シグマの現実逃避

数学は苦手だった。
ぼくは学校から帰るときまって
ゲームをやった。
数学の宿題があることを忘れようとね。
でも夕ごはんを食べたあと宿題のことを
思い出す。

数学といふものはどうも厳しい。
まるで僕の存在をことごとく否定しているかのようだ、まるでぼくは一生大人になんかなれないんじゃないかと思わせるくらいだ。
僕の人生のこれからを暗いものにしていく
ようにさえ、思ってしまう。
数字がぼくを責め立て、公式が、文章問題が、記号が、筆算が、全てが僕の敵だ。
僕はいわゆる“反抗心”をむき出しにしていた。

それがいつのまにか変化していた。
初めてぼくがΣといふ記号に出会ったとき、
なんてかわいい記号なんだとおもった。
「シグマ」という名も良いし、まるでぼくの友達みたいに思えてくる。
ぼくはΣが出てくる時だけ、夢中で問題を解いた。そしてきづいた。
「敵を味方にしてしまおう」と。

Σとの出会いを機に、ぼくはあらゆる数学の
問題と「にらめっこ」しながら、
例えば文章問題の端から端までをじっくり
読んだ。
そして答えを出す過程こそ楽しんだ。
たといアンサーが出なくてもね。

あまりにもわからないときは、一旦やめるんだ。そしてまたやる。
なぜなら人間と一緒で、数学だってかまって
欲しくない時もあるんだ。
つまり、なかなか答えを出してもらえないのにそこにずっといられるともどかしくて、
いらいらするからだ。
数学も、生きているんだね。

嫌いだったはずの記号や公式や計算全てが
今ではぼくをわくわくさせる。
数学はもはや俺のアドベンチャー施設と化したよ。いまだにテストの点数は低いけどね、
ははは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?