チョコをもらって泣いた日

わたくし、「あんこ」が食べられません。

ええ、あの「つぶあん」とか「こしあん」のあんこのことでございます。あんこがとにかく大好きでもりもり食べてもりもり太っているわたくしの相方は「君があんこを私と一緒に食べられるようになったら、もう言うことないんだけどなあ」と言うのですが、無理です、すんまへん。

あんこを口中に入れると、何とも形容しがたい不快感がじわっと襲います。もう、理屈じゃないです。

とは言え、相方の願いには根拠がないわけでもないのです。

実は昔、わたくしはチョコレートが食べられなかったのです。そして、あまり記憶にないのですが、母によると幼い頃あんこは食べていたそうです。亡くなった母方の祖母が買ってきた「おはぎ」を喜んで食べていたとのこと。

えー、ほんとですか? いつの間にか、チョコとあんこの存在がわたくしの中で逆転したんですな。

チョコレートが食べられなかった時の出来事に、こんなことがありました。

わたくし、高校時代は軽音楽同好会の代表と美術部員を掛け持ちしていました。軽音は男子の方がやや多かったのですが、美術部は圧倒的に女権社会でした。担任の先生も女性でしたし。

ちなみにこの美術の先生はプロの芸術家でもあって、国際ビエンナーレとかにも出展された、すごい方です。杉浦美佐緒先生とおっしゃいます。この美術部在籍時代に先生から教わったことは数知れません。

閑話休題。

女権社会とは単なる「女子部員のほうが多い」の比喩でございまして、ほんとうは男女ともに和気あいあいとやっていました。自分を除き、のんびりした性格の人が多く、家庭環境があまりよくなかったわたくしにとって、そこはたぶん「居場所」だったのでしょう。

わたくしは当時「校内変人ランキング・ベスト10」に入れられるような尖りっぷりだったんですけれど、内心「居場所」を求めていたことをうすうす理解していたのかどうか、美術部員のみんなは優しく接してくれたし、慕ってくれていたような気がします。

そんなある日。いや、ある日と言ってもバレンタイン・デーなんですが、放課後に美術室に行ったら、美術部員の女子が集まってきて「はい、これあげまーす」と義理チョコをくれたんです。

わたくし、顔面蒼白です。

もらっても食べられないからです。帰宅後に両親にでもあげようと思いつつ「あ、ありがとう」とぎこちなく返すと、後輩女子のひとりが余計なことを言う。

「えー、シラオ先輩、ここで食べてみてくださいよお」

えー。さらに顔面蒼白。

当時も今も、わたくしは典型的なモテない君ですから、義理チョコと言えど、確かこの時がもらったのははじめてだったと思います。まさかもらうなんて想定していません。しかし初体験にしていきなりの大ピンチ。

ええ、ええ。頑張って頬張りましたよ、ありがたいチョコを。

で、当時のわたくしがチョコを食べるとどうなるかと言いますと・・・。

涙が出るんです。まずいとかじゃない。もっと漠然とした、かつ大きな不快感が迫り来て、涙が出るんです。

女子部員が「じっ」と見守る中、私は懸命に涙をこらえましたが、ほろっと厚顔のブ少年の頬に何粒も涙の滴がすべり落ちてしまいました。

「先輩、そんなに嬉しいんですか?」

と、みんな大爆笑。押し寄せる「いやなかんじ」に耐えながらあいまいにうなづくわたくしでした。

今思えば、この時のエピソードは女性ばかりの職場を渡り歩き、女性たちにいじられる後の社会人人生を暗示していたのかもしれません。

それから四半世紀経ちました。わたくしはいつの間にかすっかりチョコ好きになり、ひとりでお茶をした時もガトーショコラとかチョコパフェを食べるように。

そして、モテない君だったわたくしにも大学時代に春がめぐってきて、その相方と今も一緒に暮らしています。彼女はあんこもチョコもイケる甘口二刀流で、どちらもわしわしと食します。

相方は、毎年のバレンタイン・デーには「シラオくん、はい」と言ってわたくしにあげるジェスチャーをして、さっさと包みを開けて食べはじめてしまいます。わたくしは「ご相伴にあずかる」といった形ですね。

一緒にチョコを食べながら「チョコは食べられるようになったんだから、あとはあんこだけなんだけどなあ」と相方は言うのでした。美術部での「涙のバレンタイン」のことは教えてあるので、決して無理強いはしませんが。

そんなわたくし、いまだにバレンタインに喜びで涙したことは一度もありません。

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オラシオ

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