ハコモノ行政と言うけれど

いいミュージシャンが来ても、東京ばっかりで地方には全然来ない。

これ、もう昔の話じゃありませんか?

仕事がら、ポーランドや中欧のミュージシャンに「どうやったら日本でツアーできるだろう?」って質問されることが多いのですが、いろいろ説明することの中に、次のような話を混ぜています。

今、日本の地方にはカフェとかを兼ねて、固定ファンがついた面白いハコがいろいろあって、まだ知名度の高くないヨーロッパや南米のミュージシャンは、そういうところを周っているんだよ、と。

そういう話をする時に念頭に置いているのは、姫路のHUMMOCK cafeなんですけれども。このお店はレーベルも持っているんですよね。音楽好きやオシャレな場所が好きな人が集まるカフェ、音楽イベントを開催するハコ、音楽の発信などのいくつもの役割を兼ね備えているお店というわけです。

決して批判しているわけではないのですが、地方で音楽を聴ける場所と言うと、爆音でジャズをかける古き良きタイプのジャズ喫茶とか、お酒しか出てこないライヴハウスとか、音楽に特化したところが多いんです。そういう場所はそういう場所で必要なのですが、音楽との付き合い方ってそれだけじゃありませんよね。

BGM的な音量でちゃんとセレクトされた良い音楽が流れていて、清潔感があって居心地が良くて、おいしい料理やスイーツとかもいただけるお店でゆっくりくつろぎながら、空気を吸い込むように音楽を聴く。

そういう音との関係を演出する場所も、同じように必要だと思います。どっちがいい・悪いではなくて、選択肢があるということが大事なんですね。また、そういう形で音楽を聴けるお店は、その地域の「サードプレイス」として機能する可能性もあります。

最近はアラフォー以下くらいの比較的若い世代の人が地方に移住することが増えてきていますから、こういうお店もだんだん出来ていますし、これからも増えて行くんじゃないかと思っています。

一方で、私は地方都市によくある「ハコモノ」の価値を見直す必要もあるんじゃないかなと考えているんです。何億・何十億もかけて建てた立派なホールとか、こんな田舎にあったって宝の持ち腐れじゃねえか、もったいないことしやがってと感じている地元住民のかたも多いでしょう。でも、そんなハコモノがあなたの街にあるのって、すごく運がいいことかもしれないんですよ。

こういうことを考えるきっかけになったのは、今年の5月、札幌のPROVOで藤本一馬、林正樹、ヤコブ・ブロのコンサートを見た後、藤本さんと交わした会話でした。

次の日藤本さんは遠く離れた北見市でライヴすることになっていて、朝早く起きて長い距離を移動しなきゃいけないので大変だみたいな話になったんです。それで「どうして北見でやることになったんですか?」と訊いたら「北見に僕たちを絶対に呼びたいという熱い人がいてくれたから実現したんだけれども、ポイントになったのは、とてもいいホールがあったから」と答えてくれたんです。

それは、北見市にある石倉交流センターのホールでした。

彼の返事を聞いて、よくハコモノ行政とか言って地方の「まず立派な建物を」という政治のやり方に批判が集まるけれど、ハコモノそのものの存在はけっこう文化にとって大事だよなと思ったんです。問題は運営のやり方なんですものね。

十何年腰を据えて住んでみてわかったんですが、地方の街って、過疎化しない限りは、けっこう面白い文化に敏感でいろいろやってやろうという意欲的な人がちらほら継続的に出てくるものなんですよ。その「いろいろやってやろう」には、いいミュージシャンを呼びたい、音楽イベントを企画したいということも入っています。

で、ミュージシャンを呼ぶときに何を考えるかと言うと、もちろん第一に集客の問題で、出来るだけ多くの人の前で演奏して欲しいと思います。でも同時に、良い雰囲気、良い音響などを兼ね備えた優れた環境のハコにお迎えして、万全の状態で演奏していただきたいとも考えるんですよね。

演奏するほうも、良い音響のホールで演奏するのはとても気持ちがいいらしいので、ちゃんとしたハコがあるって「行ってもいいかな」と思うきっかけになるのではないかと。

HAMMOCK cafeさんやPROVOさんのようなお店は、これから個人の才覚と熱意によって地方にもどんどん現れると思いますが、同時に、地方にはまだまだちゃんと活かされていない公営のハコモノもあるような気がするんです。

逆に言うと、たとえ現状では運営がちゃんとなされていないハコモノでも、そこにありさえすれば、やりようによっては素晴らしい音楽家を招聘できる可能性は無ではないということです。そういうホールが、あるのとないのとでは大違いなんですよ。

なんたって、良い音楽ホールは一朝一夕には建ちません。個人の力では作れないものですから。過去にどんな黒い政治で建てられたものでも、そういう施設が自分の街にあるというのはある意味すごい奇跡なんですよね。

なので、さびれた街なのに不釣り合いな立派な音楽ホールがある、金の無駄だってもし思っているなら、建った経緯のことはいったん忘れて、そこを使って何ができるかとか、何かやりたい人がいないかとかなど、これからのことを考えたほうがいいと思うんですよ。

今はネットで情報も拡散できますし、クラウドファンディングでお金を集めることすらできます。つまり、あなたの街に眠っている良いホールを活用して、他にはないミュージシャン招聘企画を立ち上げられたら、よそからわざわざ聴きに来ることもあるわけです。でも、そもそもそういうホールがなければ企画も立てられないですよね。

それくらい、人が集まることができる、人を呼ぶことができる「場」の存在というのは大事なものなんです。何もないところに人は来ません。ハコモノ行政って言うけれど、案外その金食い虫のハコモノがあるのは捨てたもんじゃないのではと思います。

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オラシオ

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オラシオ

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