荒川和晴インタビュー第4回「クレバーなゲノム解析ツールを作る」

☆───────────日本滞在

 あっという間に日本での滞在が終了してしまいました。今は飛行機の中。

☆───────────福島の小学校

 17日は福島の真野小学校でクマムシの講義。真野小学校は3.11の津波被害で校舎が使えなくなり、他の小学校の校庭に急遽建てられた仮設校舎で授業をしています。生徒さんの半数も、家が津波で破損して住めなくなってしまったそうです。

 しかしそんな逆境にも関わらず、生徒たちは皆元気で明るく、こちらの方が楽しくなってくるような雰囲気でした。講義の際、クマムシの動画を流したあたりではちょっとした悲鳴も聞こえた気もしましたが、クマムシさんのぬいぐるみは好評でした。

 そして、むしマガの収益で購入した実体顕微鏡3台を贈呈しました。この顕微鏡でクマムシ以外にも色々なものを見て楽しんでもらえればと思っています。

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荒川和晴インタビュー(第4回)

荒川和晴 (慶應義塾大学 先端生命科学研究所)

☆プロフィール☆

 2006年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 バイオインフォマティクスプログラムにて博士号(政策・メディア)を取得。同・助教を経て、現在同・特任講師。G-language Projectリーダー。クマムシ乾燥耐性のマルチオミクス解析を通して、生命活動と非生命の違いを細胞のダイナミクスから明らかにすべく研究中。

URL: http://web.sfc.keio.ac.jp/~gaou/
Twitter: https://twitter.com/gaou_ak

E-mail: gaou@sfc.keio.ac.jp

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第4回【クレバーなゲノム解析ツールを作る】

荒→荒川

堀→堀川

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☆G-languageとは

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堀:で、結局学部時代に一番大きなテーマというか、一番力を入れた研究はどんな感じのものだったんですか。

荒:えっと、G-languageというプロジェクトになりますね。ゲノム解析のための基本的なソフトウェアパッケージみたいなものを作ったんです。これは、僕が2年生の終わりくらいから始めたプロジェクトですね。かなり色んなプロジェクトをやっていたんですが、ゲノム解析をやり始めるにあたって、当時は皆、自分でプログラムを組んでいたんですよ。それはソフトウェアを知っている人から見たら、結構ありえない話で。

堀:そうなんですか。

荒:再利用できる部分というのは色々あるから、そういうのをライブラリという、皆が共有して使える形にしてまとめよう、と。例えばゲノムファイルを読み込むとか遺伝子の部分を切り出すとかは、必ずやる処理になるんですが、それを皆がプログラミングしてやるのではなくて、そういうセットを用意してあげると、あとは皆がそれを使いながらプログラムを組むことができるので、劇的に高速化できるという部分があります。あともう一つは、そういうのを集めていけば、皆の叡智を集約して、ある人が使っていた方法を誰でも簡単に使えるようになるので、劇的に解析技術が上がることが期待できたので、そういうソフトウェアを2年生の終わりくらいから作り始めたんですね。

堀:へえ。

荒:それも、世界初だったというか。BioPerlとか色んなライブラリがあったんですけど、僕らはライブラリだけじゃなくてグラフィカルなインターフェースを作ったりして、簡単にワンクリックでWindowsにインストールできるようなものも作ったりして。僕、学部4年生のときに論文を出していて。その時にちょうどISMBという、数千人が参加するバイオインフォマティクスの世界で一番大きな学会があったんですけど。そこで発表したら、ベストポスター賞をとったんですよね。

堀:それは、学生部門じゃなくて、学会全体の中のベストポスター賞ですか?

荒:そうです、全体のです。

堀:すごい...。

荒:それでまあ、他にも色んな賞をとって。

堀:本当に規格外ですね。

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☆G-languageとは

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堀:G-languageを開発されていた当時、BioRubyとかもあったと思うんですけど。

荒:BioRubyはちょうど立ち上がり始めたときくらいですね。BioRubyとG-languageは、立ち上がり時期がほとんど同じですから。

堀:基本的にやれることは同じなんですか?

荒:似てると言えば似てるんですけど、BioRubyとかBioPerlは言語のライブラリだけを意識しているんですよ。

堀:そもそもライブラリとは何ですか。

荒:ライブラリっていうのはですね、たとえばプログラムするときには関数があって、まあ命令ですね。コンピューターにする命令があって、命令する言語があるんですが。例えば遺伝子の領域をとってこいという命令は、もともとコンピューターにあるものじゃないんですね。コンピューターに元々できる命令っていうのは、これを何回やれとか、これを書き出せとか、そういう処理なので。遺伝子という情報はわかっていないから、そういう情報を教えてあげて、新しく遺伝子のこの領域をとってこいという命令を作れるわけなんですけど、その命令のセットをまとめて提供しているのが、ライブラリになります。

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