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明日から公開! 『ゆれる人魚』に見るポーランド映画女性監督の系譜

ミュージカル、ホラー、ファンタジー、恋愛ものなどさまざまなジャンルがミックスされた新感覚のポーランド映画『ゆれる人魚』がいよいよ明日から公開開始です。

http://www.yureru-ningyo.jp/

エログロなのに悲哀と切なさに満ちたこのすごい映画を撮ったのは、本作が本格的なデビュー作となるアグニェシュカ・スモチンスカ。名前からおわかりのように、女性です。1978年生まれで、この『ゆれる人魚』にいたるまでに音楽系のドキュメンタリー映画やTV番組の監督として仕事をしていました。

この映画はまるで「近未来型MTV」のような充実した音楽の数々(俳優たち本人が歌っていて驚き!)も魅力の一つなのですが、スモチンスカ監督の職歴になるほどの思いです。

さて、実はポーランドは今、女性監督がすごいんです。女性が最先端にいる文化ってすばらしく成熟していると思うんですけど、ポーランド映画シーンはまさにその代表例でしょう。

『ゆれる人魚』自体も、少女たちが成長し自分の運命を自分で決断するというストーリーは、ある種のフェミニズム映画として捉えることもできそうです。サウンドトラックの中核も人気ポップ・ミュージシャンのバルバラ・ヴロンスカとズザンナ・ヴロンスカの姉妹が担っており、それもそのはず、もともとはこの姉妹を主人公に設定したお話だったのでした。

ストーリーも制作も音楽も女性が中心となったこの映画は、スパイス的に女性が配置されたようなものとは一味も二味も違うのです。そしてその圧倒的なクオリティに「女性ならでは」みたいな感想も吹き飛ぶはず。

というわけで、女性が躍動する国ポーランドのすごい女性監督とその代表作をご紹介します。また、彼女らの映画は音楽がいいことも多いので、その辺も触れますね。

Agnieszka Holland アグニェシュカ・ホラント

近年公開の作品では『ソハの地下水道』が日本公開もされておなじみでしょうか。ポーランドがちょうど社会主義から民主化に向けて動きはじめていた90年代初頭にフランスで撮った『ヨーロッパ・ヨーロッパ』『オリヴィエ・オリヴィエ』、あとアメリカに渡ってからの『秘密の花園』なんかも有名です。

その3作はじめ、一時期の彼女の作品はクシシュトフ・キェシロフスキ監督作品でも有名な作曲家Zbigniew Preisner ズビグニェフ・プレイスネルが音楽を担当しています。

実はホラント監督、最近ケヴィン・スペイシーのセクハラ告白でも話題になったアメリカの人気ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のシーズン3の10話と11話、シーズン5の10話と11話も監督しているんですよ。

Dorota Kędzierzawska ドロタ・ケンジェジャフスカ

ホラントほど国際的ではないですが、現代ポーランド映画界を代表する監督の域に入りつつあるのがこのケンジェジャフスカ。世界各国の国際的映画賞を受賞し、日本でも公開された『木漏れ日の家で』が話題になりました。子どもを主人公にした映画が得意分野らしく1994年の『Wrony(カラスたち)』は傑作と言われています。

彼女の映画ではポーランド屈指のジャズ作曲家のWłodek Pawlik ヴウォデク・パヴリク(ポーランド人ジャズ・ミュージシャンとしてはじめてグラミー賞を受賞)や『ピアノ・レッスン』などで有名なマイケル・ナイマンが音楽を担当しています。

Joanna Kos-Krauze ヨアンナ・コス=クラウゼ

夫のKrzysztof Krauze クシシュトフ・クラウゼと二人で監督した『パプーシャの黒い瞳』が日本でもヒット。こちらも多くの国際映画賞を受賞しています。ポーランドを代表するSSWマレク・グレフタの右腕的ミュージシャンとして知られたJan Kanty Pawluśkiewicz ヤン・カンティ・パヴルシキェヴィチが創り出したロマ音楽風のサントラも魅力的でした。最新テクノロジーを駆使したモノクロームの美しい映像は世界中で絶賛されました。

クシシュトフとヨアンナ=コスはポーランドの現代美術を代表する画家を主人公にした伝記もの『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』から共同監督体制で良作を何本か作りましたが、クシシュトフは2014年に亡くなってしまいました。クシシュトフ単独監督時代の傑作『借金』の脚本製作がきっかけでヨアンナと知り合ったそうです。

彼女の単独作品はどういうものになるのでしょうか。夫婦時代のルワンダ内戦をテーマにしたドキュメンタリー作品『PTAKI ŚPIEWAJĄ W KIGALI(キガリで鳥は歌う)』も気になります。

Małgorzata Szumowska マウゴジャタ・シュモフスカ

ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『君はひとりじゃない』で衝撃を与えたシュモフスカ監督。前年2013年の『イーダ』(パヴェウ・パヴリコフスキ監督)のアカデミー賞外国語映画賞受賞(ポーランド映画としては初のアカデミー受賞)に続く快挙で「ポーランド映画の新黄金時代」の到来を予感させました。今後のポーランド映画を引っ張っていく一人ではないでしょうか。

この『君はひとりじゃない』は音楽がほとんどかからないのが魅力の一つなのですが、3曲だけ流れるうちの1曲に、80~90年代のポーランドの大人気バンドRepublika レプブリカのこの曲↓が。

Maria Sadowska マリア・サドフスカ

昨年のポーランド映画祭2017で一番の話題の一つだった『アート・オブ・ラビング』。こちらの監督マリア・サドフスカは何とジャズ&ポップスのトップ・ヴォーカリストとしてもむちゃくちゃ有名な人なのです。本国では空前の大ヒットとなった本作で監督として日本で知られることになったのですが、実はもう何本も撮っている中堅です。文武両道ならぬ映音両道のトップを走る最強フィメール・アーティストですね。

以前の作品では彼女自身がサウンドトラックを制作していましたが、本作では若手作曲家のJIMEKが担当。ヒップホップと現代音楽を橋渡しするようなエッジの効いた音楽がヤバいです。↓は彼女の以前の映画のサントラ。こちらもカッコいいですね。

というわけで、ざっと挙げるだけでも、今のポーランド映画界を象徴するような作品がいろいろ出てくるのです。あと、ベテランのホラントとケンジェジャフスカ以外は70年代前半生まれで同じ世代なんですよね。私も1974年生まれなので、応援したくなってしまいます。

というわけで、まずはアグニェシュカ・スモチンスカ監督の傑作『ゆれる人魚』でぶっ飛ばされてください。そして、現代ポーランド映画の魅力にはまってください。いよいよ明日から公開です。

*最後に宣伝です。劇場販売パンフレットに音楽解説のコラムを書いております。パンフの編集は月永理絵さん(映画横丁)で、詩人の文月悠光さんやアニメーション研究家の土居伸彰さんもご執筆。スモチンスカ監督やバルバラ&ズザンナ・ヴロンスカのインタヴューも収録された豪華版です! ぜひぜひ。

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