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格闘技嫌いが目撃した、ボクシング「史上最高の日本人対決」 殴り合いを極上のプロスポーツに昇華する男達

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新年早々、あるツイートが目に留まった。

原口元気選手が、自身が所属するドイツ1部ハノーファー96の公式サイトで、日本の年末年始の様子を紹介していた。大晦日の年越しそばや紅白歌合戦に始まり、おせちや年賀状などを取り上げている。こうした「サッカーを通じて世界を知る」ような企画は好きだ。

記事の最後に面白い括りがあった。その名もDie "ersten Male"。Google翻訳では「初めて」と訳された。Hatsuhi no de(初日の出)、Hatsuyume(初夢)、Hatsugeri(初蹴り)と、初○○がまとめられている。

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そこで2021年の1本目となる今回は、僕自身の初○○について書いてみたい。

ただし、「初」といっても「新年初」ではなく、「人生初」である。

2020年の大晦日。三十余年の人生で初めて、ボクシングを観に行った。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ、井岡一翔vs田中恒成

「史上最高の日本人対決」と銘打たれた一戦である。

格闘技嫌いがボクシングを観に行った理由

僕はそもそも格闘技があまり好きではない。殴られたり、蹴られたりしているのは痛そうだし、流血や失神のシーンは目を背けたくなる。不良気質の強さも苦手で、「喧嘩の延長だろう?」という思いは拭えない。

ただ、格闘技の中でもボクシングには、多少、良いイメージがあった。漫画「はじめの一歩」はわりと好きだし、井上尚弥選手や村田諒太選手が登場してからは、彼らの試合をテレビで観て、面白いなと思うようになった。

そして2020年、コロナ禍にあってYouTubeの視聴時間が増える中、たまたま、元プロボクサーの渡嘉敷勝男さん、竹原慎二さん、畑山隆則さんのチャンネルに出くわした。失礼ながら存じ上げなかったけれど、3人とも元世界チャンピオンだ。

世界の頂点を極めた人たちが、ファンのような目線も交えながら、楽しそうにボクシングを語っており、興味が湧いた。年下の選手にもリスペクトを欠かさないところにも好感を持った。

このチャンネルで「観たい!」「今一番面白い!」と言われていたのが、今回の一戦だった。日本人初の4階級王者の井岡選手に、無敗の3階級王者の田中選手が挑むという。それほどのカードなら現地で観てみたいと、関心を掻き立てられた。

チケットの販売開始日を調べ、ダメ元でトライしたが、拍子抜けするくらい、すんなり入手できた。浦和レッズが出場したAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に比べれば、なんてことはない。もちろん単価も一桁違うし、コロナ禍で自重した人も多かったのだろうと思うが、争奪戦は楽々突破した。

試合当日まで約2週間あったので、過去の試合映像や勝敗予想などを漁って予習した。にわか勉強であっても、知れば知るほど、面白い試合になるだろうことは理解できたし、どう決着するかは全く予想できなかった。自ずと、期待が高まった。

そして、ボクシングを初めて生で観た時に、自分自身がどういう感情を抱くのか、ということも楽しみだった。

予習した動画の中で、特に面白かったもの↓
対象が何であれ、好きなことを楽しそうに語っているのが好きなのかもしれない。

殴り合い、現地で見れば、怖くない?

試合会場は大田区総合体育館。初めて訪れたが、「体育館」という字面と、「お役所」感の強いホームページに騙された。

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中に入ると、モダンで綺麗なつくりで、「体育館」よりも「アリーナ」といった呼び名の方が相応しい。臨場感もばっちりである。

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プログラムは、14時開場、15時開始。18時から生中継されるメインイベントに加えて、セミファイナルのWBOアジアパシフィック・バンタム級タイトルマッチ(ストロング小林佑樹vs比嘉大吾)、そしてノンタイトル4試合(4回戦~8回戦)が行われた。

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折角なので、15時前には会場に入り、前座の試合から見た。席はスタンド席の最前列。予想以上に近い。

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声援が禁止されていたこともあり、パンチの音やセコンドの声などもはっきり聞こえる。

オープニングマッチ(8回戦)のあと、早速セミファイナルが行われた(録画放送のためと思われる)。

挑戦者の比嘉大吾選手は元世界チャンピオンなので名前だけは知っていたが、その比嘉選手が試合開始から荒々しく攻め立てた。身の毛がよだつような強打の連続で、素人目にも「倒しに」いっていることがわかった。

結果は5ラウンドで比嘉選手のKO勝ち。顔面を豪快に殴られた人間が倒れこんだ場面を目の当たりにして、

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