"できない"と言ってることのほとんどは、実は"できる"

先月の上旬から下旬にかけて、ヨーロッパ4ヵ国取材旅行に行ってきました。

旅の中でいろんなミュージシャンや音楽関係者に会い、いろんな話をしましたが、中でも強烈に印象に残ったのは、ポーランドの天才ジャズヴァイオリン奏者マテウシュ・スモチンスキ Mateusz Smoczyńskiとのこんな会話でした。

ちなみにマテウシュはこんな音楽家です。過去の作品を持ちだして彼には申し訳ないのですが、私はこのアルバム↓の「Reversion」という曲が好きで好きで。ポーランドジャズの美しさを凝縮したような曲なので、ぜひ皆さんも一度聴いてみてください。

コペンハーゲンでのコンサートの後で談笑していたら、「ところでヨシノリは楽器を演奏するの?」と彼が訊いてきたんです。

音楽ライターには大きく分けて二種類いると思います。楽器を演奏する、あるいは演奏していたことがある分析タイプと、まったく演奏したことがない評論タイプ。もっとも、最近はプロのミュージシャンでありながら評論的ライター業も積極的にこなすハイブリッドなスキルの人も増えてきています。

そんな私は、あえて言うなら前者なのでしょう。20代の終わりくらいまでは、プロのミュージシャンを目指してエレベを弾いてましたし、作曲なんかもしていました。どうしても、元プレイヤー&作曲者の目線から音楽を捉えてしまう部分があると思います。なのでマテウシュに、

「若い頃はベーシスト兼コンポーザーだったけど。でも自分はうまくできないと思って、やめちゃった」

と答えたんです。すると彼は、

「いやいや、人ができないって言ってることのたいがいは、実はできるんだよ」

と言うのです。ニコニコしながら言ってたので、私のあきらめを叱る感じではなくて、本気で世界はそういうものだと信じているのでしょう(笑)

内心「何を言ってんだ、それはお前が天才だからだろう」とは思ったのですが、彼の言うことにもう少し耳を傾けてみました。マテウシュ曰く、

「できないって言ってる人のほとんどが、実はできるポテンシャルを持っている。ただ練習が足りないだけなんだよ。だから君もずっと演奏を続けられたはずだ」とのこと。

結局その時の話は「だからその、練習ってやつが僕は嫌いなんだよ」ってことで笑いあって終わったのですが、彼も「うーん、練習も楽しいのになあ」みたいな感じで微妙に納得はしてないようでした。

私は怠け者なので、ちょっと彼の言葉がグサリと刺さってしまいました。

根性論って大嫌いなのですが、実はたいていの「できない」は、根性論の領域以前の、毎日の淡々とした積み重ねで「できる」ようになるんですよね。今、私が、あなたが「やれたらいいな、でもできないな」と思っていることのほとんどが。

そしてその積み重ねとは、毎日の家事とかそういうレベルのささやかさなのではとも思います。それくらいのほんのちょっとを毎日やり続けるだけで、おそらくそのやりたい何かはいつかできるようになるはず。

それがわかっていても、日々の暮らしに必要な料理や洗濯ではなくて「技術習得のための努力」というお題目がついた途端に、継続へのハードルがものすごく高くなる。

もちろん私がどんだけ努力したってマテウシュみたいな天才にはなれないのですが、しかし確かに彼が言うように、アマチュアミュージシャンであり続けることくらいはできたはず。

彼の言葉を聴いて、必要なスキルの習得に向けて努力ができる人って、努力をしているというよりも、もっと淡々とした日常の営みを繰り返している感覚なのかもなあと気づきました。そして、努力のことをそういう風に捉えられる性格かどうかにかかっているのかも、とも。

上の写真は、クラクフでホテルに戻ろうとしたら偶然マテウシュがストリートやっているところに出くわした時のもの。思わぬ再会にハイタッチ。右にいるヴィオラ奏者は、彼とTurtle Island String Quartet↓で同僚だったドイツ人Benjamin von Gutzeitです。

ところで私、音楽ライターとしては、きちんとしたインタヴューってあまり好きじゃないし得意じゃないんですよ。そのかわり、こういう風なプライベートな会話をするのは大好きだし、向いてると思います。

彼ら彼女らがひとりの人間として口にするふとした言葉から、ミュージシャンとしての美意識とかが垣間見えるようなシチュエーションってけっこうあるんですよね。そういうところから拾う名言って、けっこうあとあとまで印象に残るんです。

また、そういう言葉が現れるのに対してアンテナを張りながら会話するのも面白いんですよ。そして、そういう場所にいられるのも、自分ならではかなとも思いますし。なので、今後もそういう会話を積み重ねていきたいし、その中で聴くことができた刺さる言葉を、ご紹介していきたいと思っています。

マテウシュについて興味を持った方、ぜひ↓のアルバムも聴いてみてください。

↓クインテット名義の最新作

↓ジャズ弦楽四重奏団の到達点の一つAtom String Quartet。もちろんマテウシュもメンバーです。

↓ヴァイオリン、オルガン、ドラムというこのNew Trioもヤバいっす。

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オラシオ

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