千代の富士とポーランド・ジャズ

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昭和史を飾るヒーローだった元・千代の富士、九重親方が先日61歳の若さで亡くなりましたね。

イケメンだったということもありますけど、千代の富士はやっぱりそのスタンスがカッコ良かったですよね。なんか一言一句・一挙手一投足が潔かったような記憶があります。「アスリート=人格者」イデオロギーを体現していた最後の世代の人だと言ってもいいかも知れません。

彼が好きだから相撲を見ていたという人はたくさんいると思うし、同時に彼が引退することで相撲を見なくなった人も多いはずです。

そして、とにかく強かった。「絶対王者」としての横綱像を最も現実にしていたのは彼かもしれませんね。

私も、小さい頃に千代の富士がきっかけで相撲を見て、やがて見なくなったひとりなのですが、彼の相撲が「ポーランドのジャズ」を専門に紹介する音楽ライターとしての今の仕事につながっているところがあるんです。

千代の富士ってものすごく肩を脱臼しやすかったんですってね。彼にとって、それはとてつもないデメリットだったはずです。

そして、その頃の彼はむちゃくちゃ強いというほどでもなかった。度重なる脱臼のせいもあり、戦績も伸び悩み。背が低く、小柄だというのも角界では大きなデメリットで下。

そこで彼は脱臼をしそうになる肩を押さえつけ引き留めるための筋肉を強化し始めるんですね。俗に言う「筋肉の鎧」というものを猛烈なウェイト・トレーニングで身につけるのです。

それは、一見ぽっちゃりとして見える「お相撲さん」の世界に、筋肉ムキムキのマッチョな「力士」という新しいあり方を生みました。大きさと重さがものを言う世界で、他の誰もが持っていない筋肉のパワーとスピードで勝負に勝つ。

筋肉をつけはじめたのはお医者さんの薦めもあったらしいのですが、とにかく彼は、脱臼のデメリットから出発して、小柄でも「並外れた筋肉があれば巨漢にも勝てる」という新しい相撲像を「発想」したわけです。

私は子どもの頃から「デメリットが最強のメリットに生まれ変わる」という話が大好きで、自分の人生のスタンスもそうありたいと思っていました。でも、よく考えたらそういうスタンスがカッコいいって意識し始めたのは千代の富士がいたからのような気もするんです。

彼が活躍しはじめたのが、ちょうど私が思春期に差しかかる入り口くらいの頃だったので。そういう頃の「大きな存在」の影響力って半端ないですもんね。

さて私は今、ポーランドのジャズという、まだほとんど知られていないし、これについて仕事している仲間や先輩もほぼいないという荒野のようなジャンルを専門にやっております。

それどころか、そもそもポーランドという国についての情報も少なくて、日本の人はあまり知らないんですよね。普通に「どこにある国だっけ?」とか言われますもんね(笑)

こういう状態であることはつまり、仕事が少ないっていうことなんです。数年前、業界の先輩からも「どうしてポーランドのジャズ専門ってわざわざ言うの? 仕事の口も限定されるし大変でしょう。もっといろいろお書きになればいいと思うんだけどなあ」とアドバイスいただいたこともありました。

でも、何でも書ける先輩方がすでに群雄割拠の業界に、全く無名の自分が「いろいろ聴いているので、何でも書けますよ」と言って営業したところで、全然説得力もないし、営業先の記憶にも残らないですよね。

それだったら「誰も知らない」というデメリットを「そんなことやってるんだ、変な奴」と強く印象づけるというメリットと考えて、しばらくは「ポラジャズ専門でーす」と頑なに言い続けることにしました。

実際あえてこういうことをやってると、かえって印象に残って他のジャンルの仕事が来たりするもんなんですよ。「青森市在住」を謳っているのも、まったく同じ理由ですね。

あともうひとつ。ポーランドという国のイメージ自体が全然知られていないので「ポーランドのジャズ」と言っても、音楽ファンにすらどんな感じのものか想像してもらえないんですよ(笑)。その辺はイタリアやフランスやブラジルのジャズと大きく違うところです。

これも絶望的なデメリットと言えばそうなのかもしれません。でも、本当にそうなのでしょうか?

この状況があるために「ポーランドのジャズや音楽」を語る際、ファンのみなさんに対してもっと間口を広く開くため、ポーランドそのものやカルチャー、映画などの他ジャンルアートにも一緒に触れるというやり方を採ることになります。

私はこれ、これからの時代に「音楽を語る」やり方としてかなりありだと思っています。音楽も文化の一部で、その国のいろんなバックグラウンドとつながっていますしね。

実際、音楽にそれほどのめり込んでいない層の方たちや女性の方たちなど、新しいファンの獲得にもそれなりの効果をあげています。それぞれのジャンルのファンが双方向的に広がって行ったり。

これは「ポーランドそのものを知らない」というデメリットがなければ決して進まない方向なのです。音楽ネタだけの正攻法でファンに満足感を与えたり、潜在的なファンを獲得できるのならわざわざこんなことはしません(笑)。でも、とりあえずポーランド紹介においてはそれが功を奏しているというわけです。

その意味で、デメリットを活かしてメリットに変えているという意識は持っています。千代の富士が、肩の脱臼癖がなければあれほどの筋肉を身につけたかどうか、というのと似てると思いません?

とりあえず、ニーズを「掘り起こす」のですらなく、これから「作っていく」というところに自分が立っていることに、むちゃくちゃ燃えます。

相撲史上に残る大横綱・千代の富士は、ポーランド・ジャズ・ライターにも大きな影響を与えている、という話でした。

最後に、謹んで九重親方のご冥福をお祈り申し上げます。

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