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ヒカリエを通ると時々思い出すリエさんのこと

あれは何故だったのかは憶えていないんだけど、ヒカリエがオープンする前日に、僕は当時上司だったリエさんとヒカリエを訪ねていた。ヒカリエ自体は翌日のオープンだったけれど、2階部分は通路になっていて、誰もが通れるようになっていたのだ。
渋谷駅からこんなに近くて、半端なく洗練された複合商業施設のスケールに僕は圧倒されてしまっていた。なまじ社会人を5年ほど経験していたので「このヒカリエができるまで、どれくらいの資金を集め、どれくらいの人が関わっているんだろう」という漠然とした「大きさ」を想像することはできたのだ。それが巨大なのか、肥大なのかは分かりかねるけれど。

そんなヒカリエの中を通りながら、リエさんと「明日オープンなんですね〜」とか言っていたような気がする。
オープン前日ということもあり、ヒカリエにはまだヒカリエらしきファッショナブルな盛況はなくて、ぞろぞろと往来する人々の日常感だけがあった。僕は当時品川シーサイドという辺境で働いていたので、渋谷の人たちが格好良く見えた。というのは真っ赤な嘘です。「東京はどこ行ってもあんまり変わらないな」とうっすら冷めていました。

たまたま翌日(土曜日でした)に渋谷で用事があって、ヒカリエを通ったらめちゃくちゃ盛況で、前日とのギャップに驚いた記憶がある。
普段は渋谷なんて殆ど行っていなかったのに、それからしばらくは渋谷で用事があることが多かった。僕が退職するというので、女友達がわざわざヒカリエのレストランを予約してくれたのもその1つだ。
確か6Fか7Fだったと思うんだけど、そのレストランに辿り着くまでに右往左往したのを憶えている。何せ場所によって停まるエレベーターの回数も違うし、素直に上から下までエスカレーターが走っているわけではない(あっちゃこっちゃに点在している。今もね)。
確かちょっとだけ遅刻したような気がする。僕の送別会だったので、普段遅刻する女友達もちゃんと定刻通りに来てくれたから、健全な気まずさを感じていたような。

一部記憶が曖昧なんだけど、上述したことは概ね実際にあったことだ。全く脚色していないので、何の意外性もないけれど。

それから5,6年が経って、転職を機に、勤務地が渋谷になった。
渋谷から徒歩12分という不便な場所のオフィスに向かう際、必ずヒカリエの中を通った。何年経っても、僕にとってヒカリエは不思議と記憶に残る場所だったようで、転職した初日にヒカリエを通ったときは「あ〜、リエさんとここで話したなあ」って思い出した。
リエさんは今では物凄い数の部下を持ち、部署を切り盛りしているスーパーウーマンになっている。当時からスーパーウーマンだったけれど、あの下ネタばっかり言っていたリエさんが、物凄い数の部下を従えているのはちょっと想像がつかない。

そのリエさんと、昨年の冬、たまたま恵比寿で遭遇した。
どちらも飲んでいた後での遭遇だったので、遭遇したときはハイテンション!だったのだけど、たぶん僕が前のめりな(ウザめの)反応をしてしまったために、「しょーもねえなあ」という空気を漂わせてしまったのは大いに反省している。良くも悪くも、僕は当時から全然変わっていないようで、当時お世話になっていたリエさんに甘えていたのかもしれない。

先週末で、僕が転職してから約2年通った渋谷オフィスとお別れし、永田町のオフィスに移転した。
当たり前だけど、もうヒカリエを毎日仰ぎ見て通勤するなんてことは、なくなる。隣で建築中だった川村公営さんが手掛ける共同住宅の完成も見られない。時々通っていた表参道のモンスーンカフェも、通勤途中に立ち寄ることのあったセブンイレブンも、ファミリーマートにいつもいた愛想が良いのか悪いのか分からない女性の店員さんも、それらは日常でなくなるのだ。

僕は普段バックオフィス全般を手掛けているので、オフィス移転の前後は慌ただしくて、感傷に浸る余裕は全くなかった。

それでも、移転日(土曜日)の朝に、改めてヒカリエを通ったときに、渋谷を離れる事実を思い知らされた。
そこでやっぱり思い出したリエさんのこと。リエさん元気かなあ。って、部下だった僕が回想するのは何だかおこがましい気がするけれど、ヒカリエを通ると、そういう気分が降りてくる。「エモい」とはちょっと違う、一抹の寂しさがじわ〜り滲むような。

このnoteを書きながら、何となく確信したことがある。
たぶん、僕はまた渋谷に戻ってくる。何らかの形で。

そしてきっと、またヒカリエの前を通り、リエさんを思い出すんです。
リエさん元気かなあ。煙草止められたのかなあ。とか、おこがましいお節介を焼いてしまうのは、もしかしたら僕はリエさんのことを…?

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