見出し画像

ワルシャワで横山起朗さんに出会いました

↓の動画の再生ボタンを押して、音楽を流したままご覧ください

先日、永福町のソノリウムで行われた横山起朗&Tomasz Betkaの完全オリジナル・ダブルビル・ピアノソロ・コンサート「Piano Solo Portraits」に行ってきました。

当日は、私のnote記事やツイッターがきっかけで来てくださった方もいたようで、若くて才能のある横山さんの活動に少しでも力になれたのかな、と嬉しかったです。

そして、何より二人のオリジナルが素晴らしかったのです。トマシュの曲はより「ピアノ・ピース」としての側面が強く、メロディやハーモニー、そしてピアノ自体の音色からも時々ポーランドの薫りが立ちのぼって来るようなものでした。演奏技術も確立されていました。

対して横山さんの音楽はメロディはシンプルでピュアで、ある意味ストレートに感動を刺激してくるタイプなのですが、意図せぬ「ひねり」や「ゆらぎ」があって、単なるキレイな音楽にはなっていません。そして音色とタッチには独自のセンスを持っているように感じました。チェンバーものへの編曲もいけそうな曲想だと、私は感じました。

そして、最初に演奏した即興の曲もとてもインプロとは信じられない構成力と美しさで、私も驚きましたし、連れて行った友人も帰り道で何度も言うほど驚いていました。

↑の曲も当日演奏された横山さんのオリジナルですが、私的には名曲です。ふとした瞬間に頭に甦ってくるほどに。

彼の演奏に生で触れるのははじめてでしたが、未来あるすばらしい音楽家に出会えた自分は幸せだなあとしみじみ思いました。

そんな彼が故郷の宮崎市でもう一夜Piano Solo Portraitsを開催します。場所はサル・マンジャー。近隣のみなさまは、ぜひ足をお運びいただくことをオススメいたします。きっといつまでも思い出に残る、すばらしい一夜になりますよ。8月6日・開場18:30開演19:00・前売券1500円当日券2000円です。

さて、当記事を含め、折に触れ横山さんについて記事を書いている私なのですが、そもそもなぜ彼のことを書くようになったのか不思議に思っている方もいらっしゃるでしょう。

横山さんへのインタヴュー記事、とてもたくさんの人に読まれました。
前編:https://note.mu/horacio/n/nd81acf6f0e5a
後編:https://note.mu/horacio/n/n06f3f6c08199

実は私たち、偶然ワルシャワで会ったんです。その出会いのエピソードをご紹介しますね。

一昨年の11月、ポーランド広報文化センターなど3つの機関から資金援助などを受け、はじめてポーランドに行きました。計2週間いて、ミュージシャンや音楽関係者など計40人くらいに会ったんですが、みんなバンバンCDをくれるんですよ(笑)

その上、最終滞在地のワルシャワで、empikというCDチェーン店が2日限定割引セールをやってたんです。そりゃあ買い込みますよね(笑)。ウェブショップ上だとなかなか見つからないものと現地ならではの最新リリースものをごっそり買いました。

すると荷物が2倍くらいになっちゃって。しょうがないんで箱詰めにしてCDだけ別口で日本に送ることにしました。それで、ワルシャワ在住のシンガーMaya.Rさんにアドバイスいただいて「外国人に一番優しい」というワルシャワ中央郵便局に箱を持って行きました。

しかし、郵便局らしき建物の中の一番手前の部屋は銀行みたいな感じで、全然「らしく」ありません。ここは本当に郵便局なのか? 日本みたいに「〒」マークとかもないんですよね。不安になって、入り口のカウンターに座っている警備員のおじさんに片言のポーランド語で「ここは郵便局?」と訊きましたら「そうだ」と言います。

そこで、持っている箱を見せつつ、さらに片言ポラ語で「日本への小包!日本への小包!」と言いました。すると奥の部屋を指差して「はなもげらヒゲモジャラ○△□◇」とポラ語でべらべらまくしたてます。要するに、そっちの部屋で発送できるってことなんだな。

というわけで奥の部屋に行ったら、やっぱり窓口がたくさんあってよくわからない。ダメだこりゃ。英語ででも教えてくれるっぽい人がいないものかどうか周りを見回してみました。すると、イスに座って手紙を書いているアジア系の青年がいるではありませんか。

近づいてみると、日本語を書いている!

この青年が横山起朗さんでした。「あの、すみません」と声をかけると横山さん、「わっビックリした」と言って露骨に驚いてましたね(笑)

後で訊いたら、まさかワルシャワで日本語で話しかけられるなんて思ってもみなかったとのこと。きっとその頃はどっぷりと慣れないポラ語と英語の波にもまれていたのでしょう。

とりあえず名刺をお渡しして、ポーランドジャズの専門家であること、取材に来たこと、CDを日本に送りたいことなど軽く自己紹介と現状をお話しました。すると、どういう風に受付すればいいのかという説明と同時に彼が「僕は横山と申します。実は、月刊ショパンに今度連載することになっています」と言ったのです。

「ああ、この人は文章を書く人なのか」

と俄然興味がわきました。

でも、その前に荷物を送らないとということで頭がいっぱいでした。ポラ語喋れないんですから、無事送れるかどうか気が気でなかったんです。でも送らなければオーバーバゲージで空港で金を取られてしまう!

なので「まだ留学したばかりで、僕もよくわかってないんです。すみません」と、ご自分の用を済まされた後わざわざもう一度ご挨拶くださった彼と、そのまま別れてしまったんです。

窓口のおばちゃんと片言ポラ語でむりやりカンヴァセして何とか無事発送手続きした後「そう言えば、彼の下の名前も、連絡先も知らないまま別れちゃったなあ・・・」とちょっと残念に思いました。でも、とても礼儀正しい、いい感じの青年で、さわやかな思い出にもなりました。

で、数か月後月刊ショパンに横山さんが無事連載開始しているのを発見し、編集部を通して連絡し、いろいろあって今に至るというわけなのです。なんか、映画みたいでしょ?

遠く離れた外国の街で、たまたま数分間偶然立ち話しただけの青年が、才能あふれる、個人的にも共感できる音楽家で、文筆家だったということ。私はこの出会いに深く感謝しています。そして、才能ある彼にはぜひ成功して欲しいし、そのために私も出来るだけ力を貸したいと思っています。

最後に、横山さんが今回の凱旋に合わせて制作した初のソロ・アルバム『01:61』のご紹介をします。

この不思議なタイトルをつけた理由を解説していただきました。

例えば、2時間のコンサートであれば、お客さんから人生のうちの2時間を頂くことになります。文学、絵画などは、自分の好きなタイミングで読み終えたり、観たり出来ますが、音楽は一曲分聴かなければいけません。つまり、音楽はとてもお客さんの時間を頂いてしまうのです。
なので、僕のCDを聴いた後は、人生の時間が少しでも伸びればいい、という思いで僅かですが、1秒時間をプレゼントするつもりで、01:61になりました。

詩的なコンセプトですね。

白地に黒字のみのシンプルなブックレット型ジャケット。全13曲で、うち3曲がインプロヴィゼイションです。そして、コンポジションにはすべて横山さん作の散文詩のようなショートショートのような短い文章が日本語と英語の両方で添えられています。

例えば、最初の動画でお聴きいただいた「Nowy świat ノヴィ・シフィャト」はこんな感じ。

「新世界通り」

街路を歩けば、必ず誰かとすれ違う。
誰かとすれ違わないと、どこにも行くことは出来ない。

だから、わたしは街路がキライだ。

by 横山起朗

とてもポエティックで、イマジネイティヴで「入り口が広く開かれている」一枚です。ライヴ会場でも販売していますよ!

彼の音楽はCMとか旅番組映えすると思いますし、日本人の心にもきっと合います。それでいて、もっと深く日常にも馴染むような。

彼のアルバムの日本盤リリースや楽曲使用が早く現実になるといいな。関係者の方で、彼にコンタクト取りたい方は橋渡ししますのでぜひご連絡ください。

では最後にもう一曲。最近横山さんがドはまりしているというスワヴェク・ヤスクウケとピョトル・ヴィレジョウによるピアノ・デュオの「Kind Folk」。曲はカナダ出身の名トランぺッター、故ケニー・ウィーラーの作曲。横山さんの音楽スピリットに深く通じる演奏だと、私は思います。


フリーランスのため、みなさまのサポートは取材や執筆活動の貴重な経費とさせていただいております。また、サポートいただくとものすごく励みになります。最高のエネルギーです。よろしくお願いします。