Tomasz Dąbrowski Ad Hoc / Strings 南博参加のポーランド人TP奏者新作!後編

昨年の秋に来日したポーランド出身コペンハーゲン在住のジャズ・トランペット奏者トマシュ・ドンブロフスキ。彼が日本のベテラン・ピアニスト南博と録音しハイレゾ音源オンリーでリリースしたAd Hoc名義のアルバム『Strings』についてのインタヴュー、いよいよ後編です。リリース元のAirplaneレーベル代表で、本作のプロデューサーを務めた作曲家、川端潤さんへのインタヴューに続き、今回はトマシュ本人に突撃チャットインタヴューしてみました!

オ:ハイ、トマシュ。いま大丈夫?
ト:OK。はじめよう。
オ:そもそも、去年はなんで来日したんだっけ? プロモーション?
ト:Kenneth Dahl Knudsen(注1)の来日メンバーとしてだね。ケネスのベースにRamiro Olaciregui(ギター)、坪井洋(ドラム)、山田貴子(ピアノ)でバンド全員。それから南博や岡本希典とセッションしたり、俺の独奏トランペット・プロジェクトS-O-L-Oで東京での演奏もした。

注1:デンマークのジャズ・ベース奏者 FBページ

オ:君が日本で有名な南博とレコーディングしたって情報、全く知らなかったから「Strings」の発表のニュースはビックリしたよ。録音にいたったきっかけは偶然だったの? それとも来日する前にセッティングしてた?
ト:南さんのことは、彼とコラボしているデンマークのミュージシャン(注2)から聞いていた。だから日本に行く前にいくつか共演のライヴをセッティングしてもらえるよう南さんに連絡はしていた。録音を提案したのは彼なんだ。東京に着く前に、録音の計画があることは知っていたんだよ。

注2:Nils Davidsen(wb),Anders Mogensen(ds)とのThe Modern Trio

オ:なるほど、そういうつながりか。Andersと君はよく共演してるもんね。南や坪井、千葉ら日本のミュージシャンとの録音はどうだった? 日本人ジャズミュージシャンの演奏って、君から見てどう?
ト:南さんとの演奏はファンタスティックだった。彼は優れたミュージシャンでありピアニストであり・・・何より俺は彼のエナジーが好きだな、とても。録音の時を含めて、彼と演奏する機会は何度かあったけど、そのそれぞれがまさに「体験」だった。俺たちはいつも違う曲をやろうとしてたよ。共演した人たちは例外なくユニークで、個性的なサウンドを持ってたね。それにみんな謙虚だし、ベストな態度で接してくれた。時々英語でのコミュニケーションがうまくいかないこともあったけど、言葉を使わないで意思疎通できてたと思うよ。すばらしい体験だったし、何より東京にはすごいミュージシャンがたくさんいるんだなってよくわかったよ。

オ:残念ながら、僕は君の来日演奏を見に行くことができなかったんだけど、観客の様子はどうだった? 日本に来る人はみんな「日本の観客はすばらしい」って言うんだけど、君もそう思う?
ト:ああ。俺のライヴに来てくれた人たちはファンタスティックだったよ。時々エモーショナルな反応になるのも良かった。ほんと、すばらしいオーディエンスだと思うよ。ところで、今度俺が日本行ったら、君は絶対来なきゃダメだよ(笑) 今度は東京以外のところも行きたいなあ。特に京都。すばらしい場所だと聞いてる。
オ:京都は僕にとってもすばらしいよ。ぜひぜひ。

オ:ところで、君は『Strings』の全曲を作曲しているよね。日本のミュージシャンに向けて曲を書くってことで、何か気をつけたこととかある?
ト:このレコーディングは、いつにもましてメンバーの直観的な演奏に重きを置いたってことと、俺の音楽がみんなのクリエイティヴネスに火をつけたってことで、特別にスペシャルなものだったよ。俺のコンポジションって、いつも共演者にすごく練習してもらわないとダメなものばかりなんだけど、今回は、スコアを見せてから2分以内で読んでもらってすぐ演奏、みたいなチャレンジングな感じで進んだ。でもみんなそれだけの時間でしっかり理解してくれて、すばらしい演奏だったんだ。
オ:2分だけ!? そりゃすごいね!
ト:だろ。俺も本当にビックリした。それに、ほとんどの曲がファーストテイクだけで済んだしね。これだけで、今回の日本人ミュージシャンとのレコーディングで成し遂げたことのすごさがわかると思うんだよ。

オ:録音エンジニアの谷澤さん(注3)はどうだった?
ト:彼もすばらしくプロフェッショナルだったね。スタジオに入ってきて、ちょこっとサウンドチェックして、ちょこっと俺たちの音を録音して、彼がスタジオから出て行ったら、もう最高なサウンドが出来上がっていた。彼は日本ではものすごく有名なエンジニアなんだろう?
オ:ものすごく有名とは言えないかもしれないけれど、たくさんのミュージシャンがその仕事ぶりを評価している人だよ。
ト:谷澤さんは、まったくすごい仕事ぶりだったよ。本当に。

注3:Tanizawa Moky Motoki:サウンドエンジニア。主な仕事に、Kazutoki Umezu Kiki Band『Coyote』など。

オ:そう言えば、今回はなんで「Ad Hoc」で「Strings」なの?
ト:Ad Hocという言葉の俺なりの解釈は・・・その場のとっさの創造、予想できないところで人生にもたらされる何か。予想や予測は、音楽を作りだす際の自分なりのあり方や、何かを生み出そうとする瞬間的な決定力を損なってしまう。音楽は「常に」すばらしくあることはできないものなんだ。たとえどんなにすごいミュージシャンがバンドにいてもね。だから瞬間的な創造力がスペシャルだった今回のバンドにこの名をつけるのがふさわしいと思ったんだよ。アルバム・タイトルをStringsにしたのは、このバンド全員が、ひとつの良い響きの楽器のように感じたからだよ。

オ:なるほど。ところでこのアルバムはハイレゾ音源だけのリリースだよね。これは君の意思なの? CDではリリースしないの?
ト:デジタル・リリースだということは最初から決まってた。今のところ、フィジカル・リリースするという話はしていない。(注4)

注4:前編の川端さんのコメントも参照ください 

オ:ここからは「Strings」とは関係ない質問をさせて欲しいんだけど。君も含めて、コペンハーゲンやデンマークを拠点に活動しているポーランドのジャズ・ミュージシャンが多いでしょ。例えばMarek Kądziela(注5)とかAnia Rybacka(注6)とかさ。これって、なぜなのかな。両国は、特に深い関係でもあるの?

注5:マレク・コンヂェラ ギタリスト。Off Quartetなどさまざまなプロジェクトでトマシュとの共演数多し HP
注6:アニャ・ルィバツカ ヴォーカリスト HP

MarekとAnia+クラリネット奏者のトリオ・プロジェクトSphere

ト:ここ数年、外国で音楽の勉強をしようというミュージシャンが増えている気がするね。俺の場合は、デンマークの教育システムと、国民のメンタリティがそうさせたんだよね・・・。でも、一人ひとりに違うストーリーがあるんじゃないかな。デンマークはアメリカと良好な関係を持っていることで知られているし、60年代以降、すごくたくさんのジャズ・ジャイアンツがコペンハーゲンに住んでいるよね。とりあえず、俺はこの二つの国の間にある、教育に対する精神的な違いをすごく感じる。

オ:そう言えば60年代にはKrzysztof Komeda(注7)がよくコペンハーゲンにツアーしてたよね。
ト:そうそう。最近Tomasz Stańko(注8)に会ったんだけど、確かにその話をしてたよ。コペンハーゲンでプレイした、古き良き思い出・・・。ところで君はコペンハーゲンには来たことがあるんだっけ。

注7:クシシュトフ・コメダ ポーランドを代表するジャズ・ピアニスト、作曲家。映画音楽多数。 オフィシャル・ページ
注8:トマシュ・スタンコ ポーランドを代表するジャズ・トランぺッター。コメダのバンドの正トランぺッターだった。 HP

オ:去年君にヴロツワフ(注9)で会ったでしょ。あれが初訪欧だったんだよ。だからまだ行ったことない。
ト:おおっ、じゃあ俺はそんな記念すべき機会に君に会ったんだな。嬉しいな。でも、今はヨーロッパってどこでもいろんな国から来た人にたくさん会えるよね。そうしていろんなコネクションが生まれて、例えばデンマークとポーランドの共演プロジェクトでたくさん仕事してたりするわけだ。

注9:ポーランド第4の都市。南西部に位置する。学生が多く「大学生の街」とも呼ばれている。ジャズ的には毎年11月に行われるJazztopad Festivalが有名。

オ:ところで、さっきポーランドのミュージシャンが最近外国で勉強したがってるって書いてたじゃない。ポーランドの音楽教育環境だと不充分なの? 日本の人たちは、君の国をすごく音楽の教育がしっかりした国だと思っているんだけどね。
ト:そうだね。ドイツ、オランダ、スイス、ノルウェイ、デンマーク、スウェーデン・・・EUの一部になって、ポーランド人の僕らも何の問題もなく自由にそれらの国に旅行したり留学できるようになった。異文化に触れたり学んだり、たくさんの人に会ったりするのはほんとうにすばらしいことだ。そして、俺はデンマークに来てからポーランドって音楽大国なんだなとはじめて気づいたんだよ。でもね、俺が言ってるのはジャズに特定しての話なんだけど、ポーランドの音楽教育は、生真面目だしメインストリーム寄り過ぎるんだよ。ワルシャワではそれはもうハード・バップやメインストリーム・ジャズをみっちり叩き込まれた。けど、俺はもう少し自分自身、自分なりのヴォイスを学べるところに行きたくなったんだ。最近はゆっくりとだけど、ポーランドのジャズ教育も変わり始めている。若くてクリエイティヴな教師もたくさん出て来たし、アイディアをシェアして前に進もうとする人たちもいっぱいだ。ヨーロッパのジャズのユニークさ、クリエイティヴィティをもっと発展させ、その価値を確立するための新しい教育システム、新しい血が必要だと俺は考えている。

オ:同じようなことを、一昨年来日したWacław Zimpel(注10)やJerzy Rogiewicz(注11)も言ってたよ。俺たちの国のミュージシャンはすごい奴ばっかりなのに、なんで教育はいつまでもコンサバティヴなんだろう、若い世代に対する内容じゃないよって。

注10:ヴァツワフ・ジンペル クラリネット奏者、作曲家。現代ポーランド音楽シーンを語る際に必ず名前が挙がるヤング・マエストロ。特にアルト・クラリネットは全ジャンルを通して他の追随を許さない域。イケメン HP
注11:イェジ・ロギェヴィチ ドラマー、作曲家。イケメン

ト:俺も、伝統を知ることは大事なんだと解ってるんだけどさ、でもその知識は、今の時代の、自分たちの音楽を作るために使うべきだよね。自分だけの考えじゃないと知ってとても嬉しいよ。
オ:君の意見を知って、どうして「Strings」の録音が国境も文化の違いも超えて成功したのか、判った気がするよ。伝統は誰にとっても大事なものだけど「すべて」じゃない。いろんな国があって、文化があって、世代があって、それらはみんな等しく大事なんだよね。もちろん、ミュージシャンにとってもね。
ト:同感だね。

オ:トマシュのジャズ初体験って? 僕はエリック・ドルフィーなんだ。父が彼のファンでさ・・・。
ト:それはすごいスタートだね。ドルフィーか・・・。
オ:それで、ある日父がものすごい爆音で彼のレコードを無理矢理僕に聴かせてね。ショックだったよ(笑)
ト:ハハハ! 俺は・・・両親と、田舎で毎年夏にやってたトラディショナル・ジャズのフェスに行ったのをおぼえてるな。両親はジャズなんて聴いてなかったけど、俺はその頃もうトランペットを演奏してて、そのフェスがトランペットとジャズを俺の中で結び付けてくれたんだ。でも、はじめてジャズを聴いたのはその時じゃないと思う。残念ながら、初体験は思い出せないな。あ、やばい、俺、もう行かなきゃ。間に合わない・・・走らなきゃ。じゃ、また。バイバイ!


てな、感じでチャット・インタヴューが終了しました。時間ギリギリまで真摯に答えてくれる、いい奴でした。ヴロツワフで見たコンサートの、ハットにロングコート、長いマフラーの彼の姿はハードボイルドな映画スターっぽくてかなりかっこよかったのをおぼえています。

『Strings』についての具体的内容はそんなに多くありませんでしたが、彼に対する日本語でのインタヴューはたぶんほぼ皆無だと思うので、後半の内容などけっこう貴重かと。あえてノーカット・ヴァージョンでお送りしました。お楽しみいただけましたら、幸いです。

↓Ad Hoc『Strings』の購入先、ライナーpdfなど。ぜひぜひお聴きください!

ハイレゾ音源購入 → http://www.e-onkyo.com/music/album/api1010/ライナー → http://www.airplanelabel.com/news/images/strings-liner.pdf

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

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