クマムシ地獄

★クマムシ研究日誌

 私がクマムシの研究を初めて10年以上が経ちました。ここでは、これまでのクマムシ研究生活を振り返りつつ、その様子を臨場感たっぷりにお伝えしていきます。

【第37回】クマムシ地獄

 野外で捕まえたオニクマムシが、どの程度の線量のガンマ線とイオン線に耐えられるかがわかった。次は、オニクマムシが放射線照射後に生殖能力を保持しているかどうか、つまり、子どもを残すことができるかを検証した。

 この実験では、大事に大事に育てたオニクマムシに放射線を照射するわけだが、必要な実験とはいえ葛藤があった。大事育てたブタたちを出荷する養豚場の人々も、きっと似た心境があるに違いない。

 実験では、まだ成熟していない7日齢の幼体オニクマムシを活動状態と乾眠状態とに分け、照射実験に用いた。7日齢で揃った個体をたくさん用意するため、この時は相当数のオニクマムシに卵を産ませ、同じ日に孵化した個体を同時に飼育した。そして幼体に1000グレイから4000グレイまでの放射線を照射し、その後の生存期間と繁殖を調べた。

 照射後のオニクマムシを飼育培地に移し、餌としてヒルガタワムシを与えて実体顕微鏡で毎日観察した。動かなくなったオニクマムシは、死んだものとして培地から取り除いた。産卵した卵も無いかどうか逐一チェックした。

 この時はおよそ500匹のオニクマムシを一度に飼育観察した。これくらいの数になると、ヒルガタワムシの回収作業や培地交換作業だけでも相当な時間がかかる。結局、クマムシの飼育観察は、土日祝日もなく、毎日、朝から深夜にまで及んだ。平均して1日に16時間ほどをオニクマムシの飼育と観察に費やす必要があった。

 照射実験前からの飼育作業も含めて、かなりの重労働になっており、心身ともに疲労が蓄積していった。天井を這う巨大なオニクマムシが、ドロドロと溶けながら何匹も自分の顔にバタバタ落ちてくる夢を見て目が覚めた夜もあった。

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