ポーランドのピアニスト二人と「あこがれ」について語る

先月のコペンハーゲンジャズフェスティヴァル取材の間に、現地在住のポーランド人ピアニストSebastian Zawadzki セバスティアン・ザヴァツキに会いに行きました。

セバスティアンは、私が選曲・解説した2枚のコンピ『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)に唯一両方とも入っているミュージシャンで、ジャズだけでなくチェンバーミュージックや映画音楽など幅広いジャンルで活躍する気鋭のコンポーザーです。

郊外の住宅地にある彼のアパートメントに行くと、セバスティアンとルームシェアしている女性録音エンジニアのWeronika Wierzba ヴェロニカ・ヴィェジュバと、彼らの友人でたまたまコペンハーゲンに遊びに来ていたというピアニストのMateusz Sobiechowski マテウシュ・ソビェホフスキも一緒に出迎えてくれました。

↑左から、マテウシュ、ヴェロニカ、セバスティアン

ちなみにヴェロニカはむっちゃキュートな女子なんですけど、エンジニアとしてはかなり凄腕で『ポーランド・ピアニズム』に収録した「ズヴウォカ」も彼女の仕事の一つです。弦楽四重奏団+ピアノトリオによる、素晴らしい楽曲なのでぜひ同コンピを買って聴いてみてください。

ヴェロニカお手製のベジ・キッシュをいただきながら、いろんな音楽の話をしたのですが、マテウシュが「ところで君は、Bogdan Hołownia ボグダン・ホウォヴニャは知ってる?」と訊いてきたのです。もちろん知っています。ボグダンはトルン在住のベテラン・ピアニストで、実はメールで何度かやりとりをしたこともありました。アルバムも何枚か送ってもらったり。

そこでマテウシュが「じゃあ、彼のアルバム『Don't Ask Why』は知ってる?」と重ねて訊いてきて、私のテンションがダダ上がりしました。なぜってそれは、むちゃくちゃ好きで何度も聴きまくっているピアノ・ソロ・アルバムだったからです。

聞けば、ボグダンは以前セバスティアンとマテウシュの大学時代のピアノの先生だったんだそうです。そして『Don't Ask Why』は彼らにとって「どうやったらこんな風に美しくピアノが弾けるんだろう、とずいぶんあこがれたし、コピーしてたくさん研究した」という作品なのだと。

そして、その演奏を二人でハミングしたり、昔たくさんコピーして暗記しているというセバスティアンがピアノに座って目の前で弾いてくれたりしたのです。

↓アルバムの中でも二人が一番愛するという「ニュー・シネマ・パラダイス愛のテーマ」のカヴァー。ちなみに私は同作中では独創的なアレンジの「イパネマの娘」が好きです。シャボン玉がふわふわ浮き上がるようなタッチのボグダンのピアノ、唯一無二です。

彼らの話や演奏を聴きながら、まず単純に「まだ日本ではあまり知られていないけれど、アメリカではなくて、自分の国の先達からものすごく影響を受けた若い世代のミュージシャンがいて、その国なりのジャズの歴史が引き継がれていってるんだよな」と思いました。もちろん、彼らとはアメリカや他のヨーロッパの国のジャズの話なんかもしましたよ。

ちなみに今回の取材旅で、セバスティアンを含め映画音楽を作っているコンポーザー何人かと話しましたが、みんな「久石譲はすごい!」って言ってました。

次に、すごく個人的な感想なのですが「あこがれを持つって、幸せなことなんだな」と思いました。ボグダンの話をしている彼らの顔は楽しそうでしたし、何より彼の演奏をコピーして弾いている時のセバスティアンの「ああ、美しい・・・」と言いたげな幸福そうな、夢見がちな表情がすごく印象的で。

なぜそんなことを思ったかと言うと、ハッピーな彼らの様子を目にしたというだけではなくて、私には音楽ライターとしてのあこがれの存在とか、目標にする人っていないからなんです。自分のやりたいこと、書きたいものがいわゆる音楽ライター的なものからちょっとずれている、というせいもあるのですが、仕事の参考にはさせていただいても、あこがれとか特にないんです。

時々、それってとても不幸なことなんじゃないかと思うことがあるんですね。あこがれって、成長への糧であったり、迷った時の導きであったりするのは確かですからね。そして、他人から謙虚に学ぶということでもあります。

一方で私はいつも手探りで独りきりで歩んでいるし、ああいう人になりたい!っていうピュアなエネルギーはありません。自分が今一つ先に進めていない感じがするのは、ほんとうはそういう気持ちが必要だからなのかもなと悩むこともあります。実際に、そういうあこがれを持っている人のほうがちゃんと結果を出している気もしますし。

最近あるミュージシャンと「先輩がダメになって悲しい」という話になって、オラシオさんもそういうのないですか?って訊かれて、改めて「あ、僕、そういうの全然ないなあ」と気付いたんですよ。

あこがれの人がいるというのは、その人の仕事ぶりにアンテナを張っているということでもあるし、イコールその業界全体のクオリティを見ているということにもなると思うんですよ。だから先輩がダメになったとかいつまでもすごいとかがわかるわけでしょう。私にはそういう感度もほとんどないんですね。

とは言え「じゃああこがれを持つようにする」なんてふうには変われませんよね。こんな私が、もっと先に進むにはどうすればいいんだろう。

セバスティアンたちと話をしていろいろ考えさせられました、という話でした。それにしてもセバスティアンは、会う前はそのルックスからちょっと気難しい感じかなと思っていたのですが、優しい話し方と「ふふふふ」みたいな笑い方をする、あえて誤解を恐れずに言えば女子成分高めのすごく温かい好青年で、あいさつ交わした瞬間に大好きになりました。

では最後に『ポーランド・リリシズム』でもとりあげた「エクリプス・オブ・シャドウズ」も収録されている彼の初ピアノソロ『ルミネッセンス』を。「エクリプス~」はヴェロニカのお母さんが好きな曲なのだそうです。それを聞いて「えっ、ほんと?」と目を輝かせてたセバスティアンの表情がまた微笑ましかった(笑)

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