曇りの日とチューニング。
昔からFMラジオが好きで、一日数時間は聴いている。
アナログの代表みたいだったラジオですら、今やアプリに乗る時代。
聴き逃したものまで追いかけてくれたり、遠く離れた土地の音まで聴けたりするのだから、便利になったものだ。
かつてはアンテナ線を窓辺で右へ左へと動かしながら、ノイズが最も少ない場所を探したものだった。
あぁここだ、というところで手を離すと、ふたたび雑音にかき消されてしまう。
しかたなく好きな曲が流れる間、アンテナを握りしめたまま、まるでだるまさんが転んだのように固まっていることもあった。
アプリから流れるラジオは実に鮮明で。
DJの声も、音楽もCDで聴いているものと変わらない。
けれど、ほんの二、三分、遅れて届く。
わかってはいるのだけれど、やはりラジオはオンタイムがいい。
電波の向こうで話している人も、あちこちで耳を傾けている誰かも、自分も、同じ時間に同じ音の中にいる。
ポーンと時刻が変わる瞬間に、もうそんな時間かと思う。
なんだかよくわからないこだわりだと言われることもある。
それでも、台所のちいさなポータブルラジオは時間どおりの音を届けてくれる。
すこし油でベタつくダイヤルを回す。
おや、昨日まで聴けていたはずの音が、今日はノイズにかき消されている。
野菜を切る手をとめて、しばしアンテナを上下左右。
しかし鮮明な声は一向に聴こえてこない。
そんな日もある。
それもまた、今を聴くよさ。
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