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どこかの世界のデータベース

スポーツの世界の「レベルアップ」って、ものすごいですよね。

今年はあまりテレビ観戦しませんでしたが、ここ何年かアメリカン・フットボールを観るのにハマってて、ケーブルテレビやBSで放送されているこの競技の最高峰NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の試合をたくさん観ています。

確か最初は彼女が人気マンガだった『アイシールド21』経由でハマったんです。マンガだとやっぱり空想も入っていますし、実際のゲームの様子ってわかりにくいので、チェックするためにたまたまやっていた放送を観たって言ってた気がします。その時彼女が現代最高のクォーターバック(球投げる人)のひとりペイトン・マニングが当時在籍していたインディアナポリス・コルツの大逆転劇を見て「本物」も面白くなり、私に勧めたというわけ。

私は、こんな感じでまず最初に彼女がハマってオススメされてから自分もハマるというパターンがけっこう多くて、特にマンガとかはそうですね。マンガなら今は彼女経由で『ワールド・トリガー』にハマっています。パートナーってやっぱり自分の世界を広げてくれますよね。

それはさておき、最初は「昔、京大のアメフトの試合テレビで観たけど面白くなかったよ」とか言って渋っていた私を一転アメフトにハマらせたのがNFL史上最高のリターナー(攻守交代時に相手チームのキッカーが蹴った球を捕って走る人)と言われているデヴィン・ヘスター。攻守交代の時でさえ点が入ることがある(リターナーがフィールドの端のエンドラインまで到達した時)というのも面白かったですし、何よりへスターの走りって美しいんです。ああ、すごいアスリートの動きって芸術だなと彼のプレイに出合った時も改めて感じたものです。たぶん彼の走りを見なければ、私はアメフトにハマらなかったと思います。

そのへスターをはじめ、アメフトはオリンピック出場クラスのトップアスリートがゴロゴロしているんですけれど、それ以上に「戦術」「システム」の競技なんですね。アスリートの運動能力はコーチたちがその場その場で選択する作戦をより確実に実行するためにあって、マンパワー同士の競い合いではないんです。なので、隔絶したスーパーヒーローがひとりふたりチームにいても作戦がしょぼければ絶対勝てないんですね。週刊少年ジャンプのスポーツもののようにはいかないんです。

もっとも、最近は少年マンガも天才ヒーローの独り勝ちみたいなストーリーからだいぶ変わってきているみたいですけど。ちなみに上で挙げた『ワールド・トリガー』も戦術系のお話で面白いですよ。アメフトが好きな人はきっと楽しく読めると思います。

で、特に面白いのが、NFLは1週間ごとに試合をするんですが、前の週にやってみて大当たりした新戦術が、次の週にはもう通用しなくなっていたりするところ。次の試合までの一週間の準備期間で対策を研究され尽くして、ある程度本番で対応できるようになっちゃうんです。解決策を見つけるコーチ陣も凄いし、それに応えられる選手たちもすごいですね。アメフトは極端ですけど、こういうパターンって、スポーツではよく見かけますよね。

ある時代に独り勝ちしていた選手がいて「こんなの人間じゃできない」と思われていた得意技とかテクニックとかスピードが、数年後にはある程度標準値になったりする。いま大人気のフィギュアスケートでは、例えばビールマンスピンとか、数年前まではごく限られた選手だけの見せ技だったはずなのに、今はほとんどの人が取り入れています。特別な股関節の柔軟性とかバランス感覚、筋力が必要だったはずなのですが。100m走も、いつの間にか10秒を切るくらいは二流クラスになっている。最先端は9秒8とか7台ですよね。人間という動物自体の力がたった数年のうちに進化したとは考えにくいですから、何だか夢のような現実です。

ここから見えてくるものがあります。どんなスポーツも、実際にやる立場の選手単独の力だけがものを言うわけじゃなくて、コーチだったりトレーナーだったりサポートチームだったり、その選手や競技自体のレベルアップを目的に研究や理論化を積み重ねている人たちがたくさんいるんですよね。そして、そうした成果は誰かやどこかが独占しているんじゃなくて、ある程度オープンにデータベース化されているんだと思います。その業界以外の人にはわからないどこかで、フェアに共有されている。そうじゃなければ、どんなものもこれほど急激にレベルアップしません。

将棋の世界でも同じような理念がありますよね。面白いなと思うのが対局が終わった後に義務付けられている「感想戦」。今自分たちが戦った対局の「別の可能性」「もっといい手」などについて、勝者と敗者が検討し合うのです。ただ単に勝負の世界というだけだったらこんなことをする必要はない。ひとえに、将棋というもののレベルアップのためにやっていることなんです。これって究極のデータベース共有ですよね。もちろん対局の模様を一手ずつ記録した「棋譜」も当然保管されます。

将棋と言えば、藤井猛現九段が考案して勝ちまくり、あっと言う間に竜王まで成り上がった「藤井システム」というのが有名なのです。一時期ものすごい猛威を振るいましたが、これも棋士界全体の研究が重ねられて対応策が生まれ、今ではあまり採られない戦法となっているようです。この現象って、スポーツに重なるところもありますよね。どこまで勝ちまくるんだと思われていた男子シングルテニスのロジャー・フェデラーだって、ナダルやジョコヴィッチが台頭して少し落ち目になる時があります。

余談ですが、将棋とスポーツという言葉で思い出すのは、東京に住んでいた頃最後にバイトで働いていた会社の社員のSさん。彼はバドミントンでインターハイに行ったことがあるそうです。もう中年で、小太りでコロッとしていてそんな風に見えなかったのですが、時々社会人の試合に出て勝ちまくっているらしくて。そのSさんが言ってた「バドミントンにはまぐれ勝ちはない。将棋と同じで、必ず強い方が勝つ」という言葉、今でも思い出します。

データベース共有と言うと、もうひとつ。犯罪の世界、特に詐欺系の犯罪の手口って、こういう言い方は悪いですけど瞬く間に洗練されていきますよね。例えば老人を狙ったオレオレ詐欺も、マスコミや警察がある程度の対応策を広めはじめた頃にはもう新しいやり方で巧妙にだましてお金を巻き上げている。そしてそれは東京だけで起こっているわけではなくて、全国規模の同時進行で手口が新しく、より狡猾になっています。暴力団のシノギのやり口とかもIQの高いインテリ組員を増員して、どんどん巧妙になっているそうです。この「レベルアップ」の急速さを思うにつけ、やっぱり犯罪業界?には特別なデータベースのようなものがあるんじゃないのかなあと思います。犯罪の手法を専門にした「裏の研究家」みたいなのがいるんでしょうか。

まあ犯罪についてはさておきですけど、チームを組んでみんなが頭をしぼって取り組めば、まるで人間という種そのものが進化したかのような劇的な進歩を遂げられるんですよね。これって、ものすごい「希望」だと思いませんか。またチーム単位だけでなく、どこかでデータベースが共有された方が絶対にレベルアップされるんです。「情けは人の為ならず」という言葉がありますが、独占したり派閥に分かれたりしても、最終的には自分にとっても良い結果につながらないのではないでしょうか。

シナリオライターや小説のカルチャー講座の受講生が作家デビューする例や、編集者が書き手に転身して成功したりするパターンが増えているのもノウハウやデータベースをシェアした結果、層が厚くなっている一例なのかなと思います。まあ、私みたいな独学・叩き上げでやっているライターにとってはある意味受難なのかもしれませんが(笑)、実際のところ、長い目で見ればそういう人たちの仕事を見たりして方法論的にわかってくることもありますから、自分にもプラスになると思って好意的に捉えています。

データをシェアした方が絶対にいいのにということでは、私が以前いた公共図書館の業界についても思うところがあります。いま図書館で起こっている問題の多くが「利用者(および利用していない人たち)がほとんど図書館について知らない」からだと私は考えているのですが、同時に「図書館員は他の図書館について知らない」というのも重大な問題なのかなと。他の図書館のことを知ると、自分の館についてのヴィジョンも格段に広がるんですよ。

まあ、ある程度勉強すればわかることもあるんですけど、本や旅行ついでの見学では現場感覚って伝わらないですし。公共図書館員が問題ない範囲で現場レベルの細かいこととかをリアルタイムで更新してシェアできるプラットフォームを作れないものかなとずっと考えています。ちょっとした工夫とか、迷惑利用者対応の例とか。そんなものの一部の先行例で面白いものに、福井県立図書館「覚え違いタイトル集」というのがあります。

データベースのシェア、きっといいこと尽くめです。畑違いの人ともつながって輪を広げて、「なるほどな」と感心した方法とかはどんどん周りに伝えて自分も人のやり方を吸収すると、私たちが仕事をするフィールドはもっと豊かに面白くなると思います。いいなあと思ったことはどんどんシェアしちゃいましょう!


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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp
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