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日本は、実はアメリカ並みの"改憲"を既に何度も行ってきた?!(9条以外で)

1 外国は憲法改正を頻繁に行っているけど、日本は遅れてるの?

 (まず最初に断っておくと、本記事のテーマは、憲法9条の問題ではありません。)

  憲法問題についての議論の中で
「第二次世界大戦後、アメリカをはじめとする多くの国では何度も憲法が改正されてきたのに、日本はまだまったく改正していない。これでは時代についていけない。」
という主張がされることがよくあります。

    例えば下記のtweetもそれに近いニュアンスと言えるでしょう。

 しかし、果たして本当に日本は遅れていると言えるのでしょうか。この記事では、まずはアメリカのケースを検討して比較対象してみることにしましょう。

2 アメリカの憲法は確かに何度も改正されている

 アメリカの憲法は制定以来何度も改正(修正)が行われていますが、ここでは過去60年程度の例を見ることにします。

①修正第23条[コロンビア地区の大統領選挙人] [1961 年成立]
②修正第24条[選挙権にかかわる人頭税の禁止] [1964 年成立]
③修正第25条[大統領の地位の継承] [1967 年成立]
④修正第26条[投票年齢の引下げ] [1971 年成立]
⑤修正第27条 [連邦議員報酬の変更] [1992 年成立]

 これを見ると、過去60年ほどの間にアメリカの憲法は5回も改正(修正)されています。
 確かにアメリカは柔軟かつ頻繁に憲法を改正しているようで、これに比べると日本は見劣りするような気がしないでもありませんが、果たしてそう決めつけてしまって良いのでしょうか。

3 アメリカの最近の憲法改正の中身って何なの?

 ここで結論を急ぐことなく、まずはアメリカが具体的に憲法のどういう点の改正を行ったのか、中身を簡単に確認してみましょう。それほど難しい話ではありません。
 (★なお説明を見るのが面倒な方は、いったん読み飛ばして4に進んでいただいてかまいません。)

 上記のうち①は、コロンビア特別区における、大統領を選挙する資格を有する者の選任に関する定めです。
 米国の大統領選挙は間接選挙制で、例えばトランプ氏を支持する有権者は、トランプ氏に投票するのではなく、トランプを支持する選挙人に投票するという形式を取ります。この選挙人が地域(州)ごとに数を決められているのですが、それに関する規定の改正です。
 もちろん日本の場合は、連邦制も大統領制も取っていないので単純に比較できませんが、選挙区と定数の問題と考えるなら、日本で言えば公職選挙法で決めるレベルの内容でしょう。

 また②については、これも選挙権に関する資格の細かい部分にかかわる規定なので、日本で言えばやはり公職選挙法レベルと言えるでしょう。

③は、大統領が職を失ったり死亡した場合の継承に関する定めです。日本では、内閣総理大臣に事故があった場合の代行については、内閣法第9条が定めていますので、何かあればこの内閣法を改正すれば済む話であり、憲法を変える必要はありません。

④は、選挙権を18歳とする規定です。日本では最近、憲法を改正するまでもなく、公職選挙法の改正で、同じように18歳に選挙権が付与されたのはご存知のとおりです。

⑤は議員の報酬の変更の効力に関する規定で、日本の場合は「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」という法律で議員報酬を定めています。但し米国のこの改正は、「議員の報酬を変更する法律」の効力に制限を設けるものなので、法律より効力の強い憲法で規律を加えたということになります。

4 最近のアメリカの憲法改正は、実は日本の公職選挙法等の改正レベルだった?!

 どうでしょうか。こうして確認してみると、過去60年のアメリカの憲法改正は、実はそのほとんどが、日本でいえば内閣法や公職選挙法で決めることができるレベルの内容だったことがわかります。

 逆にいえば、日本は、内閣法や公職選挙法などの改正を過去に何回も行っているわけですが、この中には、アメリカ基準でいえば、憲法を改正して行うようなレベルのものもあるということになります。

 例えば先ほど説明したように、2015年に日本では公職選挙法を改正して、18歳以上に選挙権を付与しましたが、これはアメリカの場合は憲法改正によって対応しました(上記④)。 
  また2018年にも公職選挙法を改正して、参議院議員の定数を増加させましたが、これが仮にアメリカの上院の定数変更であれば、憲法改正が必要になります。アメリカの場合、上院の議員定数を憲法に明記しているからです(「各州から2名ずつ」とされています)。

5 アメリカ基準でいえば、実は日本も憲法改正をやったのと同じ?

 つまり日本では公職選挙法などの個別の法律の改正レベルで済むような制度改正でも、アメリカでは憲法改正の問題になる場合があるわけです。イメージをわかりやすく図に示すと、以下のような感じになるでしょう。

 「アメリカは何度も憲法を改正して国の形をどんどん変えているのに、日本は戦後は憲法を改正していない。日本は硬直的で時代についていけていない」と単純に決めつけることはできないということが、これでわかります。

  むしろアメリカ基準でいえば、日本も憲法改正を何度かやっているのと同じだと言って良いくらいでしょう。

6 憲法が細かい国ほど憲法改正が何度も必要になる!

 この例からもわかるように、ある規定を憲法で定めるか、それとも法律で定めるかは、国によって違います。

 憲法で細かい事柄まで決める国もありますが、そういう細かい憲法の国ほど、社会情勢の変化に応じて、憲法を頻繁に改正しなければならなくなります。(なお念のためいうと、先ほど検討したアメリカ憲法は、諸外国の中では比較的シンプルな方であり、全体的にはそれほど細かい事項を憲法で規定しているわけではありません。)

7 スイスは、消費税の品目変更にも憲法改正が必要!

 例えばスイス憲法では、第131条で「特別消費税」の対象品目について具体的に規定しており、何と「エンジン用燃料に対する消費税」まで憲法に定めています(131条2項)。日本であれば消費税法で決める問題でしょう。

 仮にスイスで、この特別消費税の対象品目を変更しようとしたら、憲法改正をしなければなりません。日本ならもちろんそんなことをする必要はなく、消費税法の改正だけで済みます。

 仮にスイスが、消費税の品目変更だけのために憲法を改正した場合、「スイスは憲法を改正したが、日本は改正していないから遅れている」などと言えるものではないことは明らかでしょう。

 (ちなみに実際問題として、スイス憲法は改正が非常に多いことで知られています。憲法に細かい規定が多いため、頻繁に改正が必要になるというわけです。)

8 シンプルな憲法の国(日本含む)は法律の改正だけでかなり対応できる!

 逆に憲法がシンプルであるほど、細かい規定は、法律で定めることが多くなるでしょう。そういう国は、憲法を改正しなくても、法律の改正で社会情勢の変化に対応できることが多くなります。その例が、日本です。

 このことから、結論としては「他の国は、憲法を頻繁に改正している。改正をやらない日本はおかしい」などと一概には決めつけることはできないということになります。


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