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「バンズ・ヴィジット」の後日談


ミュージカル「バンズ・ヴィジット」の公演が全て終了した。
ネタバレになると思っていたので、詳細は明かさなかったが、この作品は「何も起こらない一夜の話」と説明してきた。
でも本当にそうだろうか?
ツイートでは「あなたが何も起こらないと言うから、チケットが売れない」というご批判も頂戴したが、我が身に例えると人生で日々何も起こらない日などあるだろうか?
僕らは東日本大震災やこの3年のコロナ禍を経験してきた。その中で何も起こっていないと思い込んでいた日常が失われた時、いかにありふれた日常が貴重で、毎日がキラキラと輝く日常だったのかを実感したはずだ。
映画や演劇やスポーツ観戦が「不要不急」の烙印を押された瞬間から、日常に何も「不要不急」なものなどほとんどないことがわかったはずだ。

「バンズ・ヴィジット」に登場するベイト・アティクバという街は、何も起こらない退屈な街のように見えて、愛しい毎日が繰り返されてきて、そこにかつての敵国だった国の音楽隊が迷子としてやってきたことで、大事件が起こった。
でも遠くから見れば大したことではない。日々の延長の中のハプニングに過ぎないかもしれない。

あの一夜に起こったことが毎日、どこかで日々起こっていれば、世界は何事もない平和な世界になるんじゃないかという希望が満ち溢れている。
「何も起こらない」ということは究極の平和なんだ。それがエンタメになり得るということをこの作品は実証したのではないか。
その「何も起こらない一夜」を見て、どう思うかが人々に伝わったんだと思う。

この作品はミュージシャンを集めるだけでも大変なんで、多分長い期間再演されることはないと思う。今回1回限りかもしれない。それでも上演する価値はあったと思う。
ホリプロの仕事は、どこにいるだれかもわからない人の思い出を作ることが大きな使命だと思っているので、どこかの誰かの思い出になっていてくれればそれでいい。
その使命は果たせたと思っている。

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