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ポーランド版「イントロクイズ」がすごすぎる 音楽大国の底力を感じるテレビの大衆娯楽番組

最近、日本の研究.comで紹介されたこんな論文がありました。

この記事で紹介されているグラフは日本、中国、ポーランドの学生の絶対音感と相対音感の正答率ですが、ポーランドの相対音感正答率がずば抜けて高いんですね。

ここでも書かれているように、音楽を演奏する上では、日本で信仰の強い絶対音感よりも相対音感のほうが大切だと言われています。もちろん、異論もあるでしょうし、実際のところは自分の持っているものをどう活かすかでしかないので、どちらがほんとうに大事なのかについてはここでは於いておきます。

ただ、このデータについて、ポーランドの音楽を専門とする音楽ライターとしては「やっぱりな」という感じでした。

私はポーランドの音楽の中でも特にジャズを専門分野にしているのですが、ジャズのミュージシャンと言えど「クラシックの教育を受けたことがない」という人にほとんど会ったことがありません。

ドイツの名門レーベルECMからアルバムを発表している世界的なジャズ・ピアニストMarcin Wasilewski マルチン・ヴァシレフスキなど「(僕たちの国の)ジャズは、クラシックを学んだ先にあるものだと考えている」と断言していました。そういう考え方が、この国のジャズをはじめて聴いた時に感じる「え、これってジャズなの? クラシックみたい」という感想につながっているようにも思います。

また、ヒップホップやメタルのミュージシャンでさえ、音楽の道に進むために最初にクラシック教育を受ける人も少なくないのです。有名な例だと、ヒップホップスターのO.S.T.R.とか、ポーランドのケイト・ブッシュことGaba Kulka ガバ・クルカとかでしょうか。

O.S.T.R.はヴァイオリンと作曲をがっつり学んだクラシック・エリートでPVでもよくヴァイオリンを弾いてますし、ガバはこの国が生んだ大ヴァイオリニストKonstantin Andrzej Kulka コンスタンティン・アンジェイ・クルカの娘です。

私が個人的に仲良くしている若手のミュージシャンも、クラシックとジャズの垣根をとっぱらったようなジャンルレスな活動や作品づくりを行っている人がほとんどで「ストレートなジャズ音楽」一本でやってます、という人はいません。仮にあるグループでバリバリのハードバップをやっていても、一方ではシンフォニーや室内楽曲を作曲したりしていて、むちゃくちゃマルチタスクなのも、この国のジャズミュージシャンたちの特徴なんです。

このように、ポーランドでは音楽教育に対する考え方が、他の国とはちょっと違うのではないかと思わされる例は枚挙に暇がないのですが、そのうちのひとつが「ポーランドのTV番組のイントロクイズがすげえ!」なのです。

音楽の一般市民への根付き方、いわゆる「ふつうの人たち」の音楽への感覚の鋭さ、あと、音楽についてのあらゆるものを「でき合い」の適当な形で済まさないところなどなど、欧州きっての音楽大国であるポーランドの文化的バックグラウンドを知ることができる良い例になっていると思うので、少しご紹介します。前置き超長くてすみません。

番組名は、TVP1という局の名物番組「Jaka to melodia?(このメロディ、何だっけ?)」です。先月末から数日滞在したクラクフのホテルで撮影したテレビモニターの写真で、この番組についてご説明します。
(*途中から観たのでJaka to melodia?ではないかもしれませんが、内容の特徴は変わらないので、ご了承ください)

回答者はふつうの一般市民なのですが・・・

まず、イントロと言ってもほとんど2音か3音聴くだけで曲を当てるので、それだけでビビります。私がはじめてポーランドに行ったのは4年前ですが、この番組をはじめて観てむちゃくちゃ驚いたのはそこでした。とにかく回答が速い! 下手すりゃ1音で答えます。それはもう「イントロ」でさえない。

この日は、右側のおじさん(と言ってもたぶん私より若いが)が圧倒していました。毎回3人が登場して勝ち抜き形式なのですが、この回はもうひとり、若い女の子が回答者でした。少し前の時代のミュージシャンもごちゃまぜで問題に入るので、中年に有利なような気も。とは言え、以前観た時はギャルみたいなおねえちゃんがバカ勝ちしてました。

驚かされる点、その2は、正解曲の「生演」が披露されることです。

必ずしも歌う(&踊る)のは本人ではないこともあるのですが、とにかく観客の前でがっつりちゃんとしたものが披露されます。これはイコール、この番組での演奏用にアレンジもちゃんとされているということでもあります。手間かけすぎ! 日本のイントロクイズだったらBGM的にちょこっと流して終わりですよね?
(*しっかり確かめたわけではないので、ひょっとしたらリップシンク(口パク)が部分的に導入されているかもです)

回答が鬼速い、正解曲の生演披露、とそれだけでもう彼我の違いにびっくりなのに、今回観たらさらに驚きポイントが加わっていました。な、なんと、

イントロをピアニストが生で弾くのです!

もちろん本格的な演奏をするわけではなく、単音でメロディだけ弾くのですが、わざわざ生で! どこまで「音楽」に手間をかけるのか、ポーランドは。何度も言いますが、別に元ネタのイントロをスピーカーで流すだけでも全然かまわんわけですよ。あと、ピアノの単音だと逆にその曲のアレンジの特徴がなくなるので、回答者的にはさらに難易度が上がりますよねえ。

さて、そういうハイレベルすぎる戦いを勝ち残った最優秀回答者には、さらにこんなチャンスが与えられます。

これ、何だかわかりますか? 回答者には30秒与えられています。1~7の数字を選ぶと、その曲のイントロが流れ、30秒がカウントダウンされていきます。つまり、速く答えれば答えるほど残り曲のイントロを聴くための時間が長くとれる、というシステム。この人は今、8秒で2曲正解し、あと22秒で残り5曲を当てなければいけないという状態。レベル高すぎ!

ちなみに回答は口頭で曲名を全部言う方式で、選択制ではありません。一度聴いて当てられなくても、それは保留して他の番号を選んでも良いみたいです。このおじさんは最後の1曲で残り1秒になってしまい、結局当てられませんでした。

というわけで、大衆の娯楽であるはずのイントロクイズにも音楽大国ポーランドの底力が凝縮されているというご紹介でした。

最後には番組のアシスタント的な女性二人が生演付きで歌い出して、エンドタイトルが流れます。最後の瞬間までぜいたくなつくり。ポーランドの人たちは、こんな音楽環境の中で暮らしているのです。そりゃジャズもレベルやべえわ。

ちょっとポーランドのジャズや音楽に興味が出てきた!という方のために。先月ピーター・バラカンさんと一緒に出演したトークイベント用に作ったSpotifyのプレイリストがありますので、まずはそちらでもどうぞ。

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

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