「大好き」は時に人を苦笑させる 極私的オールタイムベスト曲集

先日渋谷のbar bossaに行ったらあの中原仁さんがいらっしゃって、林さんがご紹介してくださり、はじめてお話させていただきました。その時林さんがブラジルのサンパウロの作曲家Eduardo Gudin エドゥアルド・グヂンの名盤「Noticias dum Brasil」をかけてくださったんですよ。それで、

「中原さん、実は僕、このアルバムが宇宙一好きな作品なんですよ」

と言ったら結構話が盛り上がりまして。まず「オラシオと言えばポーランド音楽の専門家だろう。ブラジルの作品を挙げるのは商売としてどうなんだ?」というツッコミどころがありますよね。それと「今でも2週間にいっぺんくらいは聴いてるかも」と言ったらみんなに苦笑交じりに「そんなに好きなんですか」と呆れられました。もしこれの国内盤が出ることがあったら、だれが書くかのオーディションをして欲しいくらいと続けたら「それをブラジル関係の大家の中原さんの前で言うのか」とまた苦笑され(笑)

そのように、好きな音楽って度が過ぎるともはや人には理解不可能な領域に入り、苦笑すら呼んでしまうんだなと改めて思いました。それは、心から愛したり信頼している人に惹かれる理由を説明できない現象に似ているのかなと。あんまり大好き大好きと人に言ってると、みんな引きますよね。「愛が重い」と感じる人もいるので、まあ苦笑で止まっているくらいがちょうどいいのかも知れません。

林さんや中原さんとはそのあと「じゃあ宇宙で二番目に好きな作品は何なの?」とかいろいろ話が弾んで「これはnoteのネタになるかなあ」とか考えてしまったので、現時点の私の極私的オールタイムベスト10曲を書いてみたいと思います。あくまで現時点なので、オールタイムベストと言いつつ時々入れ替わるラインナップですけれど。順はやや不同です。

1.Guardiã / Eduardo Gudin 『Noticias dum Brasil』より

上で挙げたグヂンの傑作の中で、さらに一番好きな曲がこれです。これもまた「えっ、これが一番好きなんですか? 地味な曲ですよね」と苦笑されました。ギターの弦を指が滑るノイズも含めて、すべての音が音楽です。こんなことを感じたのはこの曲だけかもしれません。語る言葉をもはや持たない。とにかく永遠にマイ・オールタイムベストワンだと思います。

2.Dajcieże mi skrzypce moje / Babooshki 『Vesna』より

自分が日本でのリリースに深くかかわったから(私プロデュースのチェシチ!レコーズからリリース)というわけではありませんが、このアルバムはとにかくここ数年の中であらゆるジャンルを通じて最高の作品で、ちょっと人生の見え方が変わったくらい影響されました。ポーランドとウクライナの民謡を現代風にアレンジした音楽です。最近の私は「つながり」「ミクスチュア」というのが個人的なテーマなんですが、このアルバムはそこにグサッと来たんです。

3.Grazie,Madre / Febian Reza Pane 『Sweet Radiance』より

これは別のライヴ録音なので、あくまで参考までに。日本人とインドネシア人のハーフのピアニスト、レザ・パネさんのピアノ・ソロ3枚組より。自分が「ピアノ・ソロ」というフォーマットが好きなのを発見したのは、この作品に出合ったからかもしれません。後半の、同じフレーズをずーーーっと繰り返すところでだんだん響きの色合いが変わって行くところがすばらしいので、この参考音源ではなくて、オノセイゲンさんの素晴らしい仕事で録音された原盤を絶対に聴いて欲しいです。この曲やこのアルバムを聴くと、マジで具合の悪かった身体が良くなったりするのもビックリです。

4.East & Easy / Sławek Jaskułke 『Moments』より

あの、ワンパターンですみません。DJでもトークでも何でも、とにかく最近紹介しまくっているアルバムからです。私が今一番注目しているポーランドのピアニスト、スワヴェク・ヤスクウケです。どこにどんな文脈で投げても、必ず誰かが受け取ってくれる。そんな作品。ピアノ・ソロものとしては個人的にはレザ・パネの上記作品か、これが甲乙つけがたく並んでいます。

5.April Joy / David Friedman 『Winter Love April Joy』より

私の人生はマレットとともにあり!と言ってもいいくらいヴィブラフォンとかマリンバなどのマレット楽器を使った音楽が好きなのですが、その嗜好を決定づけたのがこの作品です。曲自体はあのパット・メセニーの曲ですがそれすらどうでも良くて、とにかくこの音響にやられてしまう1曲です。これにはまってしばらくしてから、母が「学生の頃、貧しくなかったらマリンバを習いたかった」と言うのを聴いた時はちょっと運命のようなものを感じましたね。

6.ファジィな痛み / PSY・S 『アトラス』より

最近またはまっているんですよと言うと「えっ、今さら?」と苦笑される例の代表格がこのサイズです。高校の時よく聴いていたのですが、都会的なサウンドとチャカのかわいい声で歌われる恋愛っぽい歌詞のせいで当時は絶対東京のバンドだと思っていました。ふたりとも大阪出身です。「チャカは参加前はジャズとファンク以外は全く興味なかった」「ふたりはプライベートでは一度しかお茶したことがない」という2つの情報を知り、また聴き始めました。私はジャズの技術なしでは成り立たないウェルメイドなポップが大好きなのですが、日本でのその先駆的な例がこのサイズだったのかなと。チャカの超絶ヴォーカルはジャズシンガーだからなんですね。お茶のエピソードもふたりの徹底した職人気質を感じました。そのお茶の時はどんな話をしたんだろう、とかむっちゃ気になります。しかしこの歌詞、思春期の私はむちゃくちゃ揺さぶられました。また、歌う8ビート・ベースラインのお手本です。

7.More Luv / Bela Fleck & The Flecktones 『Live Art』より

ミクスチュア・ブルーグラスのヒーロー、バンジョー奏者のベラ・フレックの2枚組ライヴより。最近はチック・コリアなんかとのアルバムですっかりジャズ・リスナーにもおなじみですが、私にとってのベラはやっぱりこれ。バンドのベーシスト、ヴィクター・ウッテンの作曲で、いつだってマイ・アンセムです。ピアノとヴォーカルにブルース・ホーンズビー、ソプラノ・サックスでオレゴンのポール・マッキャンドレスがゲスト参加しています。ちなみに、私がポーランドのジャズにはまる前はブルーグラスにドはまりしていました。

8.Pipoca / Hermeto Pascoal 『Brasileiro』Sergio Mendesより

アヴァンギャルドとポップネス。永遠に対立するもの。という既成概念をエルメートは軽やかに飛び越えます。数々の天才的音楽家が「コードがとれない!」と嘆くほどの複雑怪奇なサウンドを持ちながら、極上のダンスミュージックであり、かつ子どもも喜んで聴ける。こんな曲は他にないです。

9.美貌の青空 / 坂本龍一 『1996』より

モダン・クラシカル・ミュージックなら教授の『1996』が一番好きです。このアルバムだと「ラスト・エンペラーのテーマ」とか「Rain」とかも捨てがたいのですが、ちょっとこの曲の胸に刺さってくる感じはすごい。ちなみに、先日渋谷のバーで偶然一緒に飲んだロスのアニメーターふたりのうちひとりがこの作品が大好きってことで、むっちゃ話が盛り上がりました。

10.You Get What You Give / New Radicals 『Maybe You've Been Brainwashed Too』より

この曲はやられたなあ。メロディの種類はほとんどなくて、サビなんかもうミニマル音楽ですよね。大ヒットチューンには珍しい政治的な歌詞や「君の中には音楽が宿っているんだ」というメッセージもいいんですけど、とにかくずっと続いてくれって感じの徹底した繰り返しがしびれます。意外と、こんなのにもはまって聴いたりしています。

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オラシオ

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コメント6件

どれもいいですね!選曲が私好みでした。もともとピアノ曲が好きなので、ピアノ曲びいきかも知れませんが、サイズとかも懐かしくて良かったです。あ、教授のこれは、うちのどこかにあったかも…。なんか、全部いいです。
かねきょさん ありがとうございます。サイズは確かに懐かしさもあるんですが、それよりもむしろ今の方が良さがよくわかるんじゃないかと思って注目しています。
はじめまして
心から好きと言える音楽って意外と少ないのですが、グヂンのこのアルバム大好きです
でも一曲選ばないとダメなら " samba de verdade " かなあ…
ハラキリムシさん はじめまして。なるほど「Samba de Verdade」ですか! Jongo TrioやPaulistaを挙げる人は多いですよね。
「心から好き」は少ない方が良いのかもしれません。私は音楽への愛は人間に対するそれに置き換えらると思っているので(笑)
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