ひょっとしたら僕の人生を間違った方向に導いちゃったかもな本をいくつか

noteの募集中タグに #推薦図書 があります。先日もBar Bossa林伸次さんの記事を興味深く拝見しました。というわけで僕もちょっとやってみます。

世間という尺度ではかると、僕はたぶん「読書家」のほうに入るんだと思います。なので、それなりに本からは影響を受けているはずです。ただ、この45年間の半生を振り返って見るに、その影響が必ずしも自分にとって良かったかどうかは怪しいなと最近は感じるようになりました。

僕が今のような僕になってしまっているのはそれらの本が影響したからとも言える。「今のような僕」とは、言ってみれば「売れないライターで、めんどくさいダメンズおじさん」です(笑)。僕は、もっとまともな人間になれたのかもしれないし、あるいは来るべくして来た道なのかもしれない。

自分ではどっちとも判断がつきませんが、他人から見ればひょっとしたら僕は間違った選択肢ばかり選んでいる人間なのかもしれません。それでも、ここで挙げる本が、僕の人生の道しるべになったことは確かです。そんな本をいくつかご紹介します。

少年時代に影響を与えた本

1)海底二万海里/ジュール・ヴェルヌ(清水正和・訳:福音館古典童話シリーズ)

実は僕は小学校中学年までは本を読むのが嫌いな子どもでした。そんな僕に「物語ってこんなに面白いんだ!」と夢中にさせ、さらに「文章を書く仕事に就きたい」と思わせた罪な1冊。これを読まなければ、僕はライターになっていなかったと思われ。ヴェルヌさん、ひどいわっ(泣)

2)天空の城ラピュタ絵コンテ集/宮崎駿

ヴェルヌ本に続き、僕を惑わせた本。多くの少年は、プロ野球選手やJリーガーのプレイを見て「○○の選手になりたい!」と思うものらしいですが、アートやエンタメ系はもっとはっきり2種類に分かれると思います。「エンタメのファンになる」と「エンタメを作る側になりたい」です。僕は幸か不幸か後者でした。この絵コンテ集は、クリエイターの「創る過程」を僕にはじめてつぶさに見せてくれた本でした。中学生の頃、毎日開いていました。

3)ギリシャ棺の秘密/エラリィ・クイーン(宇野利泰・訳:ハヤカワ・ミステリ文庫)

少年時代の僕の読書ジャンルはほとんどがミステリと時代小説でした。後者は両親がよく古本屋で買ってきて読んでいたから。で、ミステリのほうは僕がたまたまこの本を書店で見つけて読んでしまったから。ヴェルヌ、ミヤザキと続き、クイーンが僕の「文章を書く仕事をしたい!」熱にダメ押しをしてしまいました。この時点でダメンズ人生が決定していたのかもしれません。

青年時代に影響を与えた本

1)匣の中の失楽/竹本健治(講談社ノベルス)

アマゾンリンクは新装版の文庫です。僕は一浪して大学に入学したのですが、受かった大学は二次志望の後期日程受験で、思い入れも何も持っていないところでした。逆に、山岳地帯の麓にある、入りたかったS大学は2年連続で落ちています。もし2浪したらもう進学はあきらめて働こうかなと考えていたのですが、2度目のS大学受験でN県に行く時、なぜかこの本を持って行ってしまった。

そして、受験前日の勉強そっちのけで夢中になってしまい、とうとう宿の部屋で徹夜して完読してしまったのです。けしからん僕にS大が門戸を開いてくれるはずもなく、あっけなく落ちました。そして青森県にあるH大学に拾っていただきました。そして僕はそのH大で人生のパートナーを見つけるのです。この本を徹夜で読まなきゃいろいろ人生変わってたのかもですね。

2)メディア都市パリ/山田登世子(藤原書店)

図書館についてよく記事を書いているので、僕を少年時代からの根っからの図書館ユーザーと思っている方も多いようなのですが、実はユーザーとしてのスタートは大学時代です。高校までは、大阪の田舎に住んでいて、とにかく家から図書館が遠かった。あと、学校の図書室は生徒の勉強場所みたいになってて雰囲気が好きじゃありませんでした。それよか家に帰れば読書好きの両親が買った本がわんさかあるので、もっぱら家の蔵書を読んでいたわけです。

青森県の弘前市にある大学に入学し、はじめての一人暮らしがはじまりました。一人の自由を得る代わりに、猛烈な知識欲の渇きもおぼえました。部屋にテレビもなく金がない僕が向かった先はアパートから何キロも離れた市立図書館でした。確か最初に利用者登録しに行った時に書架で偶然見つけたのがこの本。本書を夢中で読まなかったら、図書館にハマらなかったのかも。

この本と出合ったことで、1週間に最低1度は通うヘヴィユーザーになりました。冬以外は自転車で。雪が積もれば歩いて。卒業するころには「この図書館にはもう僕の読みたい本は残っていないかもしれない」と思うほどに読み尽くしました。そんな思い出の図書館から一昨年に講演を依頼された時はちょっと感無量でした。

3)マイルスを聴け!/中山康樹(径書房)

アマゾンリンクは双葉文庫のVersion8です。僕が読んだのは最初に出た径書房版で、装丁はこれがいちばん良かったと今でも思っています。

誰も(中山さんご本人を含め)認めないでしょうが、僕はジャズ・ライターとしてはたぶん中山チルドレンだと思います。この本が面白かったのは、マイルス・デイヴィスの全アルバムをレヴューするというどうしようもなくマニアックきわまりない内容を、エンタメ性ばりばりの読ませる文体で強引に引き込んでしまうところ。

この本に出合うまでの僕は、正直ジャズディスクガイドは「るるぶ」的なもので、情報の集合体としてしか捉えていませんでした。でも、中山さんは面白い(あるいは美しい)文章を書けば、どんなにニッチなジャンルでも相手に届くということを僕に教えてくれたのです。そういう意味では僕は中山さんの影響をものすごく受けています。ご本人とお話ししたことはないんですが。あと、ジャズ文壇における中山さんの評価・分類についてはまったく興味はありませんのであしからず。

この「読ませる文体にこだわる」というスタンスは、音楽ライターとしては別に要らないもの、ファンが特に求めていないものなのかもなと思う時もあります。なので、本書も僕を間違った道に導いちゃったのかもです(笑)。この本と、大学卒業後に東京で出合った、各執筆者の熱すぎる文体が炸裂する『ムジカ・ロコムンド』にはすごく影響を受けています。

青森移住後に影響を与えた本

1)実録 男性誌探訪/斎藤美奈子(朝日新聞社)

のちに『麗しき男性誌』と改題し文春文庫から出ています。今の僕はおそらくフェミかぶれのめんどくさそうなおっさんと思われているかもなんですが、かぶれたのはこの本に出合ったから。県立図書館に蔵書してたのを彼女が教えてくれて読んでみたのです。

それまでも僕はジェンダーやホモソーシャル的なやつには内心疑問を持ち続けていたのですが、全然言語化されていませんでしたし「なんでこんなにもやもやするんだろう?」って思ってました。そこを美奈子さまがどんぴしゃで「僕が感じてたのはこういうことだったんだ」と教えてくれたんです。

斎藤さんが教えてくれたのはもうひとつあって、人や社会のあり方の一番痛いところを衝く時、批判をする時は、絶対にエンターテインメントしなきゃいけないってところでしょうか。鋭い内容だからこそ、たくさんの人が「面白い」と思う文章でなければならない。今の僕はまだそんな離れ業ができていませんが、いつも心にその目標を留めながら書いています。

2)北の無人駅から/渡辺一史(北海道新聞社)

映画などでも今話題の『こんな夜更けにバナナかよ』の著者の2冊目の著書。僕は乗り鉄もとい公共交通で旅するのが好きです。お金が貯まっては一人旅に出てすっからかんになって帰ってくるという典型的な寅さん型人間なんですが、そこまでして旅に出たがるのはこの本の影響もあるのかなあと。つまり、この本を読まなければきちんとお金を貯める健全な人間になっていた可能性が高い。

鉄本のようでいて実は全然そうじゃなくて、北海道のローカル線の駅の周りに拡がる街や地域の歴史や社会的な位置づけ、第一次産業のありようなどを丹念に追ったもの。駅という題材はあくまできっかけにすぎません。図書館のNDC分類で言うと、6系ではなくて302とかですね(笑)。

ざっくり思い出せるものとしてはこんな感じです。しかしまあ、僕をいちばん間違った道へ追い込んだ本は、監修した『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)かも(笑)。この本を出してしまったことで、公私ともに認める音楽ライターになってしまったので。自分で言うのもなんですが、世界を見渡しても類似本がほぼない、名ディスクガイドですよ。

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オラシオ

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp
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