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映画「よだかの片想い」アイコちゃんと飛坂さんがスクリーンに確かにいた

島本理生さん原作の「よだかの片想い」が映画化されると聞いて、そのニュースを耳にしたときからずっと楽しみにしていた。金沢でもついに封切られたので、富山から高速バスに揺られ昨日観に行ってきた。

映画館に一人で行くのはかなり久しぶりだったけど、スクリーンにいざ本編が映し出されたら、前のめりになってのめり込んで観てしまった。とても、良かったのだ。

私は実は「よだかの片想い」は原作からのファンだ。もともと島本作品を愛読していたという経緯はあるが、よだかはそのなかでも特別に好きな作品で。レモンイエローの表紙の単行本も、ピンクの表紙の集英社文庫も購入したぐらいである。

知らない方のために軽く説明を入れると、文庫本表紙裏のあらすじはこのようになっている。

顔に目立つ大きなアザがある大学院生のアイコ、二十四歳。恋や遊びからは距離を置いて生きていたが、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにした本の取材を受け、表紙になってから、状況は一変。本が映画化されることになり、監督の飛坂逢太と出会ったアイコは彼に恋をする。だが女性に不自由しないタイプの飛坂の気持ちがわからず、暴走したり、妄想したり……。一途な彼女の初恋の行方は⁉

大好きな作品が映画化になることで、私はやっぱり「原作とどのように違うか」が気になりもし、楽しみでもあった。原作の作者は島本理生さんだが、映画のほうは監督が安川有果さん、脚本は城定秀夫さんだ。

原作を下敷きにしつつ、どのような世界観が展開されるのか――映画がはじまってすぐ、不安は払しょくされて私は釘付けになっていた。

まず、キャスティングが素晴らしかった。主役のアイコを演じた松井玲奈さんは、インタビューによるともともと島本理生さんの作品の大ファンで、よだかの片想いも大好きな作品だという。

アイコのかたくななところやまっすぐなところ、融通のきかなさや透明感を見事に表現されていて「アイコちゃんがいるよ…!」と感激した。

そして、中島歩さん演じる映画監督の飛坂さん。正直に言って、私が原作から感じ取った飛坂さんとかなり近い雰囲気で、飛坂さんのナチュラルにモテそうな感じや、そのくせ言葉がちょっと足りなくて鈍感そうなところまで、すごく飛坂さんらしくて「うわ、わわ」と嬉しくなってしまった。

以下、ネタバレに気を付けながら映画の感想を語りますが、まっさらな状態で映画を観たい方は戻ってくださいね。

映画の、特に好きだったシーン。

なんといっても映画ポスターでアイコちゃんと飛坂さんがボートに乗っている(つまりデートだったわけですが)その場所が〇〇〇だったこと。

アイコちゃんのトラウマと関わる〇〇〇を、こんな形で飛坂さんが悪い印象から二人の思い出の良い印象に塗り替えたことに、素敵だなって思いました。

それから、ラスト。〇〇が完成してアイコちゃんが見にいく、という原作の展開は、二人のすれ違いはあれどお互いへの確かにあった愛情を感じられてとても好きなのですが、映画のラストはミュウ先輩とのシーンに変更になっていて。

そのシーンでの爽やかで明るいアイコちゃんの笑顔になんだか胸を打たれました。こちらは、アイコちゃんが飛坂さんとの恋を通じて、本当に一人で立って笑えるようになった」ことの象徴のようで。

そして、容姿になんの痛みも傷もなかったミュウ先輩が、あの経験を経てラストにアイコちゃんと一緒に笑っていることもすごく良かったと思います。

「よだかの片想い」は「顔にアザを持つ人」という容姿について困難な事情を抱えた人を扱っていて。

でも、原作と映画の両方にあるように、アイコちゃんがアザを「悪しきもの」と思うようになったのは、担任の先生からの「アザについてああだこうだよそから言うのはひどいこと」というレッテル貼りがまずあったからなのですよね。

私も、実は思春期のときにストレスから抜毛をしてしまって頭にハゲができていたことがあって。アイコちゃんのアザとはもちろん違うのですが、やっぱり容姿を笑われるという体験をそのときにしました。

いま、ルッキズムの問題が社会でも取沙汰されるようになっていて、いい時代になってきたなと思います。「人の容姿に対して、良い評価であれ悪い評価であれ基本的にすべきではない」という共通認識がもっと多くの人の間で持てたなら「よだかの片想い」でテーマとなったことは問題ではなくなる未来が来るのかもしれません。

一方「よだかの片想い」では「恋すること」も大きなテーマです。恋をするにあたって、だいたいの人は性格だけでなくその容姿も通して誰かを好きになると思うのですが、飛坂さんに対してアイコが想う感情が、すべてを表している気がします。

映画のキャッチコピーでもある「あなたに、私の左側にいてほしい」

これは、飛坂さんへの絶対的な信頼というか、飛坂さんがアイコの左頬にあるアザを絶対に否定しない人だから、という気持ちの現われだと思うのです。

完全とはいえない、コンプレックスがある容姿であっても、この人であれば受け入れてくれるんだ、ということにアイコが気づいたのは、飛坂さんがくれたプレゼント――〇にもあるのでしょうね。

まっすぐに自分を見つめる手段としての〇をくれた人だから。本当に人たらしです、飛坂さん。

一方、原作の好きなシーンについてもせっかくだから話させてほしい!

映画「よだかの片想い」では飛坂さん側の傷は描かれませんでした。華やかな業界にいて、いつも人に囲まれている飛坂さんには、重たい過去が実はあり、原作ではその痛みにアイコが寄り添います。

そのシーンも、とても好きで。あと、映画のほうでは飛坂さんの家に遊びに来たアイコは、早々と彼と恋人同士になりますが、原作の飛坂さんが、遊びに来た初回にアイコを帰宅させようとするところが好きです(マニアだね)

アイコの焼きもちのお相手、城崎美和さんの役どころは、かなり大きく変更されていて、でも映画のほうも原作のほうもどっちもストーリー展開が面白くて「よだかの片想い」のバージョンを2タイプ観られるところがすごく映画化の醍醐味だなと感じました。

ミュウ先輩と原田くんもよかった。ミュウ先輩のダンスが最後にすごく生きていたし、原田くんの朴訥さと、飛坂さんに輪をかけて鈍そうなところまでも、うまく演じられていて良かったです!

本当に、最初から最後まで、身を乗り出して、かぶりつきで映画をすみずみまで鑑賞し、終わったときはほっと肩の力を抜きました。

映画観た人には、原作読んでほしいし、原作しか読んだことない人は映画を観てほしい。

すてきな映画を制作してくださり、スタッフのみなさんとキャストのみなさんに感謝です。

あ、最後に。飲んだあと、あんな風に手を引っぱられて夜の街を一緒に爆走したら好きにならないわけないよねっていう(笑)

アイコちゃん。飛坂さん。これから原作を読むたび、俳優さんお二人のイメージで浮かんでくると思います。それくらい、力ある演技でした。

「よだかの片想い」まだ全国で上映中です。
映像が本当にきれいで、キャストの方も最高なのでぜひ。







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