或る地方在住音楽ライターの休日

私の彼女がよく「仕事のオン・オフを切り替えなよ」って言うんです。

ご本人は、私生活で仕事のグチを言うことはほぼありません。と言うか「あ、しまった、いま仕事のこと考えちゃってた」とか言うくらいです。絶対に仕事を家に持ち込まないのを信条としているっぽいです。

一方私は時々グチくらい言いますわな。もちろん聴いてはくれます。なぐさめてはくれませんけど(笑)。でも、あんまり引きずっている時は冒頭のようなことを言ってくるんですよ。

それはきっと、彼女が私の仕事「音楽ライター」をオン・オフが切り替えられるものだと考えているから出てくる言葉なんですよね。そうじゃないんだよなあ。

というわけで、音楽ライターにおけるオン・オフの感覚についてちょこっと書いてみたいと思います。

ちなみに、音楽ライターと一概に言っても、その労働形態はさまざまです。掛け持ちの人もいるでしょうし、月に仕事をひとつだけ厳選してやっている人もいるでしょう。なので、ここで書くことは「音楽ライターの平均像」ではありません。あくまでわたくしオラシオの個人的な例です。あるあるなのかもですし、逆にそんなのお前だけだよかもしれません。

というわけで、まず私が音楽ライターとしてどんな条件下にいるのかつまびらかにしておきましょう。

1.フリーランス(=他の仕事と掛け持ちではない)
2.青森市在住(この職業で田舎暮らしなのはかなり特殊)
3.現状、自分一人の収入で食っていけるほどの売れっ子ではない
4.定期的に来る仕事はラティーナ、CDジャーナルのCDレヴュー、ウェブサイト「りんご大学」の連載コラム、会員制俳誌「白茅」の連載コラム
5.不定期に来る仕事は、ライナー、インタヴュー、雑誌の特集、青森県の最大手新聞「東奥日報」の不定期連載「オラシオの音楽雑記帳」、映画のパンフ、トークイベントの出演などなど

私が「音楽ライター忙しい度ランキング」でどの辺にいるのかは自分ではよくわかりませんが、上に書いたような仕事の数だと「毎日何かを書いていないと追いつかない」というようなことはありません、残念ながら。

「休みがたくさんあって、好きなことがやれて楽しそうな仕事だなあ!」

そんな声が聞こえて来そうです。と言うか、実際に面と向かってそう言われたこともあります(苦笑)

えっとですねえ、まず以下の前提をみなさんには共有していただきたい。

心と体は別物

どういうことでしょう。「妻のことは心から愛しているから、あの子と寝ても、それは違うんだ」という男に都合のいいアレではありません。要するに、

字を書いている間だけが仕事ではない

ということです。もう少し説明しましょう。まず、傍目にはすっごく短い、たかだか何百字くらいのレヴューでも、音楽ライターは「ただ聴くだけ」で書くことはありません。そのアーティストやジャンルについてリサーチしています。その時間がけっこう長いんですよ。へらへらネット見まくっているように見えても、そういう作業をやっている場合がほとんどなんです。

またポーランドのネタなどは積極的に新しいものを追って行かないといけないので、FB上で友達になっている何百人ものポーランド人ミュージシャンの投稿を見たり、向こうのジャズ・メディアやウェブショップの情報などをすごく短いスパンで定期的に読むようにしています。一日に何度もチェックしてます。そうした情報収集など、ある種の「自己鍛錬」の上に短い字数の仕事も成り立っています。

また、仕事がたくさんある時は常に身も心も執筆モードにしておきたいので、かえってSNSへの投稿が増える傾向があります。これについては以前noteに書きました。これも一種の自己鍛錬です。

プロの書き手がSNSに書き込むワケ
https://note.mu/horacio/n/n667995575013

次に、私は寝る以外の時間は常に文章について何がしかを考えています。その「何がしか」の内容はだいたい下記の4つくらいでしょうか。

①いま抱えている仕事について
②いま鳴っている音楽や目の前で起こっていることを文章にするとどうなるか
③まだ形になっていない企画などについて
④noteのネタについて

どんな時も、常にこの4つを考え続けているんです。例え文章を書いていなくても、ネットで情報をリサーチしていなくても、文章というものについて頭がエンドレスに回転しているのです。今こうやってnoteのフォーマットに文章を打ち込んでいる最中も、①~④について頭の片隅のどこかで考え続けています。

結論を言いますと、つまり、

音楽ライターに「休日」はない

ということになります。冒頭に彼女が完璧にオン・オフを切り替えていると書きましたが、それは「職場」という物理的な職業空間が存在するからです。帰宅してそこを離れれば、オフの気分にもなるでしょう。

しかし私たちは文章について考え続けることが出来てしまいます。頭の中はいつも「職場」なのです。よく「ライターになる資質」みたいな話になりますが、文章力より何より、永遠に休日が訪れないこの生活が苦でないかどうかというのはかなり大きな指標ではないかと思います。

ちなみに、ライターで「実は文章を書くのは好きじゃない」という方はそれなりにいます。私はまあまあ好きな方ですけど。

では次にこんな質問が予想されます。

ではあなたはずっと休まないのか?

そんなことはもちろんありません。頭ではつねに何かを考えているにしても、差し迫った締切仕事がない場合は、物理的にずっとパソコンに向かっていなくてもいいし、リサーチを続けなくてもいい日や時間が生じます。また、執筆の必要があっても、行き詰まったら自由に休憩できるのもフリーランスの良いところではあります。

なので、休日と言うより「休憩時間」のような感じでちょこちょこ細切れに休んでいる感じでしょうか。では、そういう休憩時間に何をしているのでしょうか。挙げてみます。

➊散歩をする
➋料理を作る or 台所を片付ける or 何か家事をする
➌本を読む
➍バスか電車でどこかへ行く
❺寝る

ざっとこんな感じでしょうか。➊~➌はまあ普通ですかね。全国どこでも共通という感じがします。➋は最近気づいた休憩方法です。実際は手を動かしているわけですから休憩になりそうにないのですが、時折集中し過ぎて「まったく文章のことを考えていない瞬間」が訪れているみたいで、例え短い時間でも仕事を完全に離れられるんです。それで私よりも長くハードに働いている相方の助けにもなるんだから一石二鳥です。でも、➍はどうでしょう。

これは「2.青森市在住」という条件と関連してきます。青森市界隈はしょせん田舎なので、景色もいいし、駅前まで行くのも徒歩+バスor電車で30分~小一時間かかるんですよ。その間車窓風景を眺めながらボーっとするとプチ・小旅行って感じで、少しリラックスできるんです。これは地方在住ならではの休憩方法じゃないでしょうか。日常の中に旅があるんです。その延長線上に、もうちょっと遠出する「独り旅」もあります。

❺は究極の休憩方法ですね。だって「寝る時間以外は文章のことを考えてしまう」のですから。なので疲れている時はけっこう寝ます。昼寝、うたた寝、二度寝、なんでもありです。「休日は何してるの?」という質問に一番シンプルに答えるとしたら「寝てる」かもです。でも、仕事に追われている時は寝ている間でも夢で執筆するんですよ! そんなところまで追いかけてくるんです。これはマジです。

そんな感じで、私には休日はないのですが毎日こまめに休憩をとっています。なので彼女にオン・オフを切り替えろなどと言われても無理なのです。彼女としゃべっている時間もまあ休憩時間と言えばそうですが、それでもやっぱり同時に①~④について考えていますからね。そう、完全なワーカホリックなのです。変態なんです。

さて、最後にすごぉぉぉぉくよく訊かれる質問にお答えします。

「ずっと音楽を聴き続けているのですか?」

これについては、たぶんみなさんがビックリするくらい「聴いていない」と思います、私は。意図的にそうしています。休日がないのならせめて音楽を聴く・聴かないの時間を設けることで若干のオン・オフ感を出したいのです。もちろん、ライナーを依頼された時はその作品を何十回も聴きますが、特に必要じゃなければ日常を音楽漬けにしないようにしています。

経験があるからわかるのですが、私は何かにどっぷり漬かるとある日突然プツンと何もかもが面白くなくなってしまうことがある人間みたいなんです。音楽ライターであるからには、出来るだけ良い状態で音楽と向き合いたい。その私なりのやり方が「音楽漬けにはならない」ということなんです。実際、平均したら一日30分も聴いていないと思います。

というわけで、休日はなくて休憩しかないという「セルフ・ブラック企業」みたいな状態なのですが、ある種のオン・オフを設けて何とか音楽ライターを続けております。

最近は少しずつSNSを見る時間を調整して、また違うオン・オフを作ろうとしています。でもまあ、こうやってnote書いたりする時につい見ちゃうんですけどね。

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