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書けなくて泣いた話

みなさんは、もう仕事納めを迎えられましたか。

私もこの数ヵ月妙に多忙でしたが、なんとか微妙に納められました。ほんとうは今月中に書かなきゃいけないコラムもあったのですが、提出日/締切はこちらに任されている仕事ということもありますし、クライアントはたぶん昨日で仕事納めなので原稿送っても来年まで見てもらえないだろうということで、まあ仕事納めなんじゃないかと。

さて、仕事納めを迎えたということで、自分への戒めとしてここに書いておきたいことがあります。あと、単に人に話すたびにものすごくウケるので、ウケ狙いという意味もありますけど。

実は、ついこの間、あまりに書けなくて泣きました。いい歳して。

えーと、先月から今月にかけて、ほんとうにものすごく忙しくて、大きな執筆が重なったり、急な仕事が入ったり、しかもトークの出演があったりして完全にキャパオーバーの状態に陥りまして。

そうなるほんの少し前に体調崩して一週間くらい寝込んでたというのもあったのですが。そして間の悪いことに、前から両親と計画していた北海道旅行もバッティングしてしまい。

プロのライターをはじめて数年、まだまだ駆け出しではございますが、おかげさまでこれまでいろんな仕事を受けてきたんですが「自分が100%頑張れば、相手のニーズを100%満たせる」という気持ちでやってきました。

実際は自分的に6割の出来だと思っていても大絶賛していただけることもあるし、その逆もある。でも、自分のポテンシャルと仕事の質量が釣り合っているはずだという自信を持って仕事していたんです。

でも、泣く羽目になった仕事は、ちょっと音楽とは畑の違う仕事で、文体もこれまでやってきたものとは違う上、必要な知識も広範かつ事実に正確でなければならないものでした。そして、書く量も多かった。

お仕事の依頼があって編集さんと打ち合わせした時は「やれる!挑戦する!」と意気込んで受けたのですが、ちょっと書きはじめてから完全に行き詰ってしまいまして。そうこうしているうちに、他のデカい仕事も締切が迫って来てそちらを先にやらねばならず、完全にストップしてしまいました。

とかやってる間に親との北海道旅行の日が来て、とにかく移動しながら書いたり、脳内で書き進めたりすることになりました。親との旅行と言っても、あっちは勝手に観光して、私は日中は部屋に缶詰で、夜は寝落ちするまで書き進めるって感じでその仕事に再び取りかかりました。

そこまで頑張れば何とか搾り出せるかと思ったんですが、全然思ったようなペースで書けないんですね。死ぬほど頑張ってるのに、全然進まない。それでもほんのすこーしずつは原稿送ってました。

あまり進まないままに北海道最後の日が来て、その日は親と一緒に函館から電車で苫小牧に移動するプランでした。パソコンもほとんどいじれず、ネットもあまりつなげられずで仕事も当然その間進まず。親を新千歳空港に送った後、苫小牧に戻って秋田行きの夜行フェリーに乗り、ひさしぶりにネットをつなげたら担当編集さんからメールが来ていました。

とても優しい調子で書いてはいるのですが、要は「このままでは間に合わないのでもっと急いで書いて送ってくれ」という督促でした。

これを読んだ時、フェリーの海が見える窓の側のイスに座っていたのですが、突然どっと冷や汗が全身から噴き出し「ヤバい!」と思いました。反射的に原稿のファイルを開いて、ノートパソコンのキーボードに指を滑らしてみましたが、完全に冷静さを失ってしまい、目が泳ぐばかりで全く何も書けません。

これからフェリーは海に出てネットもつながらないので調べものも出来ないし、何の資料もない。ぼろいフェリーで電源をとるコンセントすらないし、ノートパソコンの電池が尽きるまでしか書けない。おろおろしながらこれらのことを考え、一瞬「もうダメだ!逃げるしかない!」みたいな気持ちになり、フェリーの雑魚寝コーナーに行って毛布で顔を覆って、眠って現実逃避しようとしました。その時です。

毛布で光が遮断された暗闇の中で、ぶわっと涙が出てきまして。「ううっ」とか言いながら5分くらい泣いてました。ちょうどその日に、ちょっと自分の仕事のスタンスについて考えさせられることがあって、気が滅入っていたせいもあったかもしれません。

泣きながら「これは、自分が100%の力を出し切っても、求められているものができない仕事なのかもしれない」とか「自分ごときが受けてはいけない仕事だった」とかいろいろ走馬灯のように考えていたのですが、しばらく泣くともう少し違う考えがわいてきました。

「ここで自分が投げだしたら、この企画は終わってしまう。大変な損害を出版社に与えてしまうのだ」とか「そんなことをしたら、自分のライター生命はここで終わる。信用を失って、完全に干される」とか。

そう言えば、いつも「ここは人生の岐路だぞ」っていう時に私は全身にぶわっと冷や汗をかくんでした。ここでちゃんとした選択をしないと、マジでヤバいよっていうタイミングを体が前もって教えてくれるんです。

私のこの時の選択は「まだ、自分を出し切っていない。100%搾り出すまで、寝落ちするまで、とにかくこのフェリーの中でひたすら字を書き進めよう」でした。

涙を拭いて、毛布を顔から外すと、雑魚寝コーナーの向かい側で缶ビールを飲んでいたおじさんが怪訝な顔でこちらを見ていました。

結局その日は徹夜で書きまくって、朝に秋田港が近づいて来てネットが通じたら原稿を送りました。で、秋田から青森まで帰るのに時間もかかるし、ノートパソコンの充電もヤバいので、秋田から盛岡周りで新幹線で青森に帰るよう切符をとって、新幹線の中でもコンセントで電源とりつつバリバリ仕事をしてとにかく必死で原稿を進めました。

編集さんの思ったペースではなくてご迷惑をおかけしたものの、とりあえず「この日までに全部出してください」という日には何とか書き終えました。まさに根性です。今は編集さんからの原稿の直しとかでいろいろやりとりしている最中です。

今回は、まず「何とか頑張れば書けそう」という予想を覆すほどに書けない事態に直面することがあるというのを知りました。これまでしょせん何とかなっていたのは、それなりによく知っているし経験もある「音楽」ネタだったからです。現時点で、自分がそれほどフレキシブルな書き手でないことがよくわかりました。文体の面でもそうです。

とは言え、無理ゲーだと後で悟ったからと言って、受けたものは何としてでもやらなきゃいけないのです。そして当然デッドラインもあります。その上、駆け出しの私に「僕には無理そうなんで、この仕事は受けられません」という選択肢はないです。大きな仕事が来るだけで光栄だし、幸運なのですから。

その前提がある上で、どんな仕事ぶりで応えるかだけのことですよね。正直、頑張りはしましたが、自己評価では「もうここから仕事はいただけないかもな」です。もちろん、先に書いたように自己評価とクライアントからの評価はズレることがあるのでわかりませんが。

しかし、編集さんもプロの目で私の原稿を精査しているわけなので、OKが出るということは、商品としてはちゃんとしているのだろうと思わなくては失礼ですよね。だから、ここで書いている反省は、あくまで自分への戒めとしてです。

ほんとうは、全ての仕事をニーズより少しでも上のものを提供しなきゃいけないと思っているんです。でも、今回はこちらが100%以上頑張っても届かず、編集さんのサポートでしっかり引き上げてもらわなきゃ100%にならない感じだったのではないかという自己評価なんです。

作家のエッセイなんか読んでいて「書けなくて泣きたくなることがある」なんて書かれていて「ははは、オーバーな」と笑っていたのですが、自分もそんな風に追い詰められる経験をしました。

毛布をかぶって泣いたあの5分間は、ほんとうに辛かった。とにかく逃げ出したかった。しかしフェリーという密室だったのが良かったのかもしれません。どこにも行けないんですから。

情けない有様でしたが、とにかく私はその5分間のあと、ちゃんと立ち上がってできる限りの努力はした。これからの課題についてはしっかり考えていかないといけないとしても、短い時間で立ち直ったというその事実だけは、今後のステップとして前向きに捉えてもいいのではないかと思っています。

これを読んで「あ、こいつに仕事頼むの止したほうがいいな」と感じた方も何人かいらっしゃるかも。仕事にとって損するだけなのでしょうが、さっさと笑い話にしたい気持ちもあり、辛い思い出(自業自得ですが)を書いてみました。

*トップの写真は、苫小牧東港→秋田港フェリーの窓から見える徹夜明けの日本海の眺めです。ここでずっと書きまくって、明るくなってきたので朦朧としながら撮りました(笑)

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オラシオ

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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

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