NHK-FM「ウィークエンドサンシャイン」出演記念プレイリスト曲目詳細

5/25放送のピーター・バラカンさんのラジオ番組「ウィークエンドサンシャイン」。わたくしオラシオがゲスト出演した「ポーランドの音楽」特集でしたが、すごく良い反響があり、さすがNHK全国放送、さすがバラカンさんだなあと改めて驚いているところです。

来月来日するヤヌシュ・プルシノフスキが音頭をとってリヴァイヴァルしている伝統の「農村マズルカ」、さらにそこからショパンなどのクラシック作品を経て生まれた「ショパンジャズ」「民謡ジャズ」、そして最近のミクスチャー・トラッドなどをバラカンさんと二人で選曲しました。

ネット上の反応を見る限りでは、未知の音楽の魅力に衝撃を受けた方がたくさんいらっしゃるようでした。

というわけでせっかくですから、番組で流したものも含め、僕が今すごく推してる「民謡ジャズ」を中心にしたプレイリスト↓を作ってみました。曲を聴きながら楽しめるようにここに各曲の解説を書いておきます。表記は、曲順/曲名/アーティスト名/アルバムタイトルです。

1.Dwa serduszka / Joanna Kulig,Marcin Masecki / Zimna  wojna(COLD WAR) OST
民謡ジャズ。来月公開される映画『COLD WAR あの歌、2つの心』の主題歌的に何度も流れるポーランド民謡です。アレンジと演奏を担当したのは、今ポーランドで最も才能ある音楽家として挙げられることも多いジャズ・ピアニスト、マルチン・マセツキです。この魅惑の歌声はヒロインのズーラを演じたヨアンナ・クーリク本人のもので、彼女はパヴリコフスキ監督のデビュー作『イーダ』でもジャズ・シンガー役で登場し、歌っています。

2.Dwa serduszka,cztery oczy / Olga Boczar / Tęskno,mi tęskno
民謡ジャズ。こちらも同じ曲ですが、ずいぶんアレンジが違いますね。若手のシンガー、オルガ・ボチャルの民謡カヴァーアルバムより。ピアノはこれまた今のポーランド最高クラスの才能と言われるJan Smoczyński ヤン・スモチンスキ。作編曲家、音楽プロデューサーとしても大活躍ですが、録音エンジニアとしてはもはやこの国を代表する売れっ子です。

3.Prelude Op.28,No.3 in G major,vivace / Leszek Możdżer / Impressions on Chopin
ショパン・ジャズ。弾いてるレシェク・モジジェルは日本のジャズファンにもおなじみのスーパースター。ショパン・ジャズのトップランナーと言えばこのモジジェルか、ベテランのAndrzej Jagodziński アンジェイ・ヤゴヂンスキが双璧とされていますが、レシェク本人は最初はやりたくなかったそうで・・・(笑)。もともとはショパン・ジャズのアルバム・リリースを仕掛けたPoloniaというレーベルのオーナーに説得されて仕方なく録音したのがはじまりと言ってました。彼がまだ学生だった、90年代前半のことです。経緯はさておきその演奏がすごかったのでフォロワーも続々登場、のちに1つのジャンルとして定着した、というわけです。

4.Zyczenie - The Wish / Anka Koziel Quartet / Tales of The Forest
ショパン・ジャズ。こちらはショパンの珍しい作品「19の歌曲集」から「願い」のカヴァー。ポーランドの民謡を引用して作曲されています。歌うのはオランダで活躍するヴォーカリストで、バンドメンバーもスロヴァキア、イタリアなど多国籍。

5.Mazurka Op.68 No.3 in F major / Krzysztof Herdzin Quintet / Chopin
ショパン・ジャズ。こちらもショパン・ジャズ黎明期の名演ですね。今では作編曲家、プロデューサー、指揮者など何百枚もの作品に関わっているピアニスト、マルチプレイヤーのクシシュトフ・ヘルヂンの若かりし頃。最近はクラシックのコンポーザーとしても活躍してます。アンナ・マリア・ヨペクのバンドメンバーとして何度か来日経験あり。

6.Study 8 / Pianohooligan / 15 Studies for Oberek
ポスト・ショパン・ジャズ。ジャズと現代音楽双方の分野で最先端を走る若き天才ピアニストがマズレク(マズルカ)のリズムの一種オベレクをベースに作曲した驚異のピアノソロスペクタクル。これは言ってみれば、かつてショパンがやっていたことを現代の音楽語法を使って作られたものだと思います。ピアノフーリガンはクラシックをやる時の芸名で、ジャズ・モードでは本名のPiotr Orzechowski ピョトル・オジェホフスキを使っています。

7.Oberek dur-moll / Warsaw Village Band / Mazovian Roots : Reaction
ミクスチャー・トラッド。ポーランドのバンドと言えばこのバンドのことを思い浮かべる人も多いでしょう。ワールドクラスのミクスチャー・トラッドの代表選手。ブルガリアン・ヴォイスっぽいコーラスワークとか、普通の民謡バンドでは使われない楽器の導入など、まさに「ほんとうにグローバルな音楽はローカルなものだ」を地で行くすごいバンド。この曲もオベレクをベースにしています。ちなみにこのアルバムの国内盤(ライス・レコード)はオラシオがライナー執筆してます♪

8.Ober-Meister / Zbigniew Namysłowski Quintet / Polish Jazz,Yes !!
民謡ジャズ。御年80を迎えたポーランドジャズのシンボルにして現人神の最新作より。このズビグニェフ・ナミスウォフスキ(ナミさん)こそが今日の「民謡ジャズ」につながる音楽を何十年も先走って作っていた創始者で、僕がポラジャズにはまったのも20年近く前に彼の音楽を聴いたのがきっかけでした。これは2017年に発表された作品で、バンドのピアニストはあのSławek Jaskułke スワヴェク・ヤスクウケですよ!

9.Za las,chłopcy / Janusz Prusinowski Trio / Po kolana w niebie
農村マズルカ。来月来日するヤヌシュ・プルシノフスキのトリオ時代の作品より。バラカンさんによると、ヤヌシュはトリオ時代からずっと打楽器担当のPiotr Piszczatowski ピョトル・ピシュチャトフスキと一緒にやっていて「彼の演奏がないと、この音楽は成り立たない」と言ってるそう。ひと頃のミルトン・ナシメントにとってのホベルチーニョ・シウヴァみたいですね。

10.Ogrywka(Kujawiak) / Irek Wojtczak NY Connection / Folk Five
民謡ジャズ。マズレクのリズムの一種クヤヴャクを用いたアヴァン・ジャズ。リーダーのイレク・ヴォイトチャクはポーランド・ジャズにおけるカリスマ的なサックス奏者です。このグループは、彼以外は全員外国人なのですが、それゆえにいい感じにポーランド・トラッドの雑食性が出ている気がします。

11.Dancing All Around / Grażyna Auguścik / River
民謡ジャズ。このジャンルには女性ヴォーカルもので面白い作品が多いんですが、そうしたバックグラウンドを作ったのがシカゴとポーランド両方で活躍するベテランのグラジナ・アウグシチク。彼女のリーダー作、あるいは参加作には民謡ジャズの傑作が多いので要チェックです。最近ブラジルのギタリストPaulinho Garcia パウリーニョ・ガルシアとのデュオ『ふたりのボサノヴァ2~想いあふれて』(ミューザック)をリリース。

12.W kadzidlańskim boru / Anna Maria Jopek & Branford Marsalis / Ulotne
民謡ジャズ。現代ポーランドを代表するミュージシャン、アンナ・マリア・ヨペクもまた民謡ジャズの旗手です。もともとポップ畑から出てきたのですが、両親がマゾフシェ民族合唱舞踊団のメンバーだったということもあり、どんどんミクスチャー・トラッドとヴォーカル・ジャズの合体みたいな音楽へ。このアルバムは世界的ジャズ・サックス奏者ブランフォード・マーサリスとの連名でリリースされた最新作です。彼女の民謡ジャズものなら、小曽根真と組んだ『Haiku 俳句』もすごいです。

13.Hej,hej,Lelija / Babooshki / Kolędy i Szczędriwski
民謡ジャズ。この曲はクリスマス・キャロルです。ポーランドは国民の9割以上がカトリックなので、キャロルはじめキリスト教文化の伝統も豊かなんです。ポーランド語でキャロルのことをKolęda コレンダ(複数形はKolędy コレンディ)と言います。演奏してるのは僕のお気に入りのグループで、ポーランド人とウクライナ人の2人の女性ヴォーカリストが結成したバブーシュキ。次の作品『Vesna ヴェスナ』もものすごい傑作です。同作からは1曲、僕選曲のコンピ『ポーランド・リリシズム』に収録しています。

14.Ziema mòjô / Olo Walicki / Kaszëbë
ミクスチャー・トラッド。8曲目でご紹介したナミスウォフスキのグループへの参加で注目されたベーシスト、オロ・ヴァリツキがポーランド北部に住む少数民族カシュープ人の言語や民謡の要素を導入したプロジェクトの1stより。メンバーがすっかり入れ替わったセカンドもすごいよ。

15.Szewiec / Kamil Piotrowicz Quintet / Birth
民謡ジャズ。最近ポーランドで猛威を振るっている?20代のジャズ・ミュージシャンの中でも筆頭格の天才カミル・ピョトロヴィチのデビュー作より。この曲も上のヴァリツキと同じくカシュープ人の民謡をベースに作曲されています。本作もECMとかEnjaを思わせる良作でしたが、セクステット名義で発表した次作『Popular Music』で完全にモンスターに化けました。

16.Z ponieziałku / Sutari / Osty
ミクスチャー・トラッド。民謡のメロディや歌詞を引用しつつ現代的でミニマルなコーラスで聴かせる女性トリオ。派手さはないのですが、徐々に変化していくアレンジがほんとうにうまい。このバンドは生で聴いてみたいな。

17.Forest / Paweł Kaczmarczyk / Kaczmarczyk vs Paderewski : Tatra
民謡ジャズ。たぶん若手世代の中で今一番人気があるジャズ・ミュージシャン、パヴェウ・カチュマルチクの冒険しまくりの最新作より。ポーランド南部の山岳地帯タトラ地方の伝統音楽をコンセプトに、かつて山岳地方の民謡と向き合った国民的作曲家イグナツィ・ヤン・パデレフスキの作品を引用しつつ、ピアノトリオ、DJ、ブラス・オーケストラという大編成で現代ならではのジャズ・コンチェルトに仕上げています。

18.Jedziemy / Odpoczno / Odpoczno
ミクスチャー・トラッド。ポーランドが誇る映画の街ウッチのあるウッチ県に属するOpoczno オポチュノ周辺の伝統音楽を引用しつつジャズやヒップホップ、ポストロックなどの要素をミックスするバンド。ギターのMarek Kądziela マレク・コンジェラは主にジャズ方面で大活躍の人。

19.Krakowiak F-dur / Joachim Mencel Quintet / Artisena
民謡ジャズ。リーダーのピアニスト、ヨアヒム・メンツェルはもともとアレンジ能力に定評のあるベテランなのですが、最近ハーディ・ガーディの演奏にも目覚めて、さらに音楽の幅が広くなりました。ポーランドの伝統音楽のリズムの一つクラコヴャクをベースにしています。

20.Dark Forest / Stanisław Słowiński Sextet / Visions
民謡ジャズ。カリスマ民謡歌手ヨアンナ・スウォヴィンスカを母に持つ若手ジャズ・ヴァイオリニストの最新作より。この曲にはお母さんもゲスト参加しています。メンバーは大活躍中の20代ばかりで、ポラジャズのおいしいエッセンスがこの1曲の中にたっぷり詰まっています。ちなみに僕選曲のコンピ『ポーランド・リリシズム』にこのアルバムから1曲選んでいます。

21.Namysłowiak / Atom String Quartet,NFM Orchestra / Made in Poland
民謡ジャズ。ポーランドで今もっとも忙しいジャズ・グループって実は弦楽四重奏団なんです。ジャズに限らず、ポップス、クラシックなどなどありとあらゆるジャンルのライヴやレコーディングにひっぱりだこのアトム・ストリング・クァルテット。そのASQがチェンバーオーケストラのNFMと共演してポーランドのコンポーザーの現代的センスで演奏するというアルバムから。作曲はASQのチェロ奏者Krzysztof Lenczowski クシシュトフ・レンチョフスキで、8曲目でご紹介したナミスウォフスキの作風を意識した民謡ジャズ・チェンバーものになっています。

22.Prelude I / Szymon Klima,Piotr Wyleżoł,Adam Kowalewski / Lutosławski Retuned
民謡ジャズ。こちらはクラリネット、ピアノ、ウッドベースのトリオによるチェンバー・ジャズ。演奏している曲はポーランドが誇る現代音楽のヒーローWitold Lutosławski ヴィトルト・ルトスワフスキ「ダンス・プレリュード」で、この作品がそもそもポーランドの伝統のダンス音楽をモチーフにしています。ジャズのみならず20世紀音楽のエヴァ―グリーンと言われる『Jimmy Giuffre 3,1961』(ECM)にも通じる世界。

23.Moja siódmawka / Bogdan Halicki Septet / Etnograf
民謡ジャズ。若手ジャズ・トロンボーン奏者が結成したセプテットです。彼は8曲目でご紹介したナミスウォフスキにすごく影響を受けたようで、彼なりにナミさんの精神を受け継いで、非常に密度の濃い民謡ジャズを作り出しています。またナミさんの息子のヤツェクもトロンボーン奏者で、このセプテットに参加。つまりこのセプテットは珍しい2トロンボーンなんですね。

24.Prelude Op.28 No.20 in E minor / Leszek Kułakowski Quintet / Chopin Impression
ショパン・ジャズ。これは有名な曲ですよね。ベテラン・ピアニスト、レシェク・クワコフスキはとにかくアレンジがすごく巧みな人で、これまで民謡ジャズからピアノトリオ、ジャズシンフォまで多彩なプロジェクトを手がけてきました。僕選曲のコンピ『ポーランド・ピアニズム』でも弦楽四重奏+トリオのキラーチューン「プションシニチュカ」を収録しています。

25.Buła oseń chołodna / Maniucha Bikont,Ksawery Wójciński / Oj borom,borom...
ミクスチャー・トラッド。番組でもかけました。民謡歌手、チューバ奏者、最近では舞台女優も務めたマニウハ・ビコントと、アヴァン系を中心にさまざまなプロジェクトで活躍するジャズ・ベーシスト、クサヴェルィ・ヴイチンスキのデュオ。このアルバム、音楽も深くてすばらしいのですが、とにかくジャケのデザインがもはやアートなので、できればフィジカルで入手して欲しいです。

26.Sędkowian / Tęge chłopy / Wesele !
ミクスチャー・トラッド。こちらは番組の最後にかかったものです。上のマニウハが参加したトラッド・グループで、彼女はチューバも吹いています。クレズマーっぽい部分もありますが、かつてユダヤ人がたくさん住んでいたポーランドには、ユダヤ人文化を取り入れた音楽が今も数多く作られています。

27.19 Polish Songs Op.74 No.2,Wiosna / Inga Lewandowska,Kuba Stankiewicz / Chopin Songbook
ショパン・ジャズ。ショパン作品のジャズ化の最高峰として、もはやマンネリなくらいこのアルバムの曲をかけ続けていますが、4曲目のアンカ・コジェルと同じくショパンの「19の歌曲集」からのカヴァーです。こちらは「春」というタイトルの曲です。南西の大都市ヴロツワフに住むピアニスト、クバ・スタンキェヴィチはショパンやブロニスラウ・ケイパー(ブロニスワフ・カペル。「インヴィテイション」「グリーン・ドルフィン・ストリート」の作曲者)、ヴィクター・ヤング(ポーランド系ユダヤ人。かつてワルシャワで音楽を学んだ)など、ポーランドと深い関係のあるコンポーザーの作品の解釈をライフワークとしています。

いかがでしたか? ひとことで「民謡ジャズ」と言っても、その発想はほんとうに多様で、すごく豊かなジャンルになっていると思います。アレンジは洗練されているんですけど、メロディはちょっぴり親しみやすいテイストだし何より演奏が巧くて音がキレイなので、体にすっと入ってくるんですよね。

これを機会に、ポーランドの音楽や文化に興味を持っていただければ嬉しいです。そして、ヤヌシュ・プルシノフスキも間もなく来日。東京公演だけでなく名古屋や島根の安来、神戸公演も続きます。ぜひぜひ!

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コメント2件

仕事で拝聴できなかったので、大変ありがたいです。
ありがとうございます。こちらのプレイリストは番組で流したものよりもだいぶ「オラシオ寄り」なのですが、お楽しみいただければさいわいです。ヤヌシュ・プルシノフスキ公演のお知らせも兼ねていたので実際はもっとがっつりトラッド寄りの選曲↓でした。また呼んでいただけることがあれば、今度こそ聴いてみてください(笑)
https://www4.nhk.or.jp/sunshine/66/
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