見出し画像

キャッシュレス先進国のイギリスで感じた日本の未来

はじめに

こんにちは。
今回は海外行脚した中でイギリスでのキャッシュレス体験がタイムマシーンのように、日本のキャッシュレスの未来を占うヒントになるのではと思い、体験談と調べた事実を書いてみたいと思います。
イギリスには2度、渡欧しトータルで1ヶ月ほど過ごしてきました。

なぜイギリスか?

🇬🇧キャッシュレス大国のイギリス
渡航先にイギリスを選んだ理由はここ10年で最もキャッシュレス化が進んだ先進国の一つであること。

少し古いですが、2016年度のキャッシュレス決済比率が50%を超えており、且つ中国、インド、ケニアのようなリープフロッグ現象で発展した形ではなく、先進国としてキャッシュレス化が進んでいます。

スクリーンショット 2019-10-23 15.38.26

※2016年時点「キャッシュレス・ロードマップ2019」(一般社団法人キャッシュレス推進協議会)より

また、2007年から2016年に掛けてのキャッシュレス比率の伸びは+30%越えという韓国に次いで2位の伸び率です。

スクリーンショット 2019-10-29 19.22.49

※NRI 「平成29年度産業経済研究委託事業 調査報告書」より

日本に似た環境要因としてはイギリスも島国であり、そこまで大きくない国土に対して、大手4メガ銀行(バークレイズ、HSBC、ロイヤル、ロイズ)が高いシェアを保持し、都市部への高い人口集中があげられます。

スクリーンショット 2019-10-28 20.51.55

※Burnmark Report 2016 より

それに対して、特にチャレンジャーバンクと呼ばれる新規に銀行免許を取得してモバイルアプリベースでのバンキングを開始するスタートアップが集中して勃興していたり、TransferWiseのようなFintechユニコーンが誕生していた背景を探りたいなと思ってました。

🛫渡航先のイギリスで実際にやったこと

• 現金一切使わず、キャッシュレスで乗り切った
• Fintechカンファレンス参加
• Fintechサービス使い倒す、特にチャレンジャーバンクと呼ばれるサービスは7行の口座開設して、実際に利用した
• 現地のイギリス人、日本人にユーザーインタビュー(トータル21人)
• Fintechスタートアップ訪問

非接触型決済が生活の隅々まで浸透していた

🇬🇧イギリスでのキャッシュレス生活
今回は現金を使わずに過ごすことを念頭に両替は一切せず、持参したMasterカードとイギリスで開設するチャレンジャーバンクのデビット型プリペイドカードで生活することにしました。

画像14

1~2週間の生活で気付くのですが、非接触型決済ができる箇所がとにかく多い。決済端末にかざすだけで決済が終わるところは日本のSuicaと違いはありませんが、日本よりも遥かに使える箇所が多く、持参したクレジットカードの非接触型決済で公共交通機関(バス、電車)に乗れることにも驚きました。

もともとイギリスにも「Oyster Card」と呼ばれるプリペイド式の交通系ICカード(日本のSuica)が普及してたのですが、利用者は減少しているそうです。
確かにSuicaを作らなくても、元々持っているクレジットカードかデビットカードで電車に乗れるなら、Suicaはいらなくなりますよね。
実際に自分は現地の方に「Oyster Card」もう使わないからと譲ってもらいました。

特にどのスーパーでも無人の非接触型決済でのセルフレジが明らかに浸透しており、少子化が進む日本に置いても、今後は似たような状況が進むであろうこともイメージができました。

画像3

※イギリスのスーパー(Sainsbury's)のセルフレジ

さらに細かく言及すると、このレベルでキャッシュレスでした。

• 街中のカフェは個人店も含め、非接触型決済端末が置いてあり、決済時にタッチするだけ
• 土日に開かれてる市場の屋台も普通に非接触型決済端末置いてる
• マクドナルドもサイネージでセルフ注文とパネルに設置された非接触型決済で完全キャッシュレス
• 公園の公衆トイレも入り口にカード決済リーダー
• 街中のシェア自転車のレンタルも非接触型決済
• 挙げ句の果てに地下鉄の構内の路上ミュージシャンの投げ銭も非接触型決済端末でiPhoneかざすだけ(中国だとQR、日本だとギターケースに投げ銭)

画像2

※ロンドン市内のSantander Cyclesの自転車レンタル

イギリスでのデビットカードによる非接触型決済は日本のSuica、nanaco、WAONに代表されるFeliCaという通信規格ではなく、VisaやMasterに採用されているTypeA/Bという通信規格を元にしたNFC Payが普及しています。
体感値でいうと日本のFeliCaよりも若干、決済が遅いものの個人的にはほとんど誤差の範囲。

日本もスワイプしたり差し込むタイプでのカード決済やQRコードでの決済は進んでいるものの、スワイプしてもらう手間や、QRを表示して読み込むといった、ちょっとした待ち時間と手間に対して、このフリクションのなさが後戻りできない使い勝手でした。

💳非接触型決済(NFC Pay)が普及したわけ

結論から言うと、イギリスのキャッシュレス化を猛烈に牽引したのはデビットカードによる非接触型決済でした。

あらゆる箇所で非接触型決済が可能になったのも2012年のロンドンオリンピックの会場でVisaのタッチ決済(VisapayWave)が採用されたことを発端に、その後は政府主導で非接触型決済での公共交通手段の乗車を可能にする「オープンループ」が導入されたこともあり、急激に普及が進んだとのことでした。

スクリーンショット 2019-10-25 20.19.55

これはUK Financeによるuk payment markets summary 2019のレポートですが、デビットカードと現金の比率が9年掛けて猛烈に逆転している様子が読み取れます。

• 2017年にデビットカードの利用が現金を抜いた
• 人口のほとんど(98%)がデビットカードを保有している
• 2018年末、流通している英国のデビットカードの84%、クレジットカードの64%が非接触機能付きカード
• 2024年までに、デビットカードはイギリスの全支払いの半分を占めると予測されている
• 今後10年間で、デビットカードの支払額は2028年には223億件に達する

💳デビットカードによる非接触型決済

画像14

デビットカードの継続的な伸びは非接触型決済が牽引しており、現金を急激に減少させています。

以下はレポートの中の非接触型決済の2018年度の実績。

• 2018年にイギリスで行われた非接触型決済の件数は31%増加して74億件になった。ちなみに2017年は97%増加して、56億件だった
• 2018年に非接触型決済が最も普及した場所はスーパーマーケットであり、全非接触型決済の三分の一以上(38%)がこれらの店舗で行われていた
• 年齢による差をみると、25歳から34歳の人が非接触型カードを利用する割合が最も高く、2018年には83%が非接触型カードを利用している
• 65歳以上の人々は若年層に比べて非接触型の支払いを行う可能性が低いが、2018年には3/5強(61%)が非接触型の支払いを行っており、2017年の50%強から増加している
• 年齢層や地域によって差はあるものの、イギリスでは現在69%の人が非接触型決済を利用しており、60%を下回る年齢層はなく、58%を下回る地域もない

一番驚いたのは国民のほぼ70%が非接触型決済を利用しており、60%を下回る年齢層はなく、58%を下回る地域もないこと。つまり全国的にほぼ6割近くの国民が非接触型決済を利用しています。

個人的には2020年東京オリンピックに向けてVisaがタッチ決済の普及を進めており、イギリスの状況と酷似している点から、歴史は繰り返すかもなと思えたシーンでした。

チャレンジャーバンクの勃興

💸銀行を破壊するプレイヤー

画像4

画像5

こちらは参加したLondon Finch Conferenceのチャレンジャーバンクのセッション。
Unbanked(銀行口座を作れない人)、ミレニアル、子供向け、学生向け、法人向け、フリーランス、SMBと既に細分化が始まっており、20社以上が参入しています。

画像6

会場が大学だったので学生が多数いたのですが、会場のライブアンケートでも88%が既に何かしらのチャレンジャーバンクを利用していました。

🏦実際に口座開設してみた
チャレンジャーバンクについては実際に口座開設し、それぞれのアプリの設計意図やオンボーディングのフローなどを触って確かめてみました。
総じてeKYC進んでる。

画像7

身分証の本人がランダムで変わる文字を読み上げた動画をアップロードするというライブネスチェックを実施しています。
また、アプリの機能に大きく差はないものの、乱立している背景からもカードが目立つデザイン(透明だったり、鮮やかだったり)が多く、そもそもカードのプラスチックが塗装済み素材だったり、カード券面にプライマリアカウント番号(PAN)の表記がなかったり、届くパッケージが凝ったデザインになっていたりとソーシャルでシェアしやすいような工夫が凝らされていました。

画像8

※各行が発行するデビットプリペイドカードとOyster Card(交通系ICカード)

画像15

ちなみにチャレンジャーバンクのプロモーションはソーシャル広告でもよく表示されていたのですが、ロンドンの地下鉄は電波が通らないので、スマホをいじることができず、それを狙ってか地下鉄車両の窓上広告でよく見かけました。

🏃‍♂️チャレンジャーバンクに訪問
イギリスだと特にmonzoと呼ばれるチャレンジャーバンクが台頭を感じるシーンが多々あり、monzoのデザイナーやエンジニアのマネージャーにもグロースの背景やこれまでやってきたことなど聞かせてもらいました。

画像13

ここでも驚いたのが、楽天という国内有数のFintechベンチャーで働いていたこともあり、銀行のセキュア要件(例えば楽天銀行のフロアは楽天銀行社員しか入れない)などは多少知っていたのですが、驚くほどオープンマインドで執務エリアも見学させてもらえましたし、当日はフロアで勉強会が開催されていたり、皆がお揃いのパーカーで卓球をしていたりと、スタートアップそのもので、銀行っぽさを全く感じませんでした。
日本だったらこんな銀行あり得ないなだろうなぁ。

🏦チャレンジャーバンクが伸びた背景
現地の方々、20人近くにインタビューした中で、イギリスでの生活やチャレンジャーバンクを利用する背景に以下のような気付きがありました。

• ロンドン自体は移民が多い。医療費が無料だったりするので、他のユーロ圏内から入ってくる
• メガバンクの銀行口座は住所証明書がないと開設することができない(賃貸はNG)
• 物価や賃貸の料金がインフレ気味、若者は大体シェアハウスしており、送金するシーンが多い
• 天気が悪い日が多く、国民の祝日が少なく、ユーロ圏内は移動コストが安いので休暇は旅行に出掛けることが多く、カード決済の海外事務手数料を気にする
• 旅行前にユーロに為替の良いタイミングで両替したい
• Brexitの関係でポンドの為替にかなり敏感

加えて以下のような政府やPSR(官民協議会)が、決済・送金インフラの整備を進めたこともあり、キャッシュレス化の下地と参入整備が進んでいたのも大きいかと思います。

• 金融行為監督機構(FCA)と健全性監督機構 (PRA)により、銀行業への新規参入行に係る資本金が下がった
• Capability and Innovation Fundによる銀行業参入への4億2,500万ポンドの助成金
• 英競争・市場庁(CMA)によるオープンAPI普及の後押し
• 手数料無料で、当座預金口座を他行への乗り換えができる「Current account switch」の普及
• ロンドンオリンピックを機に加盟店開拓が進んだ
• インターチェンジフィーの上限規制により、加盟店手数料が安価になった
• Faster payments serviceによる銀行間の送金手数料が24時間365日稼働で無料

日本との差分として、特に大きいなと感じたのは「手数料無料の送金ネットワーク」の存在。
日本のウォレットアプリ全般の課題として、チャージ原価と決済売上が逆ザヤ問題が挙げられますが、ここでは口座振替による手数料が掛かりません。

1ヶ月ほど利用してみた所感として、どこでも支払えることから、少額決済を非接触型決済で済ますことが可能になり、現金と違ってユーザーは支出管理が困難になった。そのためリアルタイムに支出管理ができるチャレンジャーバンクのデビットカードが伸びているという背景を感じました。

フリクションが極めて小さい銀行、チャージレス且つリアルタイムに残高が引かれるというポイントがキーワードかなと思っており、クレジットヒストリーの関係でクレカを作る難易度が高く、デビット主体なのでインターチェンジ・フィーが低い背景から、ポイント文化が薄いことも貢献していると思います。

まとめ

決済とはすなわち日々の習慣であり、なかなか簡単に乗り換えが進むものではありません。

米国の小切手文化や日本の現金文化などレガシー手段が根付いている先進国では、決済方法がドラスティックに変化するものではないものの、イギリスの例ではスマートフォン、モバイルバンキング、非接触型決済がここ数年の支払い手段を急激にキャッシュレスに変えています。

イギリスでキャッシュレスが浸透したきっかけにロンドンオリンピックでのVisaのタッチ決済の普及があり、且つVisaやMasterが加盟店端末については2023年までに非接触IC対応を義務付けるロードマップを示しています。
日本人のクレカ保有率は84%を超えていることから、2020年東京オリンピックがカード主体のキャッシュレス元年になるのではと思いました。

個人的には少なくともここ10年以内に公共交通機関にクレカとデビットでの非接触型決済で乗車できる未来がくると思うので、その辺りが分水嶺になるのではないかと思います。

日本でチャレンジャーバンクの波が来るかどうか、来るとすればどういう形で来るのかはまた別途、書きたい。

最後に

今回も二度目の起業に際し、未来に欠けているものであり、独自のインサイトに基づいた「個人」の「お金」に関する問題解決のサービスを開発しています。
まだまだ仲間を集めて行きたいので、一緒にプロダクトを作ってくれるメンバーを探しています!
是非、興味を持った方はお気軽にお茶でもしましょう!

もしくは最近会ってないので話したい、ユーザーインタビュー受けてもいいよ、出資させろ、などなど是非、お気軽にご連絡ください。

ではまた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?