初めてのニューヨーク

一体いつ舞台を見始めたか、ミュージカルを見たのかはさっぱり覚えていない。
「ピーターパン」が日本で始まったのが1981年、15歳の頃なので多分これなのだろう。
ただ当時アイドルでも1ヶ月の座長公演では、一部芝居、二部歌謡ショーという構成だったので、お芝居やミュージカルらしきものは見ていた。
さらに「雨に唄えば」などのツアー公演も日本に来ていたので、それらのうちのどれかだろう。
映画も「サウンド・オブ・ミュージック」や「ウェストサイド物語」などの洋画ミュージカルは見ていたし、東宝のクレイジーキャッツの映画もミュージカルと言えばミュージカル。高島忠夫さん主演の「君も出世ができる」なんて陽気なミュージカルコメディもあった。これらは主にテレビで見ていた。

でもやはり初めて行ったニューヨークで、初めて見たミュージカルは、それまで日本で体験したものとは全く違う、衝撃的な経験だった。当時16歳。今から40年前の事だ。
当時のニューヨークはまだ治安最悪、経済も良くない。ミュージカル「42nd street」の世界そのままに42丁目にはポルノショップなどのいかがわしい店がひしめき合っていた。
そんな中見たのが「Sophisticated Ladies」だ。
「A列車で行こう!」などで知られるジャズの大スター、デューク・エリントンの名曲の数々のみで構成された、今で言う「ジュークボックス ミュージカル」の走りだろうか。
主演はその後映画の世界でも大スターとなった、今は亡きグレゴリー・ハインズ。
英語がわかるわけではないので、ストーリーはなんとなくしかわからなかったし、今では何の記憶もないのだが、音楽は大部分が知っていたメロディー、聞いたことがある曲で、とにかく派手なセットとビッグバンドのサウンドがゴージャスで、それだけでも十分楽しめた。

でもなんと言ってもグレゴリー・ハインズのタップダンスの凄さに目を見張った。
映画で見ていたフレッド・アステアやジーン・ケリーのタップダンスしか知らなかった者にとって衝撃のテクニックだった。
これが本当の「ミュージカル」というものかぁ、という経験がその後も続くことになる。
グレゴリー・ハインズを生きている時に見られた事だけでも宝物となった、初めてのブロードウェイだった。

ただこの時の最大の興味は大好きだったスティーブン・スピルバーグ監督の、まだ未公開の作品を見る事だった。
「E・T」である。
「JAWS」「未知との遭遇」を見てすっかり魅了されていたので、見ないわけにはいかなかった。
当時のニューヨークは映画館の中で上映中でも周囲の大人はスパスパタバコを吸っていたのにも驚いたが、そんな事も忘れるくらい感動して号泣した。
英語がわからなくても何の問題もなくストーリーが理解できる。
そして、追いかけられた子ども達が乗る自転車が空を飛んだ瞬間、客席中がスタンディング・オベーションと大歓声。
後にも先にもあの瞬間の心地良さは忘れられない記憶になっている。
これがエンタテインメントだ!強く感じた。

21歳で2度目のニューヨーク訪問が実現し、またその時に一生大好きになるミュージカルを見て、まだできたばかりのトランプタワーを見上げながら、いつか自分はここニューヨークで仕事をしたいと思うことになる。その話はまたいつか。

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