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1年目の番記者が見た、浦和レッズ「3年計画」の現在地 【エルゴラッソ沖永雄一郎記者インタビュー前編】

浦和レッズは、2020シーズンを10位で終えました。「AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得」「得失点差+2桁」という目標も達成できず、結果だけで言えば、ファン・サポーターとして、なかなか気分の晴れないシーズンになってしまいました。

リカルド・ロドリゲス新監督の就任発表など、来季に向けた動きも徐々に出始めていますが、「3年計画」の1年目と位置付けられた2020シーズンを、どのように消化して、新シーズンに臨めば良いのか。

年の瀬に、サッカー専門紙エルゴラッソの浦和番・沖永雄一郎記者(ジェイさん)にお話を伺いました。

※このインタビューは12月22日に実施しました。

ジェイ(CV:沖永雄一郎)
2019年10月よりアイキャンフライしてライター業に。/エルゴラッソ2020年浦和担当/フットボリスタ寄稿(レノファ山口、LEEDS UNITED等)/福山シティFCお仕事も少々/インテンシティ。
Twitter: @RMJ_muga
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元浦和サポだけど、「浦和番」「マジすか!?」

――ジェイさんは今シーズンから浦和番になられたと伺いましたが、これまで浦和レッズとの接点はあったのでしょうか?

僕は山口県出身ですが、実は元浦和レッズサポーターです。Jリーグの開幕と同じ頃にサッカーをはじめたのですが、サッカーにはまると同時に、「Jドリーム」という漫画にはまりました。その主人公(赤星鷹)が浦和レッズ所属だったので、浦和を応援し始めたという感じですね。ホーム開催にはほとんど行けてないのですが、テレビでは大体見ていましたし、大学生になって以降は、神戸や広島など、西日本のアウェイゲームはちょくちょく行っていました。

今でも覚えているのは、2005年のアウェイの大分トリニータ戦、ネネとアルパイが退場した試合ですね。9人になった浦和がひたすら攻め続けていたけれど、最後にカウンターから高松にやられて負けてしまった。アルパイが警告に怒ってペットボトルを蹴飛ばしたのですが、水をまき散らしながら真上に舞い上がって、ペットボトルってあんなにきれいに飛ぶんだなと感動したのをよく覚えています(笑)。当然、すぐに2枚目が出て退場になりましたが。

記録を調べたところ、アルパイは前半3分に退場していました。

ただ、地方在住のサポーターだったので、駒場スタジアムや埼玉スタジアム2002は、当時1回ずつしか行ったことがありませんでした。駒場は天皇杯の徳島ヴォルティス戦で、たしか相手に柿谷がいましたね。埼スタはマンチェスター・ユナイテッドと対戦したときですね。

――内舘秀樹がミドルシュートを決めた試合ですか?

その試合ではなくて、お互いVodafoneが胸スポンサーだったときですね。マンUにはクリスティアーノ・ロナウドやウェイン・ルーニーがいたと思います。

ただ、フィンケさんが辞任した頃から、浦和レッズから少しずつ離れてしまいました。フィンケさんは新しいスタイルを作ってくれそうで個人的には結構好きだったのですが、辞める経緯がごたごたしていたので、そのあたりから少し。

浦和レッズの試合はその後も見ていましたけど、徐々にがっつりサポという感じではなくなっていきましたね。ちょうど同じ時期にレノファ山口が上がってきたので、地元のクラブを応援しようというのもありました。

――数年ぶりに、今度は番記者として戻られましたが、いかがですか?

エルゴラッソと接点が出来たのは2019年末からなのですが、当初は「関東圏のクラブの担当になりそう」とだけ言われていたので、勝手にJ2のどこかかなと思っていました。それが1月の半ばに、「浦和です」と言われたので、思わず「マジすか!?」と聞き返しました(笑)

記者としては駆け出しの人間が、浦和のようなビッグクラブを担当していいのかと思いましたね。変な言い方ですけど、もっとやりやすい小規模なクラブでスタートするのだろうなと思っていたので、ビビりました。

ジェイさんが番記者になるまでのお話は後編でご紹介します。

そこから慌てて埼玉のアパートを探しましたが、引越しの関係もあって、沖縄キャンプは見られませんでした。キャンプ明け、大原での練習が始まる前の日にようやく引っ越すことができましたが、その翌日に段ボールを積んだまま、慌てて大原に挨拶に行きました。

初めて大原のクラブハウスを訪れたときはびっくりしましたね。記者の人数も多くて記者ルームまであって、WIFIも飛んでいる。人は多いし設備はすごいし、何より画面越しにしか見たことない凄い選手達がいる。とんでもないところにきたな、こんなところでやっていけるのか、というのが最初の正直な感想でした。

「ゼロ年目」の印象

――2020シーズンの印象はいかがでしょうか?

実は、最初に大原に行った際に感じたのは、凄い選手達が揃っているのにサッカーが全然うまくないなということでした。そして、それはシーズン通してあまり変わりませんでした。選手個々のスキルはJリーグの中でも高いと思いますけど、まとまって動くときにぐちゃぐちゃになってしまうなという印象はずっとありましたね。

グループでの練習をやっても全然機能しない。攻撃の方が人数の多い、数的優位の練習をやっても全く点が入らない。一人ひとりが考える時間が長く、スムーズさを感じない形が多かったですね。守備でも、基本的なチャレンジ&カバーの動きができていませんでした。こんなこと今さら言わなきゃいけないのか、というようなことを大槻監督が指導する場面もありました。

これで開幕して大丈夫だろうか?と感じていましたので、ルヴァンカップのベガルタ仙台戦での大勝は逆にびっくりしました。まあでもJ1のチームを練習から試合まできっちり追うのは初めてだったので、本番になるとこういうものなのかなと思っていました。練習でうまくいきすぎても良くないですし、やっぱり浦和は強いのかなとその時は思いましたね。

開幕してすぐ中断に入りましたが、中断明けはとにかくコンディションの調整と、動きを思い出す作業が大変そうだなという印象でした。町田ゼルビアとの練習試合はYouTubeでもみなさん観られたと思いますけど、選手達の動きは重かったですよね。再開直後は厳しい戦いが続きながらも結果を出していましたが、ずっと紙一重だったのだろうと思います。

おやっと思ったのは、8月くらいですかね。名古屋グランパス戦の大敗などもありましたが、どうもこれは思ったよりうまくいっていないようだとようやく気づき始めました。

振り返ってみると、監督が変わり過ぎたからなのか、選手たちの頭の中がぐちゃぐちゃになっていたんだろうと思います。何かを積み上げる以前の問題だったという印象で、大槻監督も終盤に「針をゼロに近づける」「選手の目線を揃えてサッカーをする」というコメントをしていましたけど、シーズンを通してそういう「ならす」作業をしていたのだと思います。

クラブとして目指しているものはきちんとあり、3年計画もありますけど、そういう意味では今年は「ゼロ年目」だったと思います。クラブはそうは思っていないかもしれないけれど、実態としては1年目ではなくゼロ年目でした。僕は夏頃にようやく気づきましたが、ここ数年を見ていた方はもう少し早く認識していたというか、最初からわかっていたのでしょうね。

過去の文脈と2020年の実像

その一方で、過去の文脈を知らないからこそ見えたこともあったのかなと思います。10月のFC東京戦で柏木陽介選手をボランチ起用して、「時計の針が戻った」などとネット界隈がざわついたじゃないですか。でも柏木選手は練習ではほとんどボランチをやっていたので、別に特段驚くことではありませんでした。むしろ横浜FC戦で右サイドハーフで起用されたことにびっくりしました。これは公開練習では一度も無かった形でしたから。

大槻監督のコメントにもありましたけど、出番が少なかったのはコンディションが主な要因だったと思います。コンディションが上がってきたときに、名古屋やFC東京など、カウンターサッカーのチームだから柏木を使うというのは普通の考えだったたのかなと。名古屋や東京が固めてきたときに、柴戸とエヴェルトンではちょっと崩せないでしょというのは当然あるわけですから。

もちろん、走れる選手、体が強い選手を重視しているのだろうなとは見ていましたが、柏木がボランチに入ったからといって、それで急に何かが起きたとは思いませんでした。そんなに深く考える問題ではなかったのかな、と僕は思っています。

結局のところ、今シーズン自分たちのやりたいことを押し通せるほどの力がなかったのだと思います。槙野選手からリアクションサッカーという言葉も出ましたけど、どうしてもリアクションにならざるを得なかった。うまくいったときはいい形が出ましたが、当たり外れがはっきりしていました。顕著なのは、2点差がつくとどうしようもなくなってしまうこと。1点差ははね返した試合もありますけど、2点差がつくとどうにもならない。それが土台を作り切れなかった部分なのだろうなと思います。

本当はもっと前線から行きたかったけれど、夏に再開してしまったのでそれが難しかったというのはあると思います。涼しくなってきてからは少し良くなってきましたよね。10月の柏レイソル、ベガルタ仙台、セレッソ大阪戦あたりは上位に行けるんじゃないかというものを見せてくれました。これがもし通常のシーズンだったら、まだ涼しい時期に失敗しながら積み重ねることができたのかもしれませんし、ひょっとしたらこの10月の好調というのがもっと早く来て、もっと持続したのかもしれないなとは思います。

――12月20日、クラブ公式のシーズン振り返りが出ましたが、その中で「緩やかな成長カーブ」という表現がありました。そのあたりのニュアンスはどう思われましたか?

前提として、今年は編成に失敗していたということがあると思います。選手を入れ替えられていないので、何かを立て直すにしてもそのままの手札でやるしかなかった。そうなると、選手の人数やレオナルドの起用など色々考えたときに、大槻監督が4-4-2を選んだのは仕方がないと思います。

とにかくできること、掲げたコンセプトに合うような方向をなるべく目指していこうとやっていたと思います。もちろん大槻監督の力量の部分もあるとは思いますが、そもそも厳しい条件だった上に、中断もありましたし、怪我人も出ました。

総合的に考えると、そもそも成長カーブを急激に上向けるのは難しかったと思うので、僕としては、今年はまぁこんなものだよね、来年どうするかだよねという感じではあります。

「3年計画」とは何なのか

――今年が何年目なのかは別にして、「3年計画」はどう見えていますか?

クラブが、ビジョンを示したい、作らなければいけない、と痛感しているのは感じます。とにかく勝てばいいという時代はもう終わっているので、その中で何かしらビジョンを作っていこうとして「3年計画」になったのだと思います。ただ、3年という数字に強い意味があるというよりも、ニュアンスだと思います。5年待ってくれと言うわけにもいかないし、2年や4年も中途半端なので、3年だったのかなと。いずれにせよ、今年は再建の年というニュアンスだと思います。

J1開幕の湘南ベルマーレ戦だけはアウェイの取材に行けましたけど、ゴール裏の弾幕を見て、やっぱり浦和サポは凄いなと思いました。3年計画だからといって、今年は負けても良いなんていうことはサポーターの矜持として言えない。やるからには優勝を目指すのは当然だろうと。でも同時に、大丈夫かなとも感じました。

レノファ山口についてもそうですけど、僕は、熱量はもちろんありますが、どちらかというと達観しているサポーターなので。「今そこにあるサッカーを愛せ」という言葉がありますが、そこには、選手は当然勝つために戦い、クラブは勝ちを目指さないといけないけれども、ファンはクラブ以上に客観的に見えていないといけないという意味もあります(注:浦議チャンネルにも出演したロック総統の言葉)。一緒に熱く戦うけれども、予算や選手層なども分かったうえで見ないと、応援する側も不幸になってしまう。

最終節でもさすがだなという辛辣な弾幕が出ましたけれど、僕はお金のないクラブをずっと見てきたので、あまりフロントに求めすぎるとクラブが死んでしまう。なので冷静に見ています。ただ、ファン・サポーターとクラブとお互いがきちんと受け止められていれば、外から見て厳しい幕が出たり、意見が飛んだりしてもいいのかなと思います。

最終節_弾幕

僕はこれまでの浦和の文脈が一部しか把握できていないので、フラットに見る、客観的に見るのが仕事だろうなと思っています。例えば、オフィシャル・マッチデー・プログラム(MDP)の清尾淳さんみたいな見方は絶対にできないですから、よそ者がきて、外から見て書いているくらいでちょうど良いのかなと。もちろん、僕も一応は昔から浦和を見てきた人間ではありますけど、ここ数年というのがぽっかり抜けていたので。

ただ、逆にそれはそれで、3年計画にだんだん思い入れを持ちながら見ていけたらいいのかなと。できれば3年見届けたいですね。そして「3年計画とは何だったのか」ということを、ちょうど1年目から見始めた人間の視点から書ければなと思います。

断行される年だが、わりと良いオフになるのでは?

――少しだけ来季の話もしたいと思います。まずは、リカルド・ロドリゲス新監督の就任が決まりました。

スペイン語の本も買ってきたので、頑張って勉強しようと思っています(笑)そして実は、2019年の最終節、徳島ヴォルティスとレノファ山口の試合の会見でリカルド監督に質問したことがありまして…。

――なんだか、徐々にミシャサッカーを理解していった浦和サポを思い出すようなやりとりですね。楽しみになってきました。今オフの編成については、どのように見通されていますか?

まず、クラブが示した3つのコンセプトですが、いい具合に抽象的なので、ある意味ではどうとでもとれますよね。ただ、僕はそれでいいと思っています。哲学をがちがちに固めすぎると修正ができなくなってしまうので、今の3つのコンセプトぐらいがちょうど良いと思います。それを歴代のGMや監督が解釈してやっていけば良い。

そのうえで、どこまでできたかは別として、前からしっかり守備したい、奪ってから早く攻撃したい、という部分は多少は積み上げられていて、それをできる選手とできない選手というのも大体見えたと思います。今オフは、選手の選別・選定が進んで、そこに今名前が挙がっているような選手達が加わって、というところで進んでいくと思います。

ファン・サポーターの方からすると、名前が挙がっているのがJ2の選手が多いので、大丈夫なのかなという懸念もあると思います。ただ、

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