図書館で働きたい人に捧げるQ&A

最近、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)が指定管理者として運営する佐賀県武雄市の武雄市図書館の拙いあれこれが社会的問題になりつつあり、SNSをはじめ、ネットでも「図書館」がよく話題にのぼっていますね。

ほとんどこれまで「あって当たり前」「本を無料で貸してくれる」という印象しか持たれていなかった図書館という施設は、実は運営するのに相応の知識や技術、専門性が必要なのです。ただ本を集めて、館内の本棚に置いといて貸し出すというだけの場所ではないんですよね。武雄の図書館の件は、ネガティヴな話題ではありましたが、そういう図書館の「専門性」が知られつつあるのは良い兆しなのかなと思っています。

さて、私は業務受託会社の契約社員という形で9年間、公共図書館の図書館員として図書館に務めました。途中3年間は現場主任として数十人のスタッフを管理していましたから、図書館運営やスタッフ採用について多少会社や自治体側にものを言える立場にいたこともあります。その辺にも知識と経験があるってことで、まあ図書館員としてのキャリアは中堅くらいでしょうか?

これまでたくさんの新人さんを見てきて、すごく印象に残っているのは、

「ずっと、図書館で働きたかったんです!」

という言葉です。これはもう、入ってきたら新人さんはほぼ全員こう言います。印象に残っているのは感動したからじゃありません。「そんなに図書館ってみんなの憧れなのか」ということと「今は、結構入るの簡単なのになあ。敷居が高く見られてたんだろうか」ということ、その2つの理由からです。長年図書館の中で働いていると、みんなが図書館について抱いているイメージと現実とのギャップに驚くことばかりです。

最初に書いたように、図書館に興味を持つ人がとても増えています。外からの目線でいろいろ的確なご指摘をされている方も多いです。「図書館にはこうであって欲しい」という理想像があるのもとても素晴らしい状況だと思います。指定管理されようがなんだろうが、公共の施設である限り、図書館は圧倒的多数の「外の人」=自治体住民のあり方に左右されるものだし、そうであるべきです。

でもやっぱり元「中の人」としては思っちゃうんだな。そんなに図書館が好きで、もっと知りたいなら、一度働いてみると面白いのにと。

確かに今は「正規職員」や「その収入だけで自立する」という意味では図書館員という職業はものすごく敷居が高いし、狭き門です。でもバイト感覚なら誰でも働けるので、図書館についてもっと知りたいと思ったら、中に入った方が絶対近道ですよ。申し訳ないのですが、中の人から言わせてもらえば、読み聞かせボランティアなどで図書館に関わっても、図書館については10分の1も知ることができないと思います。

その辺、図書館が実際以上に理想化された空間だと思われているからかえってその内実が世の中に伝わりにくいのかなあとも私は考えているんで、前に採用なんかにも口出ししていた経験を元に、Q&A方式で図書館員のススメみたいなのをここに書いてみます。一度軽い気持ちで図書館で働いてみましょうよ。

「図書館について語るなら現場に入ってからにしろよ」という悪しき現場主義では当然ありません。単純に「図書館で働きたい人って多いんだなあ。今は誰でも入れるのに」ということをお知らせしたいだけなのです。個人的には、いろんなバックグラウンドを持つ人が図書館に関わって行ったほうが良いのかなとも考えていますし、ほんと図書館員の仕事、オススメです!

Q1.図書館で働くには、公務員にならないとダメなんでしょう?
A1.自治体によります。ただ、今はほとんどの自治体が何らかの形で図書館業務に民間業者を導入していますから、自治体職員でない図書館員はかなりの数います。あなたの街の図書館員も請負業者が雇ったバイトやパートだったりする可能性が高いです。ハローワークのサイトの求人情報などをコンスタントにチェックすれば、近くの図書館で求人しているのも見つかるかも知れません。東京都内の図書館で働く兼業ライターの友人によると「本業が忙しくなったのに、東京の図書館は人が足りないので辞めさせてくれない。たとえほんの少しの勤務でも良いから、経験者にいて欲しいと言われた」そうです。東京にお住まいで図書館に働きたい人は、すぐ求人の口を探しましょう!

Q2.司書の資格がないと選考通りませんよね。
A2.受託企業が設定した応募条件にもよりますが、以前採用にも少し関わっていた立場から申し上げると、正直「あってもなくてもどっちでもいい。図書館員としての能力にはあまり関係ない」です。特に、バイトやパートで図書館員を雇用している場合は、接客(主に専用のパソコンを用いた貸出返却作業)と本の配架(本を館内の本棚や書庫に戻すこと)が業務のほとんどなので、高度に専門的な能力は求められていません。今、図書館員として働いている人のうち相当数が司書資格を持っていません。かく言う私も持っていません。ただ、いろいろ外面を良くするために有資格者の数を増やそうとしているのは事実なので、持っている方が通りやすいことは確かです。大学図書館など学術機関の図書館は司書資格必須なので、この限りではありません。

Q3.選考ではどういうアピールをすれば良いんでしょう?
A3.えーと、正直言いまして「図書館がすごく大好きで、憧れの職場でした」とか「本が大好きでよく読んでいます」というのは全くアピールになりません。採用する側は内心では「理想を持っていると、入ったあと失望するかもな」と考えています。また、実際「図書館が好きかどうか」「本をよく読んでいるか」は図書館員としての能力をそんなに左右しないんです。それより「図書館をよく利用していて、どこにどういう本があるのか大体知っています」とか「館内の検索機能で自分で借りたい本を調べています」とか言う方が良いと思います。また「本をたくさん運ぶ仕事だというのはわかっています。体力には自信があります」というのも良いかもです。図書館が意外に肉体労働だというのを知って、がっかりする人もたくさんいるので・・・。

Q4.物静かで知的な職場というイメージが強いのですが・・・。
A4.私の元同僚で、新人さんに対してこういうことを言った人がいます。「図書館って結構肉体労働なので、ホームセンターのバイトに来たとでも思っていてください」。まあ若干誇張していますが(笑)もともと持っているイメージとの落差を考えれば、そんなものかも知れません。おおかたの図書館では、入ったら最初に図書館の本の並べ方と配架について教えると思います。配架は本を何冊も抱えたり「ブックトラック」という巨大な本置きを移動しながら返却された本を書架(本棚のこと)に戻して行く作業です。これはかなりの肉体労働です。しかも適当に置けば良いわけではなく、的確な順番に並べなくてはいけません。図書館界には「配架に図書館業務の全てがある」という言葉がありまして、最初にこれを叩き込まれることで図書館の知的なイメージは消え失せるでしょう(笑)。ただし、これを正確に、それなりのスピードで出来るようになるとある種の快感があるのも間違いありません。

Q5.図書館の本の並べ方っていまいちよくわからないのですが・・・。
A5.これは応募する時にアピールポイントになるので、事前におぼえておくと良いかと思います。図書館は基本「日本十進分類法(NDC)」というのを使って、内容によって本に「分類記号」を割り振っています。館によりますが。CCCが運営する図書館は独自の分類を使って、分かりやすさをアピールする方針です。

例えば「783.7 ヤマ」などですが、最初の数字が7ではじまるものは「700芸術・美術」~「790諸芸・娯楽」まで大まかに10個のジャンルに分かれます。780はスポーツや体育の分野で780~789までさらに細かく分かれます。783はそのうち「球技」にあたります。さらに同じ783に小数点以下をつけて種目ごとに分けます。783.7は野球です。その後のカナは書いた人の名前の最初の2文字だったりすることがほとんどです。

私はこれを「本の住所」として新人さんに教えています。最初の7が県名とか市町村名。その後の8だの3だの小数点以下とかカナは、町名とか番地、マンション名、部屋番号にあたります。この分類記号はだいたい本の「背」(棚に差し込んだ時に手前に見えている部分)の下の方に貼ってある「ラベル」というものに印刷されています。配架はこれを見ながらどこの棚にどの順番に戻すのか決めます。郵便配達と同じです。そして「数字」なので、数字の順番通りに並べられています。今度図書館に行った時は、ほんとにそうなっているか、見てみてください。

Q6.いろいろコンピューターで調べなきゃいけないんですよね?
A6.街の図書館で調べさせられることのほとんどは「この人の本は図書館に置いてますか」とか「どこにあるんですか」とかです。安心してください。パソコンに、言われた書名とか著者名とか入れれば検索結果で出てくるので、その一覧から指示されたものを見つけるだけと言えばかんたんでしょう。ケースバイケースで難易度も変わりますが、基本はそれです。高度な専門的知識なんてなくても務まることがほとんど。図書館の検索機能を使ってググるようなものだと思ってください。あとは、そこで出てきた本が「館内のどこに置いてあるのか」「今すぐ借りれるのか貸出中なのか」を判断できるかどうかが大事ですね。でもすぐ慣れます。そこまでは、誰でもできる仕事だと思いますよ。


という感じで、今の図書館は知的エリートや特別に能力がある人だけが働くハイブラウな職場じゃありません。まあ、前からそうじゃなかったと思いますが、私が聴く限りではそういうイメージを持たれていることも多いようです。現在の公共図書館でよくやられているのが、配架とか単純な貸出返却作業などを民間企業に委託し、司書資格を持った自治体職員がその他「高度な」作業を担当するという分担制の民間委託です。これから図書館で働いてみようと思ったら、当然単純作業の方になるわけですが、逆に「誰でもできる仕事」になっているので「中の人」になりやすいんです。

最後に言っておきたいのは、これを書いたのは「司書資格を持っている人」および「それをちゃんと活かして高度な仕事をしている人」を貶めるためではありません。いろんな人に図書館のありようを知ってもらいたいし、考えてもらいたいからです。例えば私も、資格を持っていないのに入れましたし、仕事ぶりを評価していただいて、現場主任にも任命していただけました。

これは逆に言うと、今の民間委託の環境があったからです。公務員で、かつ司書しか認めないという状態だと、私は図書館員として存在し得なかった。求職活動の偶然の結果とは言え、中の人として図書館の内実を知ることができました。音楽ライターとして勉強になることもありましたし、逆にその能力を図書館業務に活かせたこともたくさんあります。

民間委託が進んだことによる過去の図書館像の喪失を嘆いていても仕方ないので、その環境で生まれる「プラスの要素」を、私は考えたい。出した答が「もっといろんな資質・バックグラウンドを持った人たちがどんどん関わればいい」でした。このことと「官製ワーキングプア」などの労働問題は、別の問題です。

図書館で働くの、楽しいですよ!興味ある方は尻込みしないでどんどん応募してみてください。


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