ポーランドジャズ・オン・ザ・ポップ・エッジ

摩訶不思議で、何ともチルアウトな響きのピアノソロ作『Sea』が話題になっていることで、いま日本ではこれまで以上にポーランドのジャズに興味が集まっているのではないかと思います。

私がポーランドジャズの何が面白くてブロガー時代から頑張ってやって来たかと言うと「今の音楽」がむっちゃくちゃカッコいいからなんですね。若いミュージシャンたちが現在進行形の最先端でやっているものがカッコいい。それをとにかく日本のみなさんに伝えたい。これに尽きるんです。

ポーランドには映画音楽で有名なクシシュトフ・コメダとか、最近ワーナーと組んでCD&レコードのリイシュー・プロジェクトをやり始めた、DJを中心に大人気のMUZAのPolish Jazzシリーズとかがあるのですが、この国の音楽の話をする時にそれらについて「あれ、最高だよな」とすごく盛り上がるのに、なぜか「今の音楽」にはまったく話題が及ばないことが、私はずっと不思議だったんです。

もはや大昔と言っていいその音楽を、そんなに面白い、すごいと思っているのに、その延長線上にある「今の音楽」には興味がないなんて。どうしてもその無関心の理由がよくわからない。でも、それはやっぱりその人のせいじゃないんです。

これは要するに「紹介する人がいない」からなんだろうなあと。というわけで自分がやろうと思ったのです。それで一昨年には90年代以降の中欧音楽全般を紹介した監修本も出しました。その地道な活動の延長線上に、今回の『Sea』への注目があります。このアルバムのピアニスト、スワヴェク・ヤスクウケもまた、ポーランドのジャズ・シーンの最先端をひた走るひとりなんですね。

今回はポーランドのジャズ最先端のミュージシャンたちが関わっていて、かつ「今のリスナー」にアピールするようなポップ・ミュージックとしても聴ける音楽をいくつかご紹介したいと思います。これらを聴いて名前をおぼえて、今年から就航したポーランドへの直通便に乗ってあちらに旅行に行き、現地の人に「こんなの聴いてるよ!」って言ったら、もうあなたは一気にその人と友達になれますよ!(笑)

音源た~くさん載せたので胸やけしない程度に少しずつお楽しみくださいね♪

Jazzombie ジャゾンビー
オルタナ・ミスクチャー・バンドLao Che ラオ・チェとエレクトロニカ・パンク・ジャズのPink Freud ピンク・フロイトという2つの大人気バンドがドッキングして作られたスーパー・ユニット。ミクスチャー音楽の国ポーランドらしいサウンドです。SOIL & "PIMP" SESSIONS meets BRAHMANって感じなのかなあ。違うか(笑)

Wojtek Mazolewski Quintet ヴォイテク・マゾレフスキ・クィンテット feat.Justyna Święs ユスティナ・シフィェンス
そのピンク・フロイトのリーダーでベーシストのヴォイテクの別ユニットもかなり今のリスナー向け。大人気で、忙しくポーランド中をツアーしまくっています。この曲は最新作『Polka ポルカ』収録曲に10代の若さで国内チャートを制したエレクトロ・ポップ・デュオThe Dumplings ダンプリングズのユスティナをフィーチュアしたリミックス・トラック。元ヴァージョンも併せて聴いていただきましょう。

Baaba バアバ
このユニットは上のピンク・フロイトとも人脈的に密接な関係があるのですが、とりあえずまずはポーランドのクリス・デイヴ的なJan Młynarski ヤン・ムウィナルスキのドラムですな。いわゆる「今ジャズ」的な訛りのビートを叩かせたらポーランドでこの人の右に出る者はいないです。彼は上のヴォイテクのクィンテットのピアニストJoanna Duda ヨアンナ・ドゥダJ=J ジェイ・イコール・ジェイというデュオを組んでいて、昨年来日もしました。元ピンクのバリサク奏者Tomasz Duda トマシュ・ドゥダもメンバー。

Niechęć ニェヘンチ
ポスト・ロックとミニマル・ミュージックなんかをベースにした、これもまたミクスチャーなバンド。この試聴音源は最近発売されたセカンド・アルバムからですが、ファーストではもう少しフリー・ジャズ寄りだったのが一気にブラッシュアップされて一皮むけましたね。日本のRabbitooとか、アメリカのKneebodyにも近いと言えば近いかな。その辺の音楽がお好きな方にはオススメです。

Raphael Rogiński ラファエル・ロギンスキ feat.Natalia Przybysz ナタリア・プシビシュ
プリペアード奏法を駆使して異形の音響を作り出す鬼才ギタリストのアンビエントでプリミティヴな新作に、ジャンルを横断して活躍するソウルフルな女性シンガーがゲスト参加。これはヤスクウケ『Sea』のギター版にグレッチェン・パーラトが歌を乗せた、みたいなムードのショートトラック。
ロギンスキのこのアルバムは私も月刊ラティーナで昨年のベスト10に挙げましたし、ワールドワイドなレヴューサイトbeehypeでも現地のオールジャンルな評論家たちが選ぶ30枚に選ばれていました。他にもいろんなところでベストに選出されている、個人的に推している一枚。この響きはかなりきます。

*ナタリアとラファエルはShy Albatrossというフォーキー・ソウルなユニットもやっています

An On Bast & Maciej Fortuna アン・オン・バスト&マチェイ・フォルトゥナ
ライヴ・エレクトロニクス担当の女性アーティスト(本名Anna Suda アンナ・スダ)と、普段はけっこうがっつりフリーフォーム系の演奏をやっているトランぺッターのデュオ・ユニット。ポーランド音楽のヒーローのひとりで、現代音楽を代表する作曲家のクシシュトフ・ペンデレツキの映画音楽を再構築したプロジェクトをやったり、かなり面白いふたり。

Olo Walicki Kaszëbë II オロ・ヴァリツキ・カシューブII
ポーランドにあまたいる超絶技巧ベーシストの中でも一番変な音楽をやっているのがこのオロなのですが、これまでもいろんなところで挙げまくっているこのエスノ・ミクスチャー・ユニットはほんと強烈です。バルト海沿岸を中心に住むカシューブ人の伝統音楽を取り込んだサウンド。プログレ・ファンにも人気出そうですよね。

Nika Lubowicz ニカ・ルボヴィチ
デビューしたばかりの女性ヴォーカリストによるホレス・シルヴァーの名曲カヴァー。ポスト・クラシカルの延長線上で活躍するジャズ弦楽四重奏団Atom String Quartetががっつり協力しています。ベッカ・スティーヴンズあたりのフォーキー・ジャズの流れもくむサウンドかと。

Nikola Kołodziejczyk Orchestra ニコラ・コウォヂェイチク・オーケストラ
ポスト・クラシカルにラージ・アンサンブルといった近年のジャズのトピック関連で挙げるなら、何と言ってもこの二コラかと。ピアノトリオのStryjo ストリヨや奥さんのAga Kiepuszewska アガ・キェプシェフスカによる女性ヴォーカル・ジャズ、ネオ・バロック・チェンバージャズに現代音楽の作曲と八面六臂の大活躍です。このラージ・アンサンブルものではポップ畑の女性シンガーを起用してスキャットさせています。

Dagadana ダガダナ
このユニットはよく挙げるんですが、勝手に「ポーランドのクラムボン」と呼んでいるウクライナとポーランドの女性ヴォーカリストふたり+ジャズ・マルチプレイヤーひとりのトリオです。最近正式にドラマーが入ったのかそうでないのか。アレンジやライヴでの演奏能力もむちゃくちゃ高いですし、とにかくいい感じのジャジーポップなんです。この曲は民謡カヴァー集の最新作『Meridian 68』から中国四川省の民謡の名曲「康定情歌」。完全に生演でやってますね。すごい。

United States of Beta
ワルシャワ在住の日本人歌手Mayaも作詞で参加している非常にハイクオリティなジャジーポップ・ユニット。ドラムのBartosz Nazaruk バルトシュ・ナザルクは上のダガダナの録音にも参加してる若手の天才です。彼以外にもたくさんの才能ある若手ジャズ奏者が全面参加。サウンドの方向性は違うのですが、ロバート・グラスパーのBlack Radio的な「ジャズ・ミュージシャンでなければ作れないポップ・ミュージック」だと思います。

Maria Sadowska マリア・サドフスカ
じゃあキリがないんで(笑)この辺で締めましょうか。マリアは現代ポップシーンのミューズのひとりです。子ども時代のアイドル路線→ちょっと不良路線を経てこのクシシュトフ・コメダのカヴァー集『Tribute to Komeda』で一気にジャズシンガーとして振り切れて大化けしたんですね。もともと彼女は有名なジャズ・オルガン奏者のKrzysztof Sadowski クシシュトフ・サドフスキの娘で、歌唱力も抜群にあったんです。本作は、コメダをクラブジャズとして採り上げて新しい時代を築いたネオ・クラシックです。

*この曲はコメダが演劇「ティファニーで朝食を」の上演用に書き下ろした音楽からのカヴァーで、原曲の3:15からの部分になります。そちらを聴いてからマリアのアップデート・ヴァージョンをどうぞ

bonus track

ポップ路線じゃない、ポーランドのメインストリーム・ジャズの最先端にして最高峰、今もっとも録音が待ち望まれているグループの演奏をおまけで。


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オラシオ

Music Reviews

CDやコンサート、その他音楽についてのあれこれのレヴュー集です。
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コメント6件

スワヴェク・ヤスクウケの『Sea』ちょっと前にオラシオさんが紹介
されてたのをポチってから聴いてます。アルコールの混ざった夜の海を
漂う感じ。今回紹介されてるニカ・ルボヴィチも、かなり好き。
ポーランドジャズはふしぎな中毒性がありますね。独特の湿り気と乾いた感じが入り混じって。
Sea、聴いてくださっていますか。ありがとうございます!ニカのデビュー盤、正直よくあるムーディなヴォーカルものではと思って期待していなかったので、アルバムを聴いた時の驚きはかなりのものでした。アレンジも良いですね。ポーランドのジャズは、ずっと聴けるのが良いのかなと思っています。
ヴォイテク・マゾレフスキ・クィンテットがとてもカッコイイです。多分好き。以前紹介されていたseaも好きです。ポーランドの音楽は殆ど知らなかったので(それこそショパンまで遡ってしまう…)、新しい楽しい発見です。全部聴けてませんが、ゆっくり追いたいと思います!ありがとうございます( ´艸`)
>かねきょさん ヴォイテク、やっぱりカッコいいですよね。彼はポーランドではほんとうに人気があるんですよ。しかもお兄さんがアヴァンギャルド系のヒーローのバスクラ奏者だというのがまたすごい。方向性は正反対の兄弟ですけど、どっちもカリスマなんですね。
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