「東京に来たらいいのに」と言われることについて

最近「プチうつになってます」というネタをちょこちょこ書いていますので、会う人会う人に、とても心配していただきます。

そういう話になった時、私は自分のうつについての自己分析をお話しするんです。なぜそうなったのか、どういう状態になるのか、そして、これからどうしたいのかを。

それで、最初の「なぜそうなったのか」についてですが、やっぱり仕事が原因なんですね。周りのみんなはすごくうまくいってるじゃんと言ってくれるのですが、私が自分で思い描いていたほどの結果は出ていません。本出したりコンピ出したり海外取材行ったりと派手にやっているように見えているかもですが、全然足りないです。これは、人からどう見えるかではなくて、あくまでも自分の中での期待水準と達成水準のズレですね。

もうひとつは、「地方で」「中年からデビュー」して、「地方在住のまま」仕事して、専門分野は「他の誰もやっていないジャンル」という「フリーランス」の音楽ライターは、この日本には私の他にはほぼいないんですよ。

もし、地方在住者でこれから音楽ライターになろうという人がいれば、これから書くことは誰もが必ずぶつかる壁になると思うので、ひとつの情報として記しておきます。

音楽ライターという職業は、意外と「音を聴く」より「人に会う」ことのほうが大事な仕事で、ライヴリポートやインタヴューとかが仕事の口として多いんですね。田舎に住んでいると、そういう種類の仕事はほぼ来ません。音と情報さえあればできる「レヴュー」「ライナー」が仕事の大部分です。

で、レヴューやライナーがひとりの人間にそんなに偏ってたくさんオファーされることは、普通に考えてありえないですよね。つまり、この手の仕事は増やすには限度があるということです。

次に、地方は偶然の出会いから仕事につながるってことはほぼないです。やはり東京は業界関係者やクライアントになる可能性の高い人と偶然同じ場所に居合わせたり、何かのイベントで顔を合わせることが多く、そうしたきっかけから仕事につながるなんてことが、ほんとうにたくさんあるんです。

でも、私が住んでいる田舎ではそんなことはありません。つまり、私が今やっている仕事のほぼ全ては、自分でアクションを起こして取ったものばかりということになります。もともと出会いの場が少ないことを考えると、自分からの営業でとれる仕事の数にはしょせん限りがあります。

それに、それら「営業」も結局は、東京に用事で行った時に東京の編集部やレーベルを対象にやっているわけですから、厳密に言えば地元で作った仕事ではない。

さらに、田舎に住んでいることの弊害は、同業者や編集者が周りにいないので、情報交換やグチの言い合いとかもできないんですね。納得がいかないこととか自分だけで判断を下せないこと、あるいはギャラとかのこととか、人に会って話を聴いたり抱えている気持ちをシェアすればある程度解決するはずのことが、私はできない。

すべて自分の中で考え抜いて考え抜いて、かろうじて気持ちの折り合いがつく回答を自分で用意するだけ。この環境はほんとうにつらいです。

こんな毎日を過ごしていたら、それは病みますよね。そして、非常に月並みではあるのですが、SNSを見ているとそんな孤独な自分と東京にいて仲間に囲まれている(ように見える)人たちをくらべて、ものすごくつらい気分になるんです。

プチうつのきっかけ自体は、ふと気がついたら「何に対しても心が動かされなくなっている。異常にだるい」というのを発見したことだったんですが、SNSはさらにそれに拍車をかけてしまったんです。

というような自己分析を、最近の私について心配してくれる人たちにすると、ほぼ全員が、

「じゃあ、東京に来たらいいのでは」

とアドバイスをくれます。まあ、順当に考えてそれが最適解ですよね。わかります。「少なくともオラシオさんなら、仕事が少ないという問題については東京に来ればすぐ解決ですよ」と言ってくださる方もいました。

でもですね。

そもそも6年間住んでいた東京から青森市に移り住んだのは、大学時代からずっと付き合っている彼女(同じく当時東京に住んでいた)の就職がここに決まったからなんですね。私たちは「遠距離恋愛は絶対うまくいかない」派なので、彼女との仲を続けるには私も青森に行くという選択肢しかありませんでした。

当時、安い時給のアルバイトだったので、むちゃくちゃ真剣にお金のことを計算し努力して働き倒して引っ越し資金を貯め、彼女が越してから半年後に無事青森市に来れました。

私は、そういう選択ができた自分を誇りに思っています。人生でいちばん大事なものは彼女です。彼女と別れて暮らすなどあり得ない。なので、あくまで青森に住んだままで仕事を続ける、という条件下でどれだけできるのかを探るしかないのだと思っています。

アドバイスをくださった方でひとり、面白い提案をした方がいました。それは「東京と青森、拠点を2つにすればいいのでは」というものです。東京にも仕事場を持って、行き来すればどうかというアイディアですね。資金の面で問題が・・・と言うと「いやいや、オラシオさんなら仕事増やしてすぐカヴァーできますって」とおっしゃっていましたが、さてどうでしょう。

なかなか良い案だと思いましたが、それでもそういう態勢に入っちゃうと、私と彼女の関係性は確実に変わってしまうような気がします。やっぱり、彼女との仲は、現状で保ちたい。うーん。

例えば、私が専門としているポーランドのジャズのミュージシャンには、そういう「ダブル・ベース」の人が多いんです。コペンハーゲンとワルシャワ、とか。外にメインの活動拠点を置いても、本国での活動もすごく大切にするのがポーランドの人たちの特徴で、絶対に「行きっ放し」にはならないんです。札幌ベースの俳優の大泉洋や安田顕もそういう感じかもですね。

これは音楽ならばこそ出来ることで、例えばスポーツは違うチームに同時に所属したり、複数の国で並行してプレイするのは不可能ですよね。

ともあれ、ポーランドのミュージシャンたちの例なども見つつ、「ダブル・ベース」態勢についてはひとつの選択肢として頭の隅に入れておこうと思っています。

ところで、私は最近「青森」について自分から言及することをやめています。

彼女を追ってきたという偶然の理由であったものの、私はこの街が自分なりに好きだし、ここにいるということを何とかデメリットではなくてメリットとして捉えたいと思っていたので、少し前まではかなり積極的に青森について書いていました。少しは地元に貢献したいという気持ちもありました。プロフィールに書く「青森市在住」は私のひそかな誇りでした。

でも最近、決定的に心折られる出来事があったので、もうやめることにしたんです。そのことがあってからは、無力感、ストレスなしには青森ネタを書けなくなってしまったし、正直、どうでも良くなってしまいました。さいわい、私は町おこしとかに関わっていたわけではないので、嫌になったのならただやめればいい。

仲良くしてもらっている地元の人たちには、なんかごめんなさい。しょせんその程度の思い入れだったか、と思ってもらってもいいです。でも、今の私は極力ストレスになりそうな要素は排除したいんですよね。

とにかく「青森市を面白い街にしたい」とか「青森市ってこんな良いところですと知らせたい」というモチベーションは、今の私にはありません。

でもひとつだけ言っておくと、地方に住んでいるライターが地元と絡んで仕事するのは、生き残り策としては絶対に「あり」だと思います。チャンスがあるのなら、種類を選ばず積極的にやったほうがいいです。

地方は「スキルのある書き手」がすごく少ないので、きちんと仕事をすれば、継続的に仕事がもらえる可能性も高い。お金をもらう先は、多ければ多いほどいいですよね。そして、その「もらう先」は、地方だと地元ネタ関連である可能性が高いのです。

ただしここにも「地元への貢献度」「出身者かどうか」など、仕事の質とは関係ない評価という、自分にはどうしようもない壁が立ちはだかる可能性は否定できません。その辺とどう折り合いをつけて行くかでしょうね。

さて、以上のようなもろもろを経て、ある結論に達しました。私は、地方在住・中年デビュー・ニッチジャンル・フリーランスの音楽ライターとして、もうやれるだけのことはやりきったのだと。たぶん、他の誰がやってもこれ以上の結果は出せないくらいのことはやったのではないか。そう思っています。

音楽ライターとは、どう見積もってもしょせん東京の仕事なのです。私はずっと「地方でも音楽ライターはできます」ということが言いたかったし、同業者の地方への移住例が増えて欲しかったし、自分がそのロールモデルになりたかった。

ただ、一方でどうしても「東京の人たち」とくらべてしまってもいた。そして、ずっと自分の仕事量が東京の人たちの縮小版でしかないことに悩んでいたわけです。だからみなさん「東京に来たらいいのに」と言ってくれるんですよね。

でも、考えを変えたんです。私は、地方在住の音楽ライターとしてはおそらくもう最上級の結果を出しています。少なくとも音楽ライターという仕事においては、この青森市にいながらこれ以上のことはできないと割り切ることができました。今までは、東京の人に追いつきたいのに追いつけないから苦しかったんです。ないものねだりですよね。

そうではなく、私は最上の結果をちゃんと出している。そう思えるだけのことはしてきました。だから、もう東京とくらべるのも、自分の努力や能力が足りないと責めるのもやめにしました。

なので、音楽ライターとしてはこのレベルをキープしつつ、書き手として違う武器を持たなければと決意したんです。まあ、その武器を磨く場所がこのnoteだったわけですが、これからはもう少し積極的にやろうかと。

これまでは、音楽ライターがメインで、その仕事についてはすでにこれ以上できないところまでやってるのにさらにその上を目指し、うまくいかないので病んじゃったりしてたわけですよね。でも、それは音楽ライター業と「他にやりたいこと」のバランスの取り方が間違っていたんです。もう音楽ライターとしては、この辺でいいんです。だって、これ以上できないんですから。

なので、今度は別の武器をもっと磨きます。さいわい私には他にも書きたいことがありますので。音楽ライターとしての自分がもう限界までやりきっていたのだと捉え直すことで、ようやく新しいスタートが切れそうです。こんなにわくわくした気分は、とてもひさしぶりです。また、チャレンジができる!

というわけで私は引き続き東京には行きません。ここ青森市で、頑張り続けます。

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