り、地元で穫れた自然栽培米を天然菌で発酵させてパンを作る。手間ひまをかけて作った身体にも自然にも優しいパンを、地元の人々が購入し、経済が循環していく。

「僕らは、地域通貨の様なパンをつくることを目指す。パンをつくって売れば売るほど、地域の経済が活性化し、地域で暮らす人が豊かになり、地域の自然と環境が生態系の豊かさと多様性を取り戻すパン」

いくら嘆いても、資本主義の巨大システムの「外」へ出られない。
ならば、その片隅で、想い描く理想のシステムを生み出してみる。自分の時間とお金と健康を、誰にも搾取されないために。辺境で起こすローカルな革命だ

そんな革命の首謀者である渡邉格は10代の頃、学園祭でモヒカンでゲリラライブして停学処分になったという。やはり、パンクスはクソみたいな世界の片隅で革命を起こす。


今日の一冊
『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』
著:渡邉 格
出版社:講談社
発行年月:2013年9月

※本コラムは2018年10月発売予定の『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』(地下BOOKS刊)の掲載内容からの抜粋です。

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