なぜ日本のジャズじゃないの?

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一昨年の11月、「あなたがポーランドに行ったことがないなんて、おかしいでしょ。だからとにかく行ってきなさい」という半ばわけのわからない理由で交通費や滞在費などの資金援助を受けて初ポーランドに行ってまいりました。サポートしてくださったのはポーランド広報文化センター、ポーランドの文化機関Adam Mickiewicz Instituteです。

ちょうど同じころに私が監修した『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)という本が出版されるので、それを現地にプロモーションしてくるという目的が一応できました。

他にもいくつか目的があって、もともと親交があるポーランドのミュージシャンたちに会って話をしたり、コンサートに行ったり。その中でも一番大きな目的は、南西部の大都市ヴロツワフで11月に開催されるジャズ・フェスティヴァルJazztopad Festivalにポーランド人ミュージシャンが出演するプログラムを見に行くことでした。
(上の動画のグループも出演者のひとつでした。現代ポーランドを代表するヴァイオリン奏者アダム・バウディフのイマジナリー・クァルテットです)

個人的には、ほんとうにただ向こうのジャズフェスを見たいという一ファンみたいな気持ちでいたのですが、ジャズフェスに「日本からのジャーナリスト」という形で招待を受けて、ホテルも用意してもらっていました。この時のポーランド行きをサポートしてくれた3つめの機関が、このジャズフェスだったというわけです。で、同じように世界中からゲストとして呼ばれていた人たちの面子がすごくて。

ウィントン・マルサリス Wynton Marsalisが芸術監督を務めていることで知られるジャズ・アット・リンカーン・センターとか、ヨーロッパ各所の有名フェスのディレクターやオーガナイザーが何十人も集まっていて、ホテルの部屋に置いてあったゲスト・リストを見てゲゲーッとなりました(笑)

ヴロツワフには何日か滞在して、彼らとほとんどずっと行動を共にしていたので、音楽についてなどいろいろ話が出来たのですが、中でも、すごく印象に残った質問がありました。

「君は、日本のジャズについては書いてないの?」

「書いてないよ。主にやってるのはポーランドの音楽だね」

「うーん、それの意味がちょっとわからないんだよね・・・。なぜ、日本のジャズじゃないの? 君は音楽ジャーナリストだろ?」

確か、イタリアから来たすごく有名なジャーナリストの人から受けた質問だったと思うのですが。

英語力があまりないのと、真面目な話をする時に外国の人は愛想笑いをせずにすごくシリアスな(=怖い)表情になるので、最初は私のスタンスを批判したいのかなあと思ったんです。

でもこの時何か答えようとしてちょうど移動時間になり、そのままになってしまいました。ちょうどいいので、どう答えるべきか一日考えることにしました。

次の日の移動のバスの中でたまたま彼の席の近くに座ったので、拙い英語力で、自分のやっていることの説明を試みてみました。

「昨日あなたに訊かれたことだけど・・・」

「???」

「なんで日本のジャズについて書かないのかってことだよ」

「ああ、あれね。今も訊きたいよ。何でなの? と言うのは、日本にもちゃんとジャズシーンがあるんだろ? 各国にちゃんとジャズシーンがあるはずなんだ。僕は、ジャズ・ジャーナリズムに関わる者は、自分の国のジャズについて積極的に書いているものだと思っていたからさ」

「なるほど。そういう意味だったんだね。確かに、日本にもジャズ・シーンがちゃんとあって、東京ではすごくたくさんのライヴが毎日行われている。歴史もあるし、偉大なレジェンドもいるよ。僕だって、その中にいい音楽がいっぱいあると思っている。個人的に好きで聴いているものもあるよ」

「そうだよね。じゃあなぜ?」

「でも、それを書く人は何人もいるというのも事実で。じゃあ、他の国のジャズについて書く人は? アメリカのジャズについて書く人はたくさんいるよ。でもヨーロッパのものに関してだとグッと少ない。で、ポーランドのジャズは? 僕しかいないんだよ。もちろん、他にもいてくれればいいと思っているし、もっとたくさんの人に聴いてもらいたいとも思っている。けど今は、僕がやらなきゃ誰もそれを日本に伝える人がいないんだ。日本のジャズについては、誰か前から書いている人がとりあえずやればいいし、やりたい人も自然に新しく出てくるだろう。だから僕はそちらはそういう人たちに任せている。そのかわり、僕は自分の役割を一生懸命やっているんだよ」

「なるほど。すべて理解した。君の言うことはもっともだし、素晴らしい仕事だと思うよ。実際、こうやってまとめてポーランドのジャズを聴いてみたら、ものすごくレヴェルが高いよね。納得だよ」

この質問に答えることで、今までボンヤリとしか認識していなかった自分や日本の音楽ライターのありようをはっきりさせることができたと思っていて。

ひとつは、日本は世界で一番「たくさんの種類」の音楽を聴いたりCDやレコードを買ったりできる国で、同時にそれらについて書くライターがたくさんいるということ。

どんな国のどんなジャンルについても、有名無名問わず恐ろしく知識があって、発信もできる人がいる。もちろん「どんな」というのは少し盛っていますけど、日本のような小国でそういうことができる人が一定数いるというのはすごいことだと思うんです。

もちろん、イタリア人の彼が発した問いはそのまま「もっと自分の国のカルチャーについて掘り下げなくていいの?」という、雑食中心的な日本の音楽ジャーナリズムについての批判として受け取ることもできると思います。それでもやっぱり、日本人の音楽に対する貪欲な姿勢はある種の希望とも思えますし、個人的にもそうした雑食性は好きです。

その上でもうひとつ。

今は、ポーランドの音楽について書く人はほとんどいません。ポップミュージックならパウラさんという心強い同志がいますけど、ジャズについてはほぼ私だけと言ってもいいかと思います。

ドイツの有名レーベルECMなどの文脈で、提唱者の柳樂光隆さんをはじめとしたJazz The New Chapterムーヴメントに積極的に関わる書き手の人たちが少し触れることもありますし、もともと幅広く何でも書けるスタンスでやってこられた先輩世代の方たちもその広大な興味範囲のごく一部として言及することもあります。が、それはやはりポーランドの音楽の小さい欠片にしかすぎません。彼らは彼らの文脈で仕事をやっていますから「すごいんだからもっとポーランドのジャズをとりあげてよ」というのはないものねだりです。

だから、私自身がやるしかないんです。

彼に答えたあと、急に自分の肩にズシーンと何かがのしかかってきたような思いにとらわれたことをおぼえています。

つまりそれは、

自分がくじければ、しばらくポーランドのジャズを伝える人がいなくなる

ということの重責です。なんか、一ライター一個人としてこの仕事がうまくいくいかないという小さなところに立っているわけじゃないな、と。そんな些末な問題で立ち止まっているわけにはいかない。いくつものポーランドの機関がサポートもしてくれているわけだし、ポーランドのジャズを日本にどうやって伝わっていくのかが私のこれからにかかっているのです。

音楽ライターをやってみたけど、結局うまくいきませんでしたじゃすまされないなあとこの時改めて気づいたわけなんです。個人の人生の一ページとして終われない。もう力技で、自分が成功するほうに持って行かなきゃダメなんです。

そしてさらに最後に。

上で紹介した私の本にも執筆してくださったプログレライターの祖父尼淳さんという方がいらっしゃいます。彼はプログレ・バンドの招聘やフェスの開催にも力を入れてらっしゃるのですが、その祖父尼さんがある時仰った言葉が忘れられなくて。

「みんなの夢を実現するために頑張るだけですよ」

そうなんです。私はすばらしいポーランドのジャズを日本のみんなに聴いてもらって楽しんで夢見てもらうのが仕事なのです。

ポーランドのジャズがたまたま出会ったのが、青森市に引っこんでいて、しかも違う分野もいろいろ書きたがる私みたいな奴だったのが幸か不幸かわかりませんけど、この出会いが幸福なものになるよう、そしてたくさんの楽しい夢を生むように自分にできることをどんどん頑張ろうとその時改めて感じたのでした。だって、私はこれからの時代を背負っているのだから。

とりあえず、私が他のジャンルや分野について書いたりするのは、すべてポーランド・ジャズの普及につながると思ってやっています。そちらで出来たファンのみなさんも、ポーランド・ジャズの世界に引きずりこめればと目論んでいますから(笑)

私もかつてポーランド・ジャズに夢を見た人間なので、その夢をみなさんにもぜひ味わって欲しい。ただ、それだけです。

これからもっともっとポーランドジャズがらみで楽しいことが起こります。そういう機会を、きっと作り出します。みなさん、期待していてくださいね。

というわけで、今一番日本のみなさんに夢を見させている作品スワヴェク・ヤスクウケ『Sea』からも1曲どうぞ。


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オラシオ

ライター、コラムニスト。青森市在住。『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』(DU BOOKS)監修。コンピCD『ポーランド・ピアニズム』『ポーランド・リリシズム』(コアポート)選曲・解説。ご依頼はaladyhasnoname@yahoo.co.jp

ポーランドの旅

2014年11月後半&2017年4月後半の二度のポーランド旅行で見聞きし感じたあれこれをつづります。
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