ポーランドジャズライター、ポーランドのジャズミュージシャンに曲を捧げられる

僕の肩書のひとつは「音楽ライター」なのですが、専門はポーランドのジャズです。

肩書と言うからにはいちおう「仕事」なわけですが、これまでほとんど誰もやってこなかった分野なので、「案内人」としての義務も感じていますし、加えて「いいものを人に薦める」ことへの充実感みたいなものもあります。

実はそんなにジャズというジャンルが特別に好きというわけではない僕にとって、ポーランドのジャズはまったく新しい扉を開いてくれるものでした。この国のジャズは、なんか違うんですよ。

そんな僕にとって、ポーランドのジャズの普及のお役に立てているという実感は、とても大事なエネルギーなんです。日本で、できるだけ多くの方に聴いて欲しいと思って、ずっとやってきています。

ポーランドに行くと、僕のようなことをやっている人間はとても珍しいので、みんなちやほやしてくれます。特にポーランドジャズに的を絞ってやっているライターなど、ポーランドでもほとんどいませんし、ましてや日本人だというのですから。

会ったことがない人でも、フェイスブックを通じて聞き及んでいるのか、「はじめまして。でも君のことはもう知ってるよ(笑)」というようなあいさつになることが多いです。

ま、正直そういう接し方をしてくれると、仕事とは言え、それほど実入りがいいわけでもない分野を孤独にやっていても「みんなのお役に立てているのかもな」と嬉しいもんですよ。

仕事を続ける根っこの部分には「ポーランドのミュージシャンたちの力になりたい」という純粋な気持ちがあるのです。

さて、そんな僕に最高のギフトがありました! タイトルの通りなのですが、知り合いのミュージシャンが僕に曲を捧げてくれたんです。

そのミュージシャンとは、若手ばかりで結成されたTomasz Chyła Quintet トマシュ・ヒワ・クインテットです。トマシュ・ヒワはヴァイオリン奏者です。

ちなみに、ポーランドは隠れたジャズ・ヴァイオリン大国なんです。以前そのことをご紹介した記事↓を書いたのですが、この記事にはまだトマシュのことは出てきません。

彼のことをはじめて知ったのは、昨年の春にポーランド南西部の大都市ヴロツワフのジャズフェスJazz nad Odrąへ取材に行った時です。

このフェスでは毎日3ステージあって、最初の2つが大ホールで、最後の1つが隣の小さなホールで演奏されます。で、その最後のプログラムは、アルバムを出したばかりだったり若者に特に人気の旬の若手が出演するようになっています。そこにこのトマシュ・ヒワ・クインテットが出たんです。

未チェックのグループを観れることに現地ジャズフェス取材の醍醐味も感じましたが、それ以上に興奮したのが、彼らのプログレッシヴでスリリング、テクニカルなサウンドでした。凝り性のポーランド人らしさが炸裂した複雑な構成を持つ楽曲と、若者らしくポストロックやエレクトロニカなどの影響も受けた勢いのある演奏。

その日演奏された曲はすべて発売されたばかりの彼らのファーストアルバムからでした。演奏が終わると、外の物販コーナーで早速買い求めました。それがこの『Eternal Entropy』↓です。

帰国してからアルバムを通して聴いたら、ライヴの興奮が甦って余りある大傑作で、昨年の僕のベストアルバムの一つになりました。

その後、僕はポーランド・ジャズのコンピレーションCDを2つ編むことになりまして(『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』)、リリシズムのほうに、この『Eternal Entropy』からの曲を何とか入れられないかなと思いました。

それで、改めてトマシュとやりとりしたんです。すでにフェイスブックでは彼とフレンドになってはいましたが、ちゃんと交流するのはその時がはじめてでした。が、レーベルの都合や条件面その他もろもろがあり、うまくいかなかったんですよ。

僕としてはその結果が申し訳なく、彼らの音楽を何とか日本に紹介したいということで、ツイッターなどで何度も言及しました。でも、個人的には「力になれなかったなあ」という気持ちが残っていました。

ところが先日、彼らの待望のセカンドがリリースという情報をネットで見つけ、曲目をチェックしていたら、な、なんと「Yoshinori's Garden」という曲があるではないですか!

僕の本名はヨシノリなので「これは僕のことなのでは?」と、夜中の部屋でひとり、ノートパソコンのモニターを目の前にして小躍りしてしまいました。

果たしてトマシュに確かめると、「君に捧げた曲だよ」とのこと。

僕は自分を、音楽評論家ではなく、ポーランドジャズの広報係のようなものだと思っています。この国のアーティストたちの力になりたい。繰り返しになりますが、僕の原動力はたぶんそれだけです。

なので、今回曲を捧げてくれたことに、僕のそんな気持ちが届いているのだと改めて実感できたんです。ほんとこれ、音楽ライターにとっては最高の賛辞であり、勲章なんですよ。こんなことがあるから、この仕事、やめられないんだよなあ。いやあ、嬉しいなあ。

その「Yoshinori's Garden」が収録されたセカンドアルバム『Circlesongs』は、作り込まれたコンポジションが並ぶファーストと正反対の、ほとんどすべてインプロヴィゼーションによって録音された作品となっています。彼らの、そしてポーランドのジャズミュージシャンたちの引き出しの多さにはやはり驚かされます。

実は今月末から来月初めにかけて開催されるクラクフのJazz Juniors Festivalに招待されたんです。そこで彼らトマシュ・ヒワ・クインテットも出演するんですよねー。サックスのPiotr Chęcki ピョトル・ヘンツキとは今年の夏にスロヴァキアでちょこっと会って話とかもしたんですが、トマシュや他のメンバーにはまた直接会ったことがないので、会ってお礼を言える機会をもらえて、これまた嬉しいです。

頑張って何かを続けていると、届くことはやはりあるんですね。国境を越えてさえ。

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オラシオ

ポーランドジャズのはじめの一歩

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コメント2件

すごい!ライター冥利につきますねー。うちもオフィスでは色々CDあるのに、スタッフのMちゃんは気付くと「ポーランドリリシズム」ばかりかけています。
Yukiさん!
リリシズムは、繰り返し日常で聴けることを念頭において編んだので、すごく嬉しいです!そう言ってくださる方、けっこういらっしゃいます。
Mちゃんさんによろしくお伝えください〜♪
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