ポーランドのヴォイテク・マゾレフスキ・クインテット来日! そしてYASSのこと

現代ポーランドジャズシーンの中でも最重要人物のひとり、ベーシストのヴォイテク・マゾレフスキ Wojtek Mazolewskiのクインテットが初来日します!

公演情報は下記の通りです

9/19 代官山・晴れたら空に豆まいて 開場11:30/開演13:00
9/20 高崎音楽祭2016 開場18:30/開演19:00
9/24 Blue Books cafe 静岡店 開場18:30/開演20:00

ヴォイテクは90年代以降のポーランドジャズシーンにおける最重要人物のひとりで、パンクやエレクトロニカ、ポスト・ロックにエクスペリメンタルやフリー・ジャズなどが入り混じったポーランド独自のミクスチャー・ジャズ「ヤス YASS」の中心人物でもあります。

YASSシーンにおけるヴォイテクの活躍ぶりについては後述するとして、まずは今度来日するこのクインテットについてご紹介しましょう。

トランペット&サックス+ピアノトリオという編成は従来のジャズ・コンボと何も変わらないものですが、ポップ・ミュージックと並行して若者に受け入れられてきたヴォイテクのキャッチーなジャズ・センスが凝縮したサウンドです。

とりあえずこのバンドでは例外的にエレクトリック・ベースに持ち替えたこの曲のPVのカッコよさ、ポップさはかなりアピールしてくるものがあります。まずはこの曲で彼の音楽のフィーリングをつかんでいただければ。

リリースされたアルバムは現在3枚。中でも最新作『Polka ポルカ』(2014)は世界各国の都市名が曲のタイトルの多くに採用されている充実作で、ヴォイテクがこの編成でやりたい音楽が完成したと言えます。私もたびたびこの作品をSNS上で紹介していますが、みなさんからの反応がとてもいいです。というわけでその『Polka』から2曲どうぞ。

ところでヴォイテクが「今」っぽいのは、ヒップホップのミュージシャンやDJと組んで自分の曲のリミックス・ヴァージョンもリリースすることなんですね。そちらでは思いっきり現代のポップ・ミュージックになっちゃっています。例えばこんな感じ。

ポーランドで今いちばん売れているポップ・ユニットの一つThe Damplingsの女性ヴォーカリスト、ユスティナ・シフィェンスをフィーチュアし、リミックスはこれまた超人気エレクトロニカ・デュオのルィスィ Rysyが担当したもの。上記『Polka』収録の「Paris」が新しく生まれ変わったものです。DL販売↓もしていますよ~♪リリースは5月末から6月頭にかけてアーティスト計6名が来日していたU Know Me Records

https://uknowme.bandcamp.com/album/wojtek-mazolewski-quintet-polka-remixed

他にも、一番最初に紹介したPVの「Nionio ニョニョ」もこんなん↓になっちゃっていました(笑)。

さてこの辺でメンバーについてもご紹介しましょう。

まずは鍵盤のヨアンナ・ドゥダ Joanna Duda。モヒカン頭の印象が強烈な女性ピアニストですが、素顔はとてもシャイで、しかもアカデミックに現代音楽系の作曲を学んできたエリートです。これまで現代舞踏家カタジナ・パストゥシャク Katarzyna Pastuszakの舞踏作品の音楽制作&伴奏や自身のエレクトロ・ジャズ・デュオJ=J(JイコールJ)で何度か来日したことも。何と、私の住む青森市にも来たことがあります!

サックスはマレク・ポスピェシャルスキ Marek Pospieszalskiです。ポスピェシャルスキ姓のミュージシャンはかなりたくさんいて、マレクと同姓同名の中堅もいるのですが、彼はまだ若手世代の奏者です。同世代のミュージシャンたちとともに、メインストリームからガチガチの即興まで、幅広く活動しています。ここでは新人ピアニストのクバ・プウジェクのデビュー作での演奏を聴いていただきましょうか。

トランペットはスロヴァキア人で、ポーランドのジャズ作品にもよく参加しているオスカル・トゥルク Oskar Török。中欧3ヵ国の越境ユニットで、ミステリアスでエクスペリメンタルなジャズのVertigoのメンバーとしてもよく知られています。他にもチェコの才女イヴァ・ビトヴァー Iva Bittováや女性チェロ・デュオのタラ・フキ Tara Fukiなどの作品にも参加しています。

そしてドラムはクバ・ヤニツキ Qba Janicki。ポーランドのエクスペリメンタル/インプロ・シーンを股に掛けるドラマーです。普段はそっち(実験・即興系)の方で活躍しているのですが、このヴォイテクのバンドみたいなポップなのももちろんバッチリ叩けますし、Vienioというヒップホップ・ユニットの作曲とプロデュースを担当したりもする才人です。と言うか、ポーランドのジャズ・ミュージシャンってみんなこんな感じで幅広いんですけど(笑)。

こんな多才な5人が集まったクインテットが来日なんです! 代官山晴れ豆か高崎か静岡のどれか、絶対行った方がいいですよー。私的にはむしろ、ジャズをはじめて聴く人にこそ行って欲しいです!

さて、最後にオマケでヴォイテクとYASSの話を。本題のヴォイテク・クインテットのご紹介は終わったので、興味ない方はここで読み終わっても大丈夫ですよ。

ポーランドジャズの面白いところのひとつに、国の転換期で、若者文化の象徴としてジャズが盛り上がるということが挙げられます。

特に50年代後半から60年代にかけては、アンジェイ・ワイダロマン・ポランスキイェジ・スコリモフスキら天才映画監督たちと、クシシュトフ・コメダアンジェイ・チシャスコフスキらジャズ・ミュージシャン、そしてヴォイチェフ・キラルタデウシュ・バイルトら現代音楽作曲家たちの交流が盛んで、彼ら自身も若者だったことから、若い世代の間でジャズが盛り上がりました。ちょうどソ連のスターリンが死んでやや自由な空気が流れたのと、ジャズの持つ自由で先進的なタッチがシンクロしたんですね。

そして、90年代はポーランドが長い共産圏時代から抜け出し、民主化に向けて歩み出した激動の時代。この時も自由を求める若者たちの希望に、ジャンル関係なしのごちゃ混ぜミクスチャーのYASSのムードがフィットしたってわけですね。若者ならではの反抗的な不良性みたいな風合いもYASSのミュージシャンの特色でした。

そんな時代のムードに後押しされて、その確かなベース・テク、ロック・スター的なルックスとファッションで人気を博したのがヴォイテクなのです。

ちなみにYASSシーンのスターとしては他に、ヴォイテクのお兄さんで来日経験もあるバスクラ奏者のイェジ・マゾル Jerzy Mazzoll、サックス奏者のミコワイ・チシャスカ Mikołaj Trzaska、ベーシストのティモン・ティマィンスキ Tymon Tymańskiと彼のバンド「ミウォシチ Miłość」、サックスのマレクも参加していたTie-Breakのリーダーでギタリストのヤヌシュ・イヴァィンスキ Janusz Iwańskiらがいます。

ヴォイテクは同時に、非常に先鋭的で「今の音楽」への嗅覚が鋭いコンポーザーでもありました。彼はYASSシーンの中では飛び抜けてロックやヒップ・ホップ、ポップ・ミュージック寄りの音楽性を打ち出して行きます。

彼の人気爆発のきっかけとなったのはピンク・フロイト Pink Freudというミクスチャー・ジャズ・ユニットでした。イギリスのプログレ・バンドの巨匠ピンク・フロイドをもじったこのユニットで、ヴォイテクは何度も来日しています。パンク、エレクトロニカ、民俗音楽、ポスト・ロック、ヒップホップなどがミックスされた彼らの音楽は、ジャンルを問わず若者に最も新作を期待される存在となりました。

このバンドはヴォイテク以外はメンバーが時々替わって、現在も元気に活動中です。最新作は何とイギリスのエレクトロニカ・ユニット、オウテカのカヴァーだけで全曲を埋めるという狂ったコンセプトの『Plays Autechre』です。

また、このバンドはサポート・メンバーとして、今年前半にピアノソロ作『Sea』で超話題になったスワヴェク・ヤスクウケや東京ジャズで来日したことがある奇才マルチン・マセツキなどのピアニストたちが去来したことも特筆すべきトピック。

ちなみにヴォイテクは90年代以降のポスト・ロックとかも普通に大好きで、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンニルヴァーナなんかもよくカヴァーしています。国内のDJやラッパーとも深い交流があり、最近はオルタナ・ロックの人気バンド、ラオ・チェ Lao Cheとピンク・フロイトを合体させたユニットJazzombie ジャゾンビなんかもはじめました。

アヴァンギャルドな要素をぶち込みながら限りなくポップにグルーヴィーに音楽をまとめ上げるセンスでは、ヴォイテクはポーランドでも図抜けていて、まさに若者に愛されるごちゃまぜジャズであるYASSの申し子。

ポーランドにおいて彼は、アメリカのロバート・グラスパーのようにジャズをポップ・ミュージックとして成立させる第一人者であり、最近は俳優としてもデビューしていて、ますます手が付けられません。

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

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