ジャズで旅するウクライナ!

最近最先端音楽のミューズ、グレッチェン・パーラトの世界初の独自コンピを発売したことでも話題になった気鋭のレーベルCORE PORTから、現代ウクライナ・ジャズを代表するミュージシャン、コンスタンチン・イオネンコのアルバムが立て続けに3枚発売されました。ディープ・トーン・プロジェクト名義の『フロウ』、クィンテット名義の『ディープ・イマージョン』、そして本日12月16日発売のクァルテットによる『ノエマ』。ちなみに、ノエマはわたくしオラシオがライナーノートを執筆しています。

実は今、イオネンコをはじめウクライナ・ジャズってけっこう日本に紹介されているんです。輸入盤で集中的に入ってきたりコンピなどに曲が収録されていたり。近年ようやくポーランドやハンガリーなどのいわゆる「中欧ジャズ」の情報が入ってくるようになったと思ったら、日本のファンの食指はもうその東のウクライナに伸びている。いろんなものを聴くということにかけては、日本人は本当に貪欲です。やがてベラルーシなんかのジャズもディグされるようになるのでしょうか。

もし自分でいろいろ掘ってみたいなら、まずこちらのウェブショップをオススメします。
http://umka.com/eng/

さて今回は、イオネンコの連続リリースを記念して、まだまだ知られざるウクライナ・ジャズのおいしいところをざっとまとめてご紹介したいと思います。まずはイオネンコを皮切りに、70年代以降に生まれた新世代のミュージシャンを中心に。

ちなみに、ウクライナ語はロシア語と同じキリル文字を使う言語なんです。下のミュージシャン紹介では英語サイトなどで使用される「置き換えアルファベット」の綴りを載せていますが、本当はКостянтин Іоненкоみたいな感じです。

コンスタンチン・イオネンコ(ウッドベース、エレキベース)
Konstantin Ionenko

ウクライナ東部の都市ハルキウ出身。ソ連の社会主義が崩壊しウクライナが独立するまで、ジャズをそんなには聴いていなかったというイマドキなミュージシャン。リーダー作のリリースペースや、複数のプロジェクトに参加する人脈の広さから言っても、間違いなく現代ウクライナ・ジャズの中心人物でしょう。ところで、彼が普段アルバムをリリースしているロシアのFancy Musicというレーベルも良さげなのがたくさんあるので、要チェックですよ。彼にインタヴューした回答がたくさんあるので、記事で載せてくれる媒体があるかどうか当たってみましょうか。それか依頼ください(営業すみません)

アレックス・マクシミフ(ギター)
Alex Maksymiw
上の一つ目の動画でも弾いています。イオネンコによると、彼こそが現代ウクライナを代表するジャズ・ミュージシャンなのだそう。10月に出したばかりの新作『Without A Word』(Double Moon Records)ではマーカス・ストリックランドをフィーチュアして、コンテン系ど真ん中のサウンドでファンを唸らせてくれます。また、アルバム発売記念ツアーは多忙のマーカスのかわりにローガン・リチャードソンをメンバーに起用。今後のアメリカ・シーンとの絡みも気になる人ですね。

ナターリヤ・リェビェジェーヴァ(ピアノ)
Nataliya Lebedeva
この人の名前は今のところ日本では「ナタ(ー)リヤ・レーベデワ」というカナ読みで広まっていますが、たぶん上の方がよりウクライナ語に近い読み方かもです。日本でのウクライナ・ジャズ・小ブーム?の火付け役となったメガネの女流ピアニスト。イオネンコの2つ目の動画で弾いています。ピアノトリオでのアルバム『Medium Cool』が最初に入って来たので欧州系美音ピアノみたいなイメージが強いのですが、どっちかと言うとフュージョンっぽいサウンドがメインみたいです。↓は彼女の大人気曲「Al Claps」。手がすごくちっちゃい人ですね(笑)

キエフ・アコースティック・トリオ(ピアノ・トリオ)
Kiev Acoustic Trio
ピアニストのパヴロ・シェペタ Pavlo Shepeta率いる、これぞ欧州風味と言うべき美音美メロが魅力のピアノ・トリオです。彼らの曲(『Moments』からの「Night Song」)は、先日発売されたばかりのCDブック『BEAU PAYSAGE Pinot Noir 2015』にも収録されています。下で動画貼った曲「Moja Piosenka 私の歌」ってポーランド語なんですよ。ウクライナとポーランドの密な関係については後ほど触れます。

こちらはシェペタが関わったウクライナ民謡プロジェクト↓

チェルカーシィ・ジャズ・クィンテット
Cherkasy Jazz Quintet
そのストレートでしゃっきり明快なサウンドから「ウクライナのマンハッタン・ジャズ・クィンテット」とでも呼ぶべきグループ。もう7~8枚アルバムを出していて、ウクライナでもかなりの人気みたいです。これが向こうのいわゆるメインストリームなんでしょうね。日本にも何枚も輸入盤が入って来ています。

Er.J.オーケストラ
Er.J.Orchestra

この人たちをジャズ・カテゴリに入れるかどうかは議論の的でしょうけど「ウクライナのパット・メセニー・グループ」とも言われているので。この手の表現、いたるところで見かけますけどね(笑)。ヴァイオリンやフルートも入った編成で、日本ではどちらかと言うとプログレのファンに人気があります。

新世代ミュージシャンはこんなところでしょうか。まあ、中には新世代とは言えないくらいの歳の人もまじっているかもですが。では、ソ連時代から活躍するベテランにはどんな人がいるでしょう。

アナトーリィ・ヴァピーロウ(サックス)
Anatoly Vapirov
彼については『ノエマ』のライナーでも触れていますので、詳しくはそちらをお読みいただくとして(営業すみません)、イオネンコ世代が台頭して情報が日本に届くまでの間は、ウクライナのジャズ・ミュージシャンと言えばほぼこの人だったんじゃないでしょうか。ビッグバンドから完全即興ソロまで超絶幅広い音楽性の持ち主。とは言え、今はブルガリアに住んで、そっちのシーンを牛耳ってるんですけどね(笑)。それくらいすごい影響力を持った人だということです。

エンヴェル・イズマイーロウ(ギター)
Enver Izmailov
エンヴェル・イズマイロフとも言われます。この人をウクライナ・ジャズのくくりで語っていいのかどうかはちょっとわからないのですが、ウズベキスタン生まれのウクライナ人ジャズ・ギタリスト。と言うか、ギタリストと言っていいのかどうかすらわからない超独特の両手タッピング・スタイルとバルカン系変拍子で迫りくる鬼才。今年のラティーナ12月号「私の好きなギタリスト」特集で挙げさせていただきました。そちらではウズベキスタンくくりで書いています(適当やな)。

ミーシャ・アルペリン(ピアノ)
Misha Alperin
旧ソ連ジャズ好きの人たちにはMoscow Art Trioのひとりとして、または最近の音楽ファンにとってはECM作品なんかでかなり評価が高い注目の人ですよね。このアルペリンもウクライナの人みたいです。

他にも、ピアニスト・作曲家として有名な人にIgor Khoma イーゴリ・ホーマという人もいるようです。こちらのショップのアルバム紹介で少しサンプル音源が聴けます。

さて、最後にポーランド・シーンと関わりのあるウクライナ人ジャズミュージシャンを何人か。ウクライナとポーランドは隣り合わせ。この辺の事情に詳しい人によればちょうど「日韓」のような間柄とのこと。まあそれを鵜呑みにするのも何なんですが、少なくとも非常に近しい関係なのは間違いないです。

私が両国の関係の濃さを意識したのは、ポーランド人ジャズ・アーティストたちのウクライナでのライヴ録音をコンパイルした『Made in Poland [ Presented in Ukraine』という2枚組の超絶コンピを見つけた時。トマシュ・スタンコ&シンプル・アコースティック・トリオの、2曲しかないと言われているオフィシャル・ライヴ音源のうち1曲が入ってたり、とにかくすごい演奏ばかりなのです。それを機にポラジャズシーンを見渡してみれば、けっこうウクライナで録音されたアルバムもあったりして。

ヴィターリィ・イヴァーノウ(サックス)
Vitaliy Ivanov
超絶ピアニストのドミニク・ヴァニャ Dominik Waniaらポーランド人ピアノ・トリオを擁したライヴ『Returning Live』を発表。どうも一時期彼はポーランドに住んで活動していたみたいです。

マリーヤ・グライェフシカ(女性ヴォーカル)
Mariia Guraievska
Ethno Jazz Synthesisというポーランド人ジャズ・ギター・トリオとウクライナ民謡+へヴィメタ的な傑作『Water Nymphs』(Hevhetia)発表。私の友人の、現地でポラジャズを語ると言ったらこの人!的なライター、マチェイ・ノヴォトゥヌィ Maciej Nowotnyさんのすばらしいブログ記事もあるので併せてご一読を。

ダナ・ヴィンニツカ(ヴォーカル、キーボード)
Dana Vynnytska
この人こそが、ウクライナとポーランドの架け橋と言うべき存在かもしれません。私がよく言及する、両国の民謡やクリスマスキャロルを現代ジャズヴォーカルのテイストでカヴァーするユニット「バブーシュキ Babooshki」、ポーランドのクラムボンとでも呼ぶべきジャジー・ポップ・ユニット「ダガダナ Dagadana」のコ・リーダーで、かつポーランド人ミュージシャンもよく参加するウクライナのスキャット・ジャズ・ユニット「ショコラード ShokolaD」にも在籍経験あり。昨年ポーランドのヴロツワフで偶然会った際、出産のため政治情勢が悪くなった祖国から同市に引っ越してきたと言ってました。下にはショコラードのライヴ動画貼っておきます。ちなみにこの時のメンバーには、南博とアルバムを録音したポラ人トランぺッター、トマシュ・ドンブロフスキと、同じくポラ人ベーシストのミハウ・ヤロスも参加してます。
(トマシュにインタヴューした記事があります→ 前編 後編

彼女らだけじゃなくて、ポーランド人と共演しているウクライナのミュージシャンはたくさんいます。イオネンコも「ポーランドはヨーロッパ最高のジャズ大国だよ」と言ってて、隣国のジャズ文化への敬意も持っているようです。ウクライナのジャズの情報ももっと入ってくるだろうこれからは、両国のコラボものという楽しみもあるでしょうね。

というわけで、盛りだくさんのウクライナ・ジャズ紹介でした。

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オラシオ

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