見出し画像

メランコリック感想&川越スカラ座舞台挨拶レポ

事前情報を出来るだけ入れずに見たかったので、ムービーウォッチメンの評論もスルーし、ツイッターも上映情報だけを仕入れるようにして準備万端で観賞できました。(それでも「松本最高!」という沢山の言葉はスルー出来なかった…)

画像4

あらすじ
東大卒だけど働いた経験はバイトだけという鍋岡和彦と金髪の松本は、同日に銭湯の面接を受けて採用になる。「世の中には知らない奴が知ってはいけない世界があるんだよ」という助言をオーナーの東から受けていたのに、和彦は閉店後の銭湯で何が起きているかを目にしてしまう。

感想


深夜の仕事に関わってからの和彦は「次の仕事あったら言ってください!」と生き生きと働き始めるけれど、先輩・小寺から松本が頼りにされている姿に嫉妬し始める姿が滑稽だけど切なくて、これまでの和彦の生活を垣間見た気がした。

冒頭から何度か挿入される鍋岡家の食卓シーン。母は「ご飯炊きすぎちゃったから沢山食べてね」と相手の気持ちは全く考えず、自分が正しいという前提で話が進んでいく(更に「疲れを取るには湯船に入らなくちゃダメよ!」と無理やり銭湯に行かせるという暴挙!ここから松の湯との接点ができる訳ですが・・・)

宇多丸さんのラジオ、ウィークエンドシャッフル時代の名コーナー『ババア、ノックしろよ』の母性という名の無神経=通称:母シズムがムンムンで、和彦以外は気づいていない居心地の悪さが食卓に蔓延していて最高でした。

一見、アットホームに見えるシーンだけど、和彦にとっては「本音のない食卓」であり、それは家庭・社会で本音をぶつける相手も場所もないというこれまでの和彦を象徴していると思いました。
(最後、この食卓に他人が入り込むことで一瞬本音が介在し、和彦自身がこの場所の存在を振り返るのは味わい深い)

だからこそ、深夜の危険な仕事を通じて誰かに必要とされる喜びを感じ、逆に松本に対する嫉妬を高めるという、眠っていた人間らしい感情が目覚めていく様子は、和彦の成長物語としてしっかり描かれていました。

オドオドしていて偏屈さをまとっているのに、どこか愛らしい和彦の表情が、松本、百合、東とのやり取りで刻々と変化していくのはメランコリックの物語の重要な骨格であり、皆川暢二さんの底知れぬ魅力があふれていて素晴らしかったです。

冒頭、和彦が百合に声をかけられた際に盛大なキョドリ演技するんですが、そこにまんまとハマって私は大きな勘違いをしながら最初見てました。

「なんか俺、東大卒の鍋岡っていう人に間違えられてる・・・けど、すげー可愛い子から声掛けられてるし、つまんねー毎日だし、ここは、俺は鍋岡ってことで話に乗っておく?」という設定なんだろうと思ってしばらく見ていたのです!同窓会にまで行っちゃって大丈夫かい?とハラハラしちゃいましたよ。

卒業証書らしきものが一瞬映り「あれ、鍋岡なのは本当だったのか」とビックリしたんですが、私と同じ勘違いしてた方っていないですかね・・?
いないですか、そうですか。高校時代から人とほぼ接点がなく生活してきて咄嗟のコミュニケーションに戸惑う姿だったのでしょうが、それにしては色々含んでいる様子を感じました。

百合役の吉田芽吹さんは、派手な顔立ちではないけれど愛くるしさが滲み出る多彩な表現で、正にメランコリックの中に咲く花でした。

そして、松本役の磯崎義知さん。金髪でちょっとムチムチしている感じがどのように「みんな大好き松本!」な存在に変化していくのかな~と見ていました。「小寺先輩に呼ばれてるんで、後の片づけお願いしていいですか?」なんて言って本当はサボっているんじゃないの~とか思っていましたが、まさかのザ・ファブル化、しかも、裏打ちされたアクションのカッコよさに二度びっくり。

松本がこれまでも殺しの仕事に携わっていたということは示されているけど、その背景が明かされないからこそ想像の余白があるのが非常に良かった。殺しのプロとしての姿と、和彦を出来るだけ巻き込まないようにしたいという優しさと純真さ。その姿に観客は松本への思いを高まらせるのかもしれません。

鑑賞時にあれ?と思った部分や、裏設定を想像した部分など諸々


・松本はプロなので、田中の家に乗り込む際に防弾チョッキ着てないとか有り得ないのでは…
・松の湯で田中が「アンジェラ、風呂入ってろ」って言った時、松本にアンジェラ殺せって言うんじゃないかとすげードキドキした。
・百合は実は田中に操られていて、鍋岡に近づいてきたんじゃないか⁉︎→違ったけどアフタートークで同様の意見が出ていた
・和彦の母は昔看護師をしていたのでは?だから和彦は松本を家に連れて帰った?→多分違う。けど、あんな怪我人連れて帰ってきて対処出来るかね?
・メランコリックは「ザ・ファブル」でもあり「湯を沸かすほどの熱い愛」でもある
・東さんの「オーケー?」が面白すぎる
→ライターのてらさわホークさんのシュワルツェネッガーネタ「オーケー?オーケー!」が私と息子の間で流行っていたので必要以上に笑えた

こんな想像や作品内のあれこれを鑑賞後にも楽しめるのがメランコリック。


川越スカラ座舞台挨拶レポ

画像5

まずは川越スカラ座さんの素晴らしさから。
舞台挨拶付上映の予約を親子で行ったらですね、こんな丁寧な返信が届いたのです。

画像2

画像3

息子は川越スカラ座初体験。映画を見るときはいつもシネコンなので、昔ながらの映画館に反応はどうかな~と思いましたが、ロビーにある本やビデオを見て「映画秘宝2016年3月版がある!欲しい~」「ヘル・レイザーのビデオ版だ!」と「ここいいな~、好きだなぁ」と楽しんでいました。


舞台挨拶の内容


・磯崎義知さん、吉田芽吹さん、矢田政伸さん、大久保裕太さんによる挨拶
川越スカラ座の飯島千鶴さんから役者さんへ質問
・大久保さんのピアノ演奏(大久保さんは劇中でもピアノを披露)
・観客から役者さんへ質問
・パンフレット購入者へサイン会

印象的だった質問について


「それぞれの役柄の裏設定は各自考えていたのか?」

磯崎さんは「松本の“松本晃“という名前は本当の名前ではないかもということは考えていた。日本でも海外でも、もしかしたら松本は違う名前で過ごしていたのかもしれない」と答えていました。

松本がプロの殺し屋ということが判明した時に、多くの人が連想したであろう「松本はザ・ファブルだったか!」というワクワク感。
磯崎さんの話を聞いて「ファブルは仮名が佐藤明だからなぁ、松本もきっと仮名だよね!偶然アキラが共通してるわ」とニヤニヤしてしまいました。

松本の金髪について


公開質問では聞けなかった「どうして松本の髪の色を金髪にしたのか?」について、サイン会の際に直接磯崎さんにお聞きしました。

「短編を最初に作った時は松本も黒髪だった。でも仕上がりを見ると和彦との対比が弱かったため金髪にした」とのこと。

制服のオレンジ色と松本の金髪は、映画の中の色合いをグッと引き立てているぁと思っていたのですごく納得しました。


川越スカラ座は明治時代から続く老舗の映画館。松の湯と川越スカラ座のレトロ感が完全にシンクロしていて「ここで観れて良かった‼︎」と心から思いました。

メランコリックな日常の中に、たまにやって来るいくつかの光。今日はそんな1日でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?