Wayne Shorterと自分

Wayne Shorterが亡くなったそうで、改めて時代が変わっていくんだな、ということを感じながら、彼の作品を一とおり聴いていました。
今回は、「Wayne Shorterと自分」と題して、自分にとってのWayne Shorterは何者だったのか、ということを書いていこうと思います。
どこか備忘録的なところがあるかもしれないし、彼から受けた影響などについて書き残しておきたい、そんなところでしょうか。
彼に対する印象や、時代順に、個人的に印象に残っている作品を紹介しながら、彼に哀悼の念を示せればと思います。

A.不思議な存在

Wayne Shorterは、とりあえずJazz界で自分が影響を受けたミュージシャンで、最も特徴的な人物の1人だったかと。
Chick Coreaが自分の中でトップかな、と思うのだけど、Wayne Shorterも特に作曲面で影響を受けたかな、と思う。

で、改めて、彼について考えてみると、彼を「サックス・プレイヤー」という側面で考えれば考えるほど、奇妙に思ったりする。
自分の中で、彼の「名演」が何だったか思いつかない。
例えばHank Mobleyであれば"Soul Station"でのブロウが浮かぶし、Michael BreckerならStepsでの”Young And Fine”あたりが思い浮かんだりするのだけど、Wayne Shorterの場合、そういう印象ではない。

誰かにサックスのブロウを薦めるとして、Wayne Shorterの何かを薦めることはないし、かと言って、彼がサックスプレイヤーとして先述の人々に劣る訳でもない。
それは彼が稀代の作曲家であり、また彼の音色があまりに特徴的なのか、どこか彼の音が出てくることが「サンプリング」かの如くインパクトがあり、彼のソロにおけるフレーズも超越している、そんな具合なのかもしれない。

B.彼の作品、彼が関わった作品

では次に彼の作品、彼が関わった作品を紹介しながら、Wayne Shorterが何者だったかを少しずつ掘り下げてみようかと思う。

1. Wayne Shorter - Pay As You Go

まず、1974年にリリースされたものの、1960年に録音されたSecond Genesisからの1曲を。
まだこの当時の彼におそろしく特徴的な作曲センスが出ている訳ではないのだけど、彼のおそろしくメインストリームなところが堪能できるのではないだろうか。
そう、私から見て、彼が凄いのは、おそろしくクセがありながら、おそろしくメインストリームなことが出来るってところだろうか。
そして、この作品は、何度も何度も聴ける作品、それは皮肉にも彼のクセの強さがまだそれほど出てないことによって、どこかDave Pikeの"Bossa Nova Carnival"のような中毒性があるような気がする。

2. Wayne Shorter - Night Dreamer

Blue Noteでの初リーダー作か。
そして、彼のクセというか変態ぶりが徐々に露わになっていくのもこの作品くらいからだろうか。タイトル曲のこの曲にしても、どこか変だ。ジャズの高揚感と共に彼特有の異様な高揚感をこっちにぶつけてくる。彼のソロも何と言うか、音をこっちにぶつけてきて、その音色に魅了されるというか、歌心はありまくるのに、フレーズの印象というよりは、Wayne Shorterという存在の印象が際立つ。
そして、McCoy TynerやElvin Jonesが参加しているという点でも、John Coltrane的空気感が漂いそうな中、ショーター色に染まる、そんな感じだろうか。

3. Wayne Shorter - Juju

Blue Note2作目にしてキモさ全開(褒めてます)、本領発揮感すらある。
このタイトル曲は7(b5)コードだっけか、最初のdiminish感のあるところから、後半の甘美なコード感に持っていくセンスが彼らしい。
彼はFree Jazzまで突っ込まないのだけど、和音的にはかなり複雑だったり、ありえないコード進行に行くのだけど、それを彼のメロディーセンスが支えているという具合か。
クラシックで言うと、シェーンベルクほどFreeではないのだけど、ラヴェルくらいは狂った和音ぶっこみます、といったところか。
ちなみに、このアルバムだと"Yes Or No"も秀逸か、特に後半のm7(b5)で繰り出すメロディー、こういうメロディーを書けるのが彼の彼たる所以だと思う。

4. Wayne Shorter -  El Gaucho

さて、次は「オイオイ、Adam's AppleかFootprintsだろ」ってところをEl Gauchoである。このアルバムで言うと、ある種、1番どうでも良いような、けど、1番キモい曲(褒めまくっている)だ。コード進行も凡人が100回生まれ変わってもムリな、あり得ないところを突きながらも、最終的にこの時代の、新主流派ジャズの要素を凝縮したような、メインストリームとキモさやクセの強さが同居した1曲だったりする。
そして、このキモい曲をHerbie Hancockがピアノソロを取ってくれるのが嬉しい。

5. Wayne Shorter - De Pois Do Amor, O Vazio (After Love, Emptiness)

Wayne Shorterの最もフリーな作品はSuper Novaだろうけど、その後のか、このアルバムのこの1曲は美しい。
この曲は、彼のサックスプレイの特徴というか、フレーズより存在感がよく出ているようなそんな感じがする。

6. Wayne Shorter - Beauty and the Beast

なんか、ノリでひとまず、彼のソロアルバム作品は行ってしまうか。
Native Dancerは、最近になってよく聴く作品だったりする。
学生当時は勘違いしてたのか、ポップ過ぎるなぁ、なんて思っていたのだ。
これまでのソロ作品、Miles時代、そしてWeather Report時代とも違う、けど、彼の懐の広さがうかがえる、そんなアルバムだろうか。

7. Miles Davis - Nefertiti

Miles時代で挙げるとすればNefertitiだろうし、考えようによっては、こんなにWayne Shorter色がありながら、結局、Miles Davisなアルバムもないよな、って感じだろうか。
言っていることが意味不明だが、そんな意味不明な気分にさせてくれるのがWayne Shorterという存在なのだろうか。
さて、このNefertitiというアルバムには、Nefertiti、Fall、Pinocchioと名曲揃いというか、Jazz時代というか4ビート時代というか、そんな時代の彼の集大成と言って良い名曲が入っている。Wayne Shorterの何たるかを知るには最適な作品のように思うし、Nefertitiのただただメロディーを吹いて終了なあたりは、ショーターの真骨頂のようにすら思える。
そして、ここでmaj7(#11)ってコードが特徴として挙がるかと思うのだけど、このコードをよく使ったのがAndrew Hill、あとはInnerurgeの頃のJoe Hendersonか。
その2人に比べると、どこかスッと使うというか、自然に使っているところが変態かと思う。

8. Weather Report - Elegant People

失礼と誤解を覚悟で言うと、Nefertiti、Fall、Pinocchioの3大名曲以降、彼は名曲らしい名曲を書いてなかったように思う。
マイルスのElectric時代は、どこか曲らしいものが求められていなかったようにも思えるし、Native Dancerあたりも良いのだけど、何か、彼らしい高揚感とキモさが同居したような名曲、先述の3大名曲と共に語り継がれるべきそんな曲だ。
だが、このElegant Peopleは語り継がれる名曲ではないかと思う。
土着感とザビヌルのシンセ群も活かされ、混沌とした中、ショーターの圧倒的メロディーセンス、時にキモいんだけどメインストリームなコード進行と完璧である。
Weather Repot時代のショーターだとPalladiumもいい曲なんだけど、Elegant Peopleくらい完璧な感じはないというか、そのくらいElegant Peopleは完璧なんである。

9. Weather Report - Pinocchio

出来れば、コレを聴く前にMiles Davis - Pinocchioから聞いてもらいたい、是非。
さて、Pinocchioの再演ということになるのだが、ジャコのベースやザビヌルの変態シンセもたまらないが、それ以上に1:10くらいが特に顕著だが、ショーターのサックスのブロウっぷりというか、Miles Davis時代をサンプリングしたのかよってくらいの感触、
「あっ、コレ、Wayne Shorterの曲だわ!!」
って再認識する感じである。
Miles時代、Weather時代、どこか脇役のような気がするが、結局、主役というか、何か掴みどころがあるのか、ドッシリしているのか、そして、キモいのか、変態なのかメインストリームなのか、よく分からない不思議な存在、それがWayne Shorterだったりする。

10. Steely Dan - Aja

最後の1曲、ちょうど10曲、なんだか紹介しきれない感もあるが、まあ、そういうのは他の人や媒体に任せておいて、私は勝手にやります。
そうだな、作曲家として近かったのはJohn Scofieldあたりなんではないだろうか、特にグラマビジョン時代というか、Blue Matter周辺のジョンスコのアルバムはショーターの影響もありそうな、変態な楽曲群が多かった。
さて、最後のAjaである。この曲で、後半、Wayne Shorterのサックスが炸裂するが、たとえば、Michael Breckerが参加するような「ブレッカーフレーズ凄い」みたいなんではなく、ショーターの色とかキモさとか変態さがSteely Danという絵の中に取り込まれていくと言ったら良いだろうか。
Donald Fagenという、これまた変態かつクセがあり、そしてメインストリームを知り尽くしたような、ある種、共通した感覚を持つ者たちの共演。

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