クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書【第3回】
『ガケ書房の頃』
「仲間と一緒に、苦悩しながら変化する」
パンクバンドには短命なバンドが多い。
伝説的なパンクバンドとして誉れの高いセックスピストルズは約4年、マイナースレットは約3年、ブラックフラッグでも約10年で解散した。
解散の理由は各バンドで様々であるが、パンクという音楽の性質として「初期衝動」を原動力とし、「アンチ商業主義」の哲学に基づいて金儲けのことなど考えもせず、瞬間的に燃え盛るような高揚を追い求めるという側面が、パンクバンドの活動を短命にしている要因の一つであると思う。
衝動が無くなり、高揚することも無くなれば、パンクバンドを続ける理由はない。
何かを始めることは難しいようで実は簡単だ、とよく言われたりするが、その言葉の後には「それよりも、続けていくことの方が難しい」とくる。
これはパンクバンドに限った話ではない。
『ガケ書房の頃』(夏葉社刊)は、かつて京都に存在したガケ書房という超個性的な本屋の店主が記した本だ。
ガケ書房は、まず外観からしてぶっ飛んでいて、外壁から半分に切断された車が飛び出していた。筋金入りのパンクスが髪型をモヒカンにする事で自分のパーソナリティを主張するように、壁から飛び出す車は「ただの本屋じゃねーからな!」という店主の主張を感じた。
当然、品揃えも普通の本屋の品揃えではない。売れ筋の商品はほとんど置かず、一癖も二癖もある商品が棚に並ぶ。店主であり、著者の山下はこう言う。
「そのころの僕は、物事の判断基準に〈ロックかどうか〉を用いていた。それは、存在としての異物感、衝動からくる行動、既存とは違う価値の提示、といういくつかの要素を、どれか一つでも兼ね備えているものを示した」
ここで言うロックは、パンクに置き換えても違和感がない。大手資本に頼らず、個人でこのような尖りまくった書店を開業する著者のメンタリティにパンクを感じる。
しかしながら本書は、尖りまくって順風満帆!パンクで最高な本屋だぜ!というだけの話ではない。
開店して2ヶ月で貯金はなくなり、なんとか危機を乗り越えて軌道に乗るも、5年目から売り上げは下がり続け、最終的には10年で店を閉めることになるまでの苦悩が綴られている。
継続するのが困難になった理由を一言で言えば、カネ、だ。利益が出ず、貯金を切り崩し、貯金がなくなれば借金をし、続けていくことが困難になった。
これが厳しい現実だ。カネ。カネ。カネ。どれだけ面白くても、カネがなきゃやっていけない。どれだけ尖っていても、カネがなきゃやっていけない。どんだけパンクでも、カネがなきゃやっていけないのだ。
本書の中で、苦悩している真っ最中の店主は、店を辞めてコンビニの夜勤で生計を立てることや、普通のサラリーマンになって安定した生活をすることに思いを馳せたりする。
そして、苦悩した店主が行き着いたのは、ガケ書房を閉め、ホホホ座という本屋を始めることだった。ホホホ座では、ただモノを売るだけでなく、自ら編集、出版を手掛けてモノを生み出し、自由に活動するスタイルの本屋だ。
カネを稼がなきゃ、やっていけない。なら、どうやって面白くカネを稼いで暮らしていけるか。模索しながら、ガケ書房からホホホ座という新しい形態へと変化していくその様は、まるでマイナースレットからフガジへと表現形態を変えたイアンマッケイ、もしくはセックスピストルズからP.I.Lへと進化したジョンライドンのようだ。
初期衝動は、コトバの通り初期で無くなる。初期衝動がなくなった後にどう考え、どう動くか。それが物事を継続するための鍵となる。パンクバンドでも、何十年も続けながらもカッコよくあり続けているバンドもいる。
苦悩し考え続けること、仲間を大切にすること、行動をやめないこと。
そんなことを本書は教えてくれる。
今日の一冊
『ガケ書房の頃』
著:山下賢二
出版社:夏葉社
発行年月:2016年4月
※本コラムは2018年10月発売予定の『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』(地下BOOKS刊)の掲載内容からの抜粋です。
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