図書館本は、そっと返すだけ・・・

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スポーツマンガの金字塔『スラムダンク』の名言「左手はそっと添えるだけ」を意識してタイトルつけたのですが、まったく意味がわかりませんな(笑)

先日こんなことがありました。仕事で一週間ほど上京し、立川に泊まったので多摩モノレールの「立川北」駅近くの立川市立中央図書館に行ったんです。

まあ一応音楽ライターなので視聴覚コーナーでCDの品揃えをチェックしていたら、ジャズのコーナーの中に間違って落語のCDが入っていました。私は元・図書館員なので請求記号(後述)を見たら、戻すべき正確な場所もわかります。なので普通は、こっそり正しい場所に置き直します。

ですがそのCDには「新着」と書かれたシールも貼ってありました。つまり、特別なコーナーに入っているものの可能性が高い。ここから先は余計なことはしないほうがいいと思い「これ、ジャズのところに入っていましたよ」と近くのカウンターの図書館員さんにお渡ししました。「ありがとうございます!」と大変感謝されました。

実はこれ、図書館員にとってはすごく「あるある」なのです。

そして、図書館員が日々悩まされている下の2つの問題にもつながるんですよ。

その2つとは、

1.借りた本をうっかり破いてしまった時に自分で修理してしまう
2.書架(本棚のこと)から取って読んでいた本を勘で戻す

ですです。

この2つには、共通する特徴があります。それは、

①親切心や良心の呵責みたいな気持ちからやっている。悪気は一切ない
②図書館側が使っているルールを全く知らないからやってしまう
③実はこれをやられると、一番困る

ですです。

さて、詳しく説明しましょう。

まず、図書館の本は本屋さんで買って来たものをただそのまま置いているわけではなくて、独自のルールやツールを使って装備したり並べたりしています。

そしてそれらのルールやツールは、自分の家の本棚に保管しておくレベルとは違い、万の桁に及ぶたくさんの本をずっと集め続けて整理して利用者がわかりやすくアクセスできるようにする。そして、より長持ちするように工夫がされているものばかりなのです。

例えば1.ですね。子どもが破いてしまったという絵本を親御さんが一生懸命セロテープでくっつけて返しにいらっしゃることがとても多いのです。

平謝りされているところに追い打ちをかけるようになるので言いにくいのですが、私たち図書館員はそういう方に対して、このようにご説明します。

「もし破いたり汚してしまった場合は、何もしないでそのまま持ってきてください」

実はセロテープって長い時間経つと黄色くなって貼った部分の文字が読めなくなってきたり、縁の部分からねばねばしたものを出して他の部分もダメになってしまったりするのです。

つまり、かえって本を傷めてしまうんですね。

図書館では、破れた本には専用の修理素材を使って対応します。それらは、出来るだけ経年劣化をしないように開発されたものです。

なので、図書館員はセロテープで貼られているものを見つけた場合は、テープ剥がしという液体やカッターナイフを使ったりして、時間と労力とテクニックをかけて、全て一度剥がしてしまうのです。そして改めて、利用者が傷つけてしまった状態に戻してから修理をはじめます。

図書館員の仕事ってそういう職人的作業にものすごく手間がかかっていますし、作業時間の捻出も大変なんです。1.のような方がとても多いので、修理しきれず書架に出せない本がかなり溜まっていることも。。。

他にも、2.の説明で後述する「ラベル」や、パソコンでの貸し借り処理用の「バーコード」など、図書館本にはいろいろ必要なものもくっついています。「ブッカー」という独自のカバー素材でくるんでいる場合もあります。

参考に、図書館備品の最大手「キハラ」のサイトなどご覧になってみてください
http://www.kihara-lib.co.jp/

で、傷つけてしまった本をご自分で修理される際に、これら一見「余計なもの」を取ってしまわれる方もいらっしゃいます。

これは図書館用の装備を一からやり直さなくてはいけなくなるので、本当に大変なんですよねー。そして、それには当然備品代が新たにかかります

これと同じで、書架から取って読んでいた本を「図書館員の手を煩わせるのは申し訳ないので・・・」ということで間違った場所に戻してしまう2.もあります。

これもまた「自分の家の本棚とは違う」ということを考えていただけるとありがたい案件です。

とは言え、分類ってなんだか難しそうじゃん・・・・。

こういう方にはこちらの対応がオススメ。たいていの図書館には「読んだ本置き場」みたいなものが備えつけてあります。どこから取った本でも、近場のそれにただ置いていただければいいのです。

どうですか、これで少し楽になりませんか?

私たち図書館員はそこにある本を回収するのをめんどくさがってなどいないので、出来ればそういうところに置いておいて欲しいと思っています。

どうしてなのでしょうか。

図書館には通常何万冊もの本が所蔵してあります。この数の本を「何となく」置いていたのでは、すぐにどこに行ったのかわからなくなってしまいますよね。

ちょっと想像してみてください。自分の大邸宅に、図書館と同じくらいの大きさ・広さの本棚があったとします。そして、メイドや執事など、自分ではない人が日に数冊ペースでいろんなジャンルの本を買ってきて、ランダムにどんどん詰め込んでいきます。

普通の家の本棚のような、一目見て棚のほとんどが把握できるスケールならどこに何があるか、並びが勝手に変わったりしてもわかりますが、上で書いたような規模なら、あっと言う間にどの本がどこに行ったのかわからなくなってしまうのです。そしてお目当てを見つけるためには膨大な広さの本棚の全てを探さなくてはならなくなってしまいます

というわけで、図書館では通常NDC(日本十進分類法)というルールを使って、本をわかりやすく、誰でもかんたんに見つけられるように並べています。このNDCについての詳しい説明はこの記事の一番後ろに書きましたので、お時間ある方はそちらもご覧いただけますと幸いです。

まあとにかく、そのルールがあることで、一見適当に本棚に収まっているように見える図書館の本が、実は「一冊一冊」レベルで場所がわかるようになっているということだけご理解いただければと。

で、悪気はなくて、ただ「取り出したものは戻さねば」というお気持ちで、書架から取って読んで、それを完全に元あった場所ではなくて「同じ棚の違う段」とか「同じ段の端っこ」とかに戻す方が、ものすごくたくさんいらっしゃいます。

先に書いたように、分類とデータで一冊レベルで位置が決まっているので、その「本来あるはずのところ」と違うところに行ってしまうと、再び探し出すのが難しくなりますし、他の利用者の方も、検索機のデータを見て自分で探せなくなってしまいます。適当に戻すことは、他の人が利用できなくなる可能性も生むんですね。

なので一番ありがたいのが、

「読んだんだけど、戻す場所がわからなくなってしまって・・・」と言って図書館員に直接手渡していただくことなのです。これが一番確実です。「戻す場所がわからない」と言うのが嫌なら「やっぱりこれは借りないことにしました」でもいいんです。

この「親切心から違う場所に戻してしまった」ことから来る行方不明本が、図書館では大量発生します。次に見つかるのは、業界では「曝書(ばくしょ)」などとも呼ばれる蔵書点検の時まで待たなくてはいけない場合もあります。その間見つからないのですから、利用者も読めないし借りられません。

でも、本の砂漠の中の一粒として、きっとどこかにはあるのでしょう。

その行方不明本探しもなかなか多くの集中力と時間を要する作業で、経費削減や民営化が進む現代日本の図書館事情だと、満足にその作業を行える余裕のある人員体制になっていない場合もあります。つまり、一度違う場所に置かれるとしばらく見つからないままになるパターンが増えているということです。

それもこれも、図書館ではこういうツールとルールを使って本を保存し整理しているんだよってことを積極的に自治体が利用者に伝えてこなかったせいでもあると思います。どういうルールで管理されているのかわからなければ、やっぱり自分ルールで良かれと思うことをやってしまいますよね。

なので、

図書館本は、例え傷つけたり返す場所がわからなくなってしまっても、そっと返すだけ・・・が一番ありがたいのです。

傷つけてしまったとか返す場所がわからないと言われても、図書館員は決してあなたを責めることはありませんから。むしろその方がありがたいんです。

一応本題はここで終わりです。

最後に途中で触れたNDC/日本十進分類法のかんたんな説明を書いておきます。これを理解すればたいがいの図書館でどんな本がどんな場所にあるのかわかるようになります。

お時間ある方は、この下からもどうぞ。

NDCでは、本の内容別に3桁の数字+小数点以下N桁の数字で分類しています。基本的にその数字の順番に本を書架に配架(排架とも言う。本を書架に配置する・戻す作業のことを指します)します。

分け方は、例えば989.8のように、最初に一番左の数字で大まかにざっくり0~9の10個のジャンルに分けます。ちなみに9は「文学」です。数字が右の桁に移るたびに、ジャンル分けはどんどん細かくなります。9+8で「ロシア・ソヴィエト文学」になり、さらに98+9で「その他のスラヴ文学」になります。

ここで分類が終わっている場合、989の書架には同じスラヴ語圏のチェコやポーランドの文学作品が混在して並べられることになります。しかし989+.8になるとさらに「ポーランド文学」になります。989+小数点以下の数字を振ることで、スラヴ諸国がそれぞれ分けられるようになります。

さて、図書館全体を一つの箱だと思って下さい。NDC分類の数字の一番左の桁が0~9まである中で、一番わかりやすい分け方は、箱を0~9の10個のゾーンに分けて、それぞれの数字の本をまとめて入れることだと思います。

さらにそのそれぞれの10個のゾーンの中で、上で説明したように右側に分類の数字を充てることで本の内容別にもっと細かく分けることができます。細かく分けることが出来るイコール「その本を並べる場所をより細かく設定できる」ということになります。

さて、せっかく何桁も使って分類の数字を振ったのに箱の中の0~9の10個の大まかな枠の中に適当に入れたら、結局その枠の中を全部探さないといけなくなりますよね。自分の家の本棚ではなくて、その一つの枠に一万冊くらいあるということをもう一度思い出してください。

なので普通の数字のように900(900.1~900.9)・901(901.1~901.9)~という風により数字が大きいものをより右に置くように並べて行くのです。

さらに数字が全く同じ数字(つまり同じジャンルの本)の場合、著者名の最初の文字などをつけてさらに分類し、さらに細かく順番を決めます。

ポーランドの作家「ヴィトルト・ゴンブローヴィチ」だと、ファミリーネームの最初のゴ(濁点を省いて「コ」にする場合も多い)を989.8に加えて「別置記号」として設定します。

そして、本の背の下の方に貼られる紙「ラベル」にそれらのデータが印刷されます。上下二段組で「989.8/ゴ」みたいに本の背を見ると数字やカナが判るようになっています。このNDC分類と別置記号などを併せたものを「請求記号」と言います。請求記号はラベルに印刷されたものと全く同じにしている場合がほとんどです。

図書館の本は通常背を手前にして置かれていますから、このラベルを見て本の場所を探すことが出来ますし、われわれ図書館員もそれを頼りに本を配架します。そして、パソコンで検索したり所蔵資料の管理のために入力された本のデータにもこの請求記号が含まれています。

実際に本に貼られたラベルの請求記号と、デジタル上のデータが紐づけされることで膨大な数の本が管理され、整然と配置することが可能なわけですね。

上で書いた0~9の10のゾーンをどのように館内に配置するかは、その館によって方針が違います。例えば私が前働いていた青森市民図書館では、3と4が入り口から見て手前側に配架されており、その向こうに1や2があります。1~4という風に手前から数字順に並んでいません。その大まかな配置場所を利用者が確かめるために館内案内図や配架案内図が必要なわけです。

もしご自分で館内の検索機で読みたい本をお探しになる場合は、ただ本があるかどうかだけでなくて、まず「請求記号」をメモするか覚えるかしてください。その後、書架の横に表示された分類記号や館内の配架案内図などのデータと照らし合わせて探せば、ずっと早く本が見つかります。ぜひお試しあれ。

ちなみに、NDCはあくまで「一番システマティックで正確で汎用性がある」という共通認識(たぶん)の下で使用されているだけで、全ての図書館で必ず適用すべしと法律で決められているわけではありません。一部の図書館では独自分類を使っています。

要は、その館について何も情報がない人がはじめて来館して、誰にも訊かずに自分が読みたい本にたどり着けるか、というのが大事なんです。もしNDCを使っていなくても、それが出来るようになっている図書館なら、いい図書館だし、新しくも優れた分類が出来ているということだと思います。

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