意味のないことって、案外言わない

先日、将棋解説のテレビ番組を相方と二人で観ていました。彼女はけっこうな将棋ファンで、最近は対局アプリに首ったけで、私の相手をあまりしてくれなくなったほど(笑)

さて、解説担当の棋士さんは時々見る顔で、「この人っていっつもニヤニヤ笑ってるよね」と私が感想を口にしたんです。すると、相方が「私も、なんかそう思われているフシがある」と言うのです。

私は大げさに驚いて、反論しました。「君が? それはないだろう。だって・・・」。そう、だって、彼女はどっちかと言うと「ムスッ顔」系の人だからです。

ただ、私たちが出会った大学時代のことを思い返してみると、ほんとうは性格がかなりアレなのに猫をかぶって優しい女の子のふりをしていた彼女は、確かにいつもニコニコしていたような記憶があります。私は職場における彼女のことを知らないので、そちらではずっとニコニコしているのかもな、と思い直しました。

よくよく聞いてみると、彼女が東京に住んでいた頃、職場の同僚に「○○さんはいつもニコニコしているねえ」と言われたことがあるそうなんです。その発言をいま思い出し「あれは、いま君が言ったような、いっつもニヤニヤしてるって意味で言ったんじゃないか」と言いたいらしいのです。

この時、私の頭の中で、「ニヤニヤしている」ということを揶揄する意味で「ニコニコしている」と言うことはあり得るだろうか?という検討がはじまりました。

まず、私が棋士さんのことを「ニヤニヤしている」と評したのは、申し訳ないのですが、ちょっとDisる意味がありました。なんかちょっと、気持ち悪い感じするよね?と彼女に同意を求めるために口にしたのです。

ニヤニヤという言葉には、そんなにポジティヴな意味はないと思うのです。それをあえて使うのは、ネガティヴな意味合いを持たせていることを正確に伝えたいからです。

いっぽう、ニコニコはどうでしょうか。これはけっこうポジティヴな表現じゃないでしょうか?

そこで、相方に対して「いつもニコニコしているね」と言った同僚さんが、なぜそれを言おうと思ったかということについて考えてみます。

仮に、相方が言うように「ニヤニヤしている(のが気持ち悪い)」とある種の悪意をもって彼女にその言葉を投げかけたのなら、そのまま「ニヤニヤ」という単語を使ったはずだと思うのです。

なぜかと言うと、目的が「悪意をぶつけたい」という気持ちとか「おめーはニヤニヤしてるんだよ」という指摘をするということだからです。つまり、明白にネガティヴなワードを使ってこそ、その発言をする目的が達成できる。

ところが同僚さんは「ニコニコ」という言葉を使っています。これだと、なかなか「ニヤニヤ」というニュアンスが伝わらない。おそらくほとんどの人がほめられたか、少なくともポジティヴな意味のお世辞を言われたかのどちらかとして受け取るのではないでしょうか。

また、もしニヤニヤの意味で言っているのだとしたら、その同僚さんは相方のことを良く思っていないということになります。良く思っていない人とは、関わる時間をできるだけ短くしようと思いますよね。であれば、やはり一瞬で伝わる言葉を使わなければ、わざわざその言葉をかけるための時間を作った意味がない。

もちろん、ほんとうは嫌味を言っているのに、単語的にはそうは見えないという高等テクニックを使ってくる「嫌な奴」というのはいます。言われた本人にしか伝わらないような悪意を、行間にひそませてくるのです。

しかしそうした言葉の多くは、言外の意味が込められていつつも、少なくともポジティヴな意味には聞こえないというものがほとんどだと思います。他人にはばれず、でも対象者だけを言葉の針でチクチク刺して苦しませたい、そしてその様子を見て留飲を下げたいというのが発言者の目的なので、「ほめ言葉」と勘違いされてはダメなのです。

と考えると、仮に相方を貶める意味で「ニコニコ」と言ったのだとしても、その効果はほとんど発揮されず、満足できないと思うんですね。つまり、その言葉を選ぶ意味がないのです。

これってけっこう面白い現象だなと改めて思いました。と言うのも、口から発せられる言葉というものは、何かの意志によって形作られ、発音されるということだからです。その「意志」とは、それを口にすることで、何かの効果を及ぼしたいという思いです。

誰かに何かを報せたい。なぐさめたい、傷つけたい、怒らせたい。そういう思いが言葉に換わって、口から飛び出す。

逆に言うと、言っても意味がないと判っていることは、わざわざ口にしないし、意志と関係なく自然と口からあふれ出ることもないわけです。ひとりごとですら、自分で自分をなぐさめたり、言葉を紡ぎ続けることでリラクゼーションの効果を期待しているからでしょう。

なので、相方に「ニヤニヤしててキモい」という意味を伝えたかったんだとしたらそのままニヤニヤと言ったはずで、ニコニコという言葉を選ぶのはあり得ない。だから君はニコニコしていると言葉通りに思われていたはずだよ、と彼女に伝えました。

会話していて、相手の発言の意味がよくわからない場合や、ネガティヴな方向に受け取ってしまった時などは、どんな言葉を使っていたか、どんなタイミングで言って来たかなどなどを総合的に検討すると、その発話者の意図が見えてくるかもしれません。

言葉の使い方を間違えているのでない限りは、その言葉を選んだ理由と意味が必ず存在するはずだからです。どんなに反射的に出た言葉でも、その人の思考が反映されています。人間って、意外と口語についてはエコ仕様で、無駄なことはしないんですね。

言葉を使ったコミュニケーションはやはり面白いです。テレビ番組を見ている間に、言葉についてちょっといろいろ考えてみた、という話でした。

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*第二回cakesクリエイターコンテストに小説応募しています。第一次選考突破しています!

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