見出し画像

日本社会が抱える小田原評定体質からの脱却 中編


 『日本社会が抱える小田原評定体質からの脱却』をお送りいたします。

前編:国家的停滞の根源を比較文明する
中編:日本経済の凋落も現状維持体質による迷走から?
後編:いわば究極の一般教養とも云うべき比較文明学

の全三編に分けて記事にいたします。本日は中編をおとどけいたします。

 日本経済の凋落も現状維持体質による迷走から?

 しかし、実はこのような危機、あるいは社会的激変への対応に、成功体験を棄てきれずに失敗、衰退した先例として、日本経済、特に日本経済の発展を支えてきた有名企業の凋落があります。嘗て、世界を席巻した日本企業の実質的な倒産劇は、危機の対応に即応できなかった企業の末路を象徴しており、非常に衝撃的な出来事でした。
 これらの事例に共通する小田原評定現象を生み出す精神的な背景に、過去や既成の価値観に拘泥する保守的硬直性が挙げられます。勿論、それ自体は全否定されるべきことではありませんが、その弊害を理解する為に有効な教えが仏教にあります。それは「筏の喩え」という教えです。この教えは、深く人間の心を観察した仏教ならではのものです。つまり、人間は性として過去の成功体験に止まり、そこに無意識的にも執着し易いのですが、しかし、それが真の自己の発見、あるいは新たな自己の形成の大きな障害となる、ということを象徴的に表した教えです。つまり、過去に形成された自己に執着することは、激流を渡る為に有効であった筏を、対岸に渡り上陸してからも、後生大事に背負って歩くというようなものであり、新たな問題への対応には、寧ろ障害となると喩えたわけです。
 更に云えば、この筏の喩えの中には、積極的に過去の成功体験にしがみつくだけでなく、無意識的に前例踏襲に止まり、結果的に現状維持に帰結することも含みます。つまり、危機に対して、大幅な改善や改革に消極的となり、結果危機対応の時期を逸することとなるということに気づかせようとすると教えです。というのもそもそも、危機とは既存の諸条件との断絶を意味しており、従来の価値観や常識が通じない状態を云うわけですから、従来の価値観や方法論による対応だけでは、有効な手だてが講じられないことは自明のことなのです。故に、この点に気付かず、従来の延長線上の対応をいくら講じても芳しい成果は、生まれないわけです。つまり、断絶を乗り越える飛躍が求められているのです。
 では、どのようにしたら、この小田原評定的停滞から離脱できるのでしょうか?つまり、自己の立場や知見に執着し、硬直化する自己中心的な精神からの解放は、如何に可能なのでしょうか?これは永遠のテーマですが、一つ云えることは、自らの立場や考え方を他者の視点から客観的に見られる、大局的な見方を習得することです。その一つの方法として、嘗ての武士は、熱心に禅の瞑想に打ち込み、また茶道や剣道等の芸道に打ち込むことを通じて、硬直化し易い精神性を磨き、常に柔軟な精神の有りようや異なる領域の知識を学んだと云われています。いずれにしても、自己を相対化し客観化し、結果異なる視点から、自らの直面する問題を鳥瞰できる総合的な思考力を育むことが重要となるわけです。
 しかし、現代の多忙な人々、特に本誌の読者の主流であるビジネスパーソンには、そのような時間はなかなかとれないでしょう。そこで、自己研鑽の方法として、幅広い知識を身につける、つまり高い教養を身につけるということが、有効な手段として考えられます。「何だ。教養か」と落胆する読者もあるかもしれませんが。実は、この教養軽視の思考こそ、日本社会の停滞を招いている大きな要因である、というのが筆者の考えです。
 つまり、既得の知見というのは、即効性のあるもので、その技術や知識の偏重が、結果として過去に拘泥し、現状に対応を難しくしている原因、つまり個人の行動から国家の政策まで、硬直した思考形成し、その結果として変化に適合できず衰退、あるいは消滅していく運命を辿ることになる、ということです。なぜなら、現行の先端技術や、有効性はすぐに過去のものとなるからです。「基礎科学は、行くには役に立たないが、その中から将来有望な技術が生まれる」といわれますが、この基礎科学の重要性は、教養のそれと共通します。しかし、その知識が何時、何処でどのように役立つか常に、その実効性を問い、軽視してきたのが最近の日本の状況です。ノーベル賞受賞者の多くが、現在の日本政府が基礎科学、や教養の価値を軽視していることに警鐘を鳴らすのは、このためなのです。
 とはいえ、既得の知識を再構築するような知識の習得は、そう簡単に実現するのでしょうか?これが問題です。そこで、一つの可能性として、比較文明学という学問を紹介しましょう。

 中編はここまでとなります。次回の後編は明後日(11/27)ごろの投稿を予定しております。お楽しみに。なお、本寄稿におきまして、管理者によって、ところどころ表記の修正が加えられております。ご承知おきください。本日もご覧いただきありがとうございました。

編集者:H.M

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?