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SNSが記憶と知識の集積所になる日

亡くなった祖父のことを思い返すとき「ああもっと若いころの話とか、戦時中の話とか聞いておけばよかったな」と残念に思う。祖父は輪島生まれだが、太平洋戦争のとき、月島の軍隊にいて東京大空襲に遭っている。焼夷弾という落ちたら火の玉になる爆弾を落とされて、朝になると川に死体がたくさん浮いているのを見て「とてもかわいそうだ」と思ったそうだ。

この話は、祖父が亡くなる数ヵ月前に聞いて、メモしたものだけど、山でキツネに遭遇した話だとか、祖父の幼い頃は実家が塗師屋(輪島塗の工房)だったのでたくさんの職人さんにかわいがってもらったりだとか、にわとりを絞めて食料とするのが、どうしてもつらくて、子どもの頃にわとりの羽をむしりながら泣いていたとか、大正から昭和を生きた人でしか知りえない、おもいろい話を祖父は寝物語によく聞かせてくれた。

でも、私の手元にいまあるものは、東京大空襲のメモだけで、あとの話は、すべて覚えていない。聞き書きを生前にもっとしておくべきだったと思うが、もう祖父が亡くなって6年経ち、それは叶わない。

人は生まれたときからいつか死ぬことが誰しもに分かっていて、その人だけが持っている知識とか記憶は、その人が亡くなったとき、すべて闇の中となってしまう。

だから歴史のなかで、たくさんの人が、文字にして本にして、書き残すことを選んだ。しかし、本にすることは一部の人にしか開かれていない、特権的なものだったように思う。

でも、インターネットの登場が、世界を大きく変えた。

2019年現在は、SNSが花盛りで、Twitter、youtube、facebook、noteなどを駆使することで、特権的な地位にいない一般の人々でも、誰であっても自分が持つ知識を、世界に向かって発信することができるようになった。

たとえばyoutubeのメイク動画は、紙の雑誌に載っているメイクのハウツーよりもはるかに分かりやすいし、ブログで趣味のことを書いていたら話題になり書籍化と言う話も、もはやめずらしくもなんともない。クックパッドで料理レシピを人気検索できるシステムで、美味しいレシピをたくさん覚えられた。

祖父がもっと若い時代にブログやnoteがあれば、ものを書くことの素養はそこそこあった人だから、自分の体験をつづってくれたかもしれない。

いま、私たちは動いていく時代の真上に立っていて、これからSNSを通じて、もっと人々の知識や記憶は、共有されていく。それは、とても喜ばしいことだと思う。

私は、大学の授業や、老舗の料亭の料理長の調理スキルや、病気や医学の知識などが、もっと、閉ざされた場所にだけあるのではなくて、みんながアクセスを楽にできる場所に、あったらいいなと思う。その人一代だけの知識や記憶で終わってしまうのは、あまりにもったいないことだから。知のオープン化が自然になされている社会。私はそれを望みたい。そして、それを公開した人にお金が入る仕組みになったらもちろんいいなと思うけれども、でも家が金銭的に恵まれない子でも、ちゃんとアクセスして勉強できるようなそんな知のオープン化であってほしい。

勉強したいとあるジャンルがあるとして、でも、専門書すべてを購入できる学生は少ない。身銭を切って勉強しろ、というのはもちろん大人の言い分として重要だけれども、もし、読みたい生徒の側に本やネットの知識がすべて無料もしくはリーズナブルで手に入り、なおかつ、著者の方にもちゃんとお金が入る仕組みになったら、どんなにいいかと思う。

そういう夢のような仕組みのある社会になれば、知的レベルや向学心はもっと上がり、結果的に社会全体の生活レベル、技術レベルも底上げされるのではないだろうか。

役立つ本やブログを書いて、人々に広く手軽に読んでもらえる、という功績を上げた人に、ボーナスポイントとしてお金が入っていく仕組みになったらいいのにと思う。

本の売り上げの高低と、著者に入るお金をまったく別の仕組みにするということだけれど、無理があるのは承知で、そういう仕組みができてほしい。何万部も売れない本でも、内容が充実した良い本はたくさんある。そんな著者も報われてほしい。

私は小説が好きだし、好きな作家の本はすべて買って応援したいけど、そこまでお金がもたない。だから、本の書き手やネットでいい情報を流している書き手に、自然とお金が入る仕組みにならないものだろうかと思う。

人々が、役立つ知識が書いてある本やブログに対してたとえば「いいね!」を押せばおすほど、著者が経済的に報われ、読者も手軽に知識を得られる、そんな社会にもっとなったらいいと思う。

専門書にかぎらず、日記や私小説、自伝は、これからを生きる私たちにも、書く価値がある。

私たちの生きていた時代の風俗や文化の、次世代の人のための記録になるからだ。

だからみんながもっと、SNSでいろんなことやってみたらいいと思う。きっと、良くなっていく明日のために。







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