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【児童文学】雷の好きな女の子

※お友達からのリクエスト「雷の好きな女の子(小4)」というものに応えて書きました。


冬が近くなると、有紗の住む福井では、空がごろごろと鳴り、稲妻の光が走ります。

「きた、きた、きたーーーーー」

その音を聞くと、十歳の有紗はいてもたってもいられなくて、窓のカーテンをしゃっと開けて、光る空を眺めるのでした。有紗は、雷が大好きなのです。さすがに、外に出たら危ないというのは知っているので、家のなかから眺めるだけですが、どろどろどんと音を立てて、雷が落っこちるのを「きゃあ」と言いながら聞くのが好きなのです。

「こわい、こわいよう」

有紗とは反対に、さっきから八歳の弟の比呂志は、遠い雷の音を聞くなり、ベッドにもぐりこんで布団をかぶり、がたがた震えています。有紗は、雷が大好き。比呂志は、雷が大嫌い。ふだんは仲のいい姉弟ですが、こと雷となれば、まったく違う反応をしてしまうのです。

有紗は、稲妻の走る紫色の空を、窓越しに眺めながら、自分の内側に力がみなぎってくるように思いました。いまなら、雷の力を借りて変身できるかも。そう思った有紗は、思いついた呪文を唱えてみました。

「スペシャル・サンダー・マジック・ミラクル……ええと」

残念ながら知っている単語はそのくらいです。有紗は叫びました。

「とりあえず、変身!」

家が揺れるようにどどーん、と大きな音を立てて、どこかに落雷したように聞こえました。有紗はしばらく目をつぶっていて、十秒待って目を開けました。

さっきまで着ていたセーターとスカートが、少女戦士の恰好には……なっていませんでした。でも、有紗は、実は女の子から強い少女戦士へと変身しているのです。雷の力を借りて。もう有紗ではなく、少女戦士ハッピーサンダーなのです。少女戦士ハッピーサンダーは、まだベッドのなかで震えている比呂志をちらっと見ると、敵を倒すために、キッチンへと向かいました。

キッチンのテーブルの上には、まだ封を開けていない食パンの袋がありました。

「アイテムひとつ、みーっけ」

ハッピーサンダーは食パンの袋をしっかり抱えると、冷蔵庫を開けました。いちごジャムと、ピーナッツバターを見つけました。

「ややっ、モンスターのいちごジャム星人と、ピーナッツバター星人が現れたぞ! ぜんぶパンにのっけて、食べちゃうぞ!」

ハッピーサンダーは食パンの袋をやぶると、一枚取り出し、パンの上に山盛りのジャムとピーナッツバターを塗りたくり、オーブントースターに入れました。

「火の魔法を、くらえっ」

いちごジャムとピーナッツバターは、じゅうじゅうと音を立てて、パンからはみでそうなほど、美味しそうに焼けています。

チーン、とオーブントースターのスイッチが切れると、ハッピーサンダーは熱々のパンを取り出し、冷蔵庫から出した牛乳をコップにつぐと、食べ始めました。

「あ、あつい! そんな攻撃には負けない! ぜんぶやっつけてやるう!」

いちごジャムとピーナツバターの瓶は、空になりました。しかもハッピーサンダーは、食パンの袋をあけたまま、輪ゴムで閉じるのを忘れました。

ハッピーサンダー、もとい有紗が帰ってきたママに、こってり叱られたのはいうまでもありません。

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