カッコいい音楽が「聴ける」ポーランド映画10選

今年もまた11月下旬からポーランド映画祭が開催されます。今年もまたすばらしい名作と新作の数々が日本の観客のみなさんの心をとらえることだろうと思います。

さて、この季節が近づくたびに私はいつも「ポーランド映画を観る楽しみのひとつに"音楽"がある!」と言い続けてまいりました。

もちろん私が言い始めたことではなく、アンジェイ・ワイダ(ヴァイダ)ロマン・ポランスキの映画がほぼリアルタイムで公開されていた60年代から、当時の映画青年たちにその音楽(特にジャズ)が感銘を与えていたのだと多くの方からお聞きしています。

私の役割は、それを「個人の思い出話」にとどめないで、今もポーランドでは映画と音楽の蜜月は続いているし、この国の映画の中の音楽のすばらしさはもはや伝統なのだと解説し、現代の日本の方たちに伝えることだと思っています。

さて、というわけでこの映画を観たらカッコいい音楽、感動する音楽、音楽家も唸るようなハイ・クオリティな音楽も聴けるぜ!というポーランド映画を独断と偏見と妄想で選びました。邦題/原題/(映画監督)/公開年です。いちおうポーランド映画祭をはじめ、日本で一度でも配給されたことがある作品だけを選びました。ランキングではないので、順不同です。

1.水の中のナイフ Nóż w wodzie(ロマン・ポランスキ)1962
音楽はポーランド・ジャズ最高の作曲家のひとりで、この国の音楽史上もっとも重要な音楽家のひとりでもあるクシシュトフ・コメダ。サックスにスウェーデンのベルント・ローゼングレンを迎えたクアルテットによるモダン・ジャズのスタイリッシュなカッコよさと、映像とのマッチングが見事。マーティン・スコセッシだか誰だか有名な映画監督が「これほど映像と音楽がシンクロした映画は観たことない」と激賞してたほどです。

2.大理石の男 Człowiek z marmuru(アンジェイ・ヴァイダ)1976
ひところヴァイダと映画史に残る名コンビを結成していたアヴァンギャルドでサイケな異色の映画音楽家アンジェイ・コジンスキの、全キャリアの中でも特筆すべき仕事。ジャズ・ロック全開のエッジの効いたサウンドが主人公の突進系女子大生のカッコよさにがっつりフィット。ソフト・ロック・コーラス・グループ「アリバプキ」が歌うディスコ調の主題歌も推しです。

3.沈黙の声 Nikt nie woła(カジミエシュ・クッツ)1960
現代音楽の隠れ王国であるポーランドの中でも、この国を代表する偉大な作曲家として知られるヴォイチェフ・キラルによる作曲。キラルも近年の映画ではサウンドトラック然としたこなれた音楽を作るようになっていたのですが、この頃はまだアヴァンでシャープなコンテンポラリー・サウンドでやんちゃしています。この映画の音楽は、内橋和久さんもほめていらっしゃいました。

4.夜行列車 Pociąg(イェジ・カヴァレロヴィチ)1959
コメダのライヴァルで、良き音楽仲間でもあったジャズ・ピアニスト、アンジェイ・チシャスコフスキが音楽監督を務め、さらに彼ら二人と並ぶ才能あふれるジャズ・ミュージシャンだったアンジェイ・クルィレヴィチヴァンダ・ヴァルスカが録音メンバーとして参加したポーランド映画史に残る至宝的傑作。現代音楽風ジャズのスリリングな響きと、ヴァルスカが歌うミステリアスな「ムーンレイ」にノックアウトされた方、ほんとに多かったみたいですよ。

5.エヴァは眠りたい Ewa chce spać(タデウシュ・フミェレフスキ)1957
第二次大戦中に「Pocket Jazz」というジャズ・バンドでサックスを吹いていたという、まさにポーランド・ジャズの草分け的なところからキャリアをはじめた作曲家ヘンルィク・チシュによるすばらしいミュゼット風主題歌が何と言っても魅力的な一作。のちにポランスキの最初の妻になるバルバラ・ハス演じるキュートなヒロインにもやられます。

6.カラスたち Wrony(ドロタ・キェンジェジャフスカ)1994
ポーランド人ジャズ・ミュージシャンとしてはじめてグラミー賞を受賞したピアニストで「ジャズ界のホロヴィッツ」と異名をとるヴウォデク・パヴリクの映画音楽デビュー作。実力派サックス奏者ミハウ・クレンティらジャズ・サイドからのつわものたちの参加もあり、非常にクオリティの高い音楽になっています。哀愁あふれる旋律のメイン・テーマは後世に残る名曲。

7.パプーシャの黒い瞳 Papusza(ヨアンナ・コス=クラウゼ&クシシュトフ・クラウゼ)2013
ポーランド最高のSSWのひとりマレク・グレフタ(ブラジルで言うとシコ・ブアルキみたいな感じかも。違うか笑)のバンド「アナヴァ」のメンバーで、ほとんどの曲を書き彼の懐刀的な存在だった鍵盤奏者ヤン・カンティ・パヴルシキェヴィチによる壮大なフェイク・ロマ音楽の魅力が炸裂しまくった傑作。劇中でロマたちが演奏するいかにもな音楽は、実はすべて彼のオリジナルなのです。

8.幸せのありか Chce się żyć(マチェイ・ピェプシツァ)2013
気鋭の若手映画音楽家バルトシュ・ハイデツキによるミニマルで静謐なチェンバー・ミュージックが水滴のように心に沁みていきます。自身も映画音楽家としてのキャリアを歩みつつあるジャズ・ピアニスト、セバスティアン・ザヴァツキのピュアな音色もやられます。脳性麻痺の青年男性をまるでドキュメンタリーのごとくリアルに演じたダヴィト・オグロドニクの演技と、気持ちが温かくも痛くもなる、淡々と進行するストーリーもすばらしいです。

9.真夜中のふたり Płynące wieżowce(トマシュ・ヴァシレフスキ)2013
新進インディーポップ・アーティスト「バーシュ Baasch」ことバルトシュ・シュミットによる音楽制作も話題を呼んだゲイ映画。主人公たちがその日常を送る都会の夜のムードがそのまま乗り移ったかのような、ややインダストリアルでほの暗いアーバン・エレクトロ・ロックが全編に流れます。ストーリーも含め、強烈にポーランドの今を感じる作品ですね。

10.イレブン・ミニッツ 11 minut(イェジ・スコリモフスキ)2015
ジャズ・ミュージシャンたちからも信頼が厚い現代最先端の現代音楽家パヴェウ・ムィキェティン(通称「ミキちゃん」)の、目下大絶賛中の家路スコ御大最新作での仕事。劇中のノイズと彼の控え目かつ説得力ありまくりの音楽が相乗効果で音響のシンフォニーと化しています。どこかポスト・ロックな感覚すら感じさせるノイジーなサウンド。人脈もジャズからロックまでクロス。詳しくは私が執筆した劇場販売パンフのコラムを読んでね♪

ボーナス・トラック
ポーランド人の映画監督が海外で撮影した作品からいくつか。

出発 Le Départ(イェジ・スコリモフスキ)1967
スコリモフスキがベルギーで撮影した青春映画の佳作。ミシェル・ルグランの姉クリスティアーヌを起用したメロウな主題歌、ガトー・バルビエリドン・チェリーも参加したアヴァン・テイストのジャズ・サウンドはクシシュトフ・コメダによるものです。サントラは音楽ファンには超人気の一枚。

ふたりのベロニカ La Double Vie de Veronique(クシシュトフ・キェシロフスキ)1991
解釈が分かれる不思議さと美しさを持った作品を数多く撮ったキェシロフスキの最高傑作に挙げる人も多い幻想譚。舞台となっているフランスとポーランドの両方で撮影されました。音楽は彼と名コンビを組んだズビグニェフ・プレイスネル。ヒロインの片方がオペラ歌手ということもあり、劇中ではふんだんに音楽が流れます。そのヒロインの歌唱をあて録りしたのはポーランド最高のソプラノ歌手エルジュビエタ・トヴァルニツカ。古典オペラから現代音楽、映画音楽まで幅広いジャンルで歌っているマエストロです。

➌ポゼッション Possession(アンジェイ・ジュワフスキ)1981
ジュワフスキはズラウスキーのことです。変態監督と変態作曲家と変態女優と組んで出来上がった変態映画。作曲家はアンジェイ・コジンスキで、女優はイザベル・アジャーニ。フランスと西ドイツで撮影。コジンスキ節全開のクレイジーなサイケ・サウンドは強烈。

という感じで、ポーランド映画を観るとセットでポーランド最高の作曲家たちの音楽もついてくるのです。音楽を聴くためだけに観に行っても決して損はしない。音楽大国ポーランドとは、そんな国なのです。

ちなみに、この国の人たちがどんだけ映画音楽が好きかは、映画の名シーンをバックにオケやバンドがその映画の音楽を生演するクラクフ映画音楽フェスの存在でもよくわかります。ほんま、どんだけ好きやねん。

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

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