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【ライブレポート】2022/12/5 LACCOTOWER 20th TOUR 2022 「絶好旅行」ファイナル@伊勢崎市文化会館 大ホール

【注意】今回のライブレポートは、ツアーファイナルについて書いたもの。しかし今回のツアーではキャンセルもあり、いくつかの公演について振替・延期が決定している。ライブ内容についてはセットリスト含めて描写しているので、これから延期公演への参加を予定している人は、ライブを観終わってからチェックしていただければと思う。




LACCO TOWERのベストアルバムレコ発ツアーとなった『絶好旅行』。松川ケイスケ(Vo)の喉の不調もあり、いくつかの公演が延期となっているが、位置づけ的には「ファイナル」となる伊勢崎市文化会館でのライブが開催された。

アンコールにおいて2つの大きな発表も行われた今回のファイナル公演を振り返ってみたい。

17時の開演時間を過ぎ、場内が暗転するとSEが流れ出す。個々のメンバーごとにSEが変わる演出で、重田雅俊(Dr)、真一ジェット(Key)、塩﨑啓示(Ba)、細川大介(Gt)が次々とステージに。そして最後にSEが「狂想序曲」に切り替わると、松川が登場し、ライブはスタートした。

松川は白いシャツに黒パンツというスタイルでステージセンターに立つと、1曲目「棘」を歌い上げる。数公演はキャンセルとなったものの、ファイナルに向けて整えてきただけあり、歌唱において不安な部分はほとんどなさそうに感じる。

低空姿勢でベースを弾く塩﨑、スポットを浴びながらソロプレイを披露する細川、リズムと美音色で楽曲を支える着席演奏の重田と真一、そして裸足で躍動する松川。

いつものLACCO TOWERがそこにいる、ような気がした。

曲が終わった瞬間、ステージ後ろに掲げられたバックドロップが赤い照明に「ドン!」と照らされるという、痺れる演出でオープニングから心を掴まれる。

「あらためまして、絶好旅行、伊勢崎市文化会館、ようこそいらっしゃいました。LACCO TOWERです、どうぞよろしく!」

そんな松川の挨拶を挟んで、続く2曲目は「後夜」。曲前半では細川のギターが牽引役となって楽曲をグイグイ引っ張っていく。空気を切り裂く松川のシャウトに塩﨑のジャンプキックも飛び出し、会場からは無数の手が上がるなど、早くも熱い盛り上がりを見せている。

「怪人一面相」ではめまぐるしい青の照明がステージを舞い、怪しげな雰囲気を醸し出す。細川のタッピングによる、煌びやかにも聴こえる鮮やかなギターの音色が響き渡り、重田が放つ重いドラムが心臓の鼓動とシンクロしていく。

4曲目は、細川によるフリースタイルのようなギターパフォーマンスからスタートした「未来」。情熱的なギターで会場を魅了すれば、センターラインともいえる松川のボーカルと真一のコーラスが美しいハーモニーを描く。松川の、この曲における透き通るような歌声はまさに珠玉。

曲が終わっても、真一によるキーボードの音が繋ぎとなって無音の時間を挟まずに、「斜陽」へと続く。塩﨑&細川の竿ふたりが対面プレイする場面もあり、ステージにどんどん動きが出て、ラッコらしい激しさを帯びていった。

ここで雰囲気がからりと変わり、真一のキーボードと左利き用に持ち替えた細川のギターがしっとりとした演奏で聴かせて「花弁」が始まった。細川の表現力豊かなギターサウンドに唸らされるが、鮮やかなギターソロまで繰り出すとは。

細川はこの夏、自身がジストニアを発症し闘病していたことを明かし、それでもギターを続けるために、レフティギタリストに転身すると発表していた。このことは多くの人に驚きと共に勇気を与えた出来事だったが、まさかこのレベルでレフティギターを習得していたとは。

レフティへの転身という事実だけでなく、目の前で繰り広げられたその演奏そのものに驚かされていると、今度は真一の流れるようなピアノから引き継いで細川の(今度は右利き用に持ち替えた)ギターから繋がる「蛍」へと展開していく。

個人的に大好きなアルバム『心臓文庫』収録の同曲には思い入れもひとしお。優しく包み込むような松川の歌と楽器隊による演奏が心に染みる。アウトロでの長尺なギター演奏を聴いていると、細川が「ジストニアなのに頑張って演奏している」という、同情めいた考え自体失礼なのでは、と思ってしまう。

彼は闘病とライブを両立させながら、様々な工夫をしてギターを弾いていたことを明かしている。思い通りに動いてくれない指のせいで、自身にとって納得できないプレイになることもあるはず。しかし、目の前で演奏されたギターの音に感動したり、凄い…!と驚嘆したなら、それはギタリスト・細川大介のテクニックと、演奏に込められた感情にリスナーの心が反応したという、ただただシンプルな現象が起こっただけ。

時に「病気だから」「ケガだから」あるいは「苦労したから」といったことはストーリーを形作るうえで大きな要素になる。そしてそんなストーリーが音に、あるいはバンド活動に乗ってグルーヴを生むこともある。

でも、今日の細川のギターに関しては、右でも左でも純粋にひとつのギターサウンドとして楽しめる…そんな気がした。それはきっと、細川が楽しそうにギターを弾いていたからかもしれない。

重田のドラムが口火を切り、「元気か、伊勢崎! 今日は今日しかねえからな!」という叫びに重なるように細川のレフティギターが歌いし、塩﨑は観客に手拍子を促す。そして真一の旋律は、この8曲目が「鼓動」であることを示していた。松川の、感情を丁寧に描くような歌唱が胸を打ったかと思えば、塩﨑と細川が場所を交代してそれぞれのプレイを見せつける。

まさに5人の音、そしてポジションが縦横無尽に駆け巡るステージだ。

「夏行きますか?」という松川の合図からスタートしたのはもちろん、LACCO TOWERにとっての夏曲「藍染」だ。冬の寒さに覆われた伊勢崎に、爽やかな夏の歌声が駆け抜ける。ステージ前方でのギタープレイで魅せる細川、そしてお立ち台でのベースプレイで観客の視線を惹きつける塩﨑と、華やかな演奏もまた、「夏」にふさわしい。

ゆったりと始まった繊細なピアノソロから松川の情感たっぷりなボーカル、そして細川の右利きギターの唸りへとバトンが渡る「魔法」を経て、続く曲は「雨後晴」だ。

《OH OH OH OH》のシンガロングがこの曲の大きな魅力…だが、コロナ禍でのライブで声出しは制限されてきた。しかし、様々な状況からライブにおける制約も少しずつ解かれていき、今日は声出しOKだ。

「我々がずっと守り続けてきたやり方でいうと、今日は大声を出していい日でございます。みんなと大声出したかったんです。マスクの中でいいから、気になる人は出さなくていいから」

そう言ってシンガロングを促す松川に応えるように、観客席からは(かつてのボリュームほどではなくとも)声が出始める。

「取り戻してきたかい?」

松川はそう問いかけてから、歌い始めた。多くのバンドには、観客の声があって完成するアンセムがあるが、LACCO TOWERにとって「雨後晴」はまさにそういう曲のひとつだろう。同時に、無数に上がる拳がアンセムの強度を上げていくのだ。

エフェクターを自在に操り、何色もの音で楽曲を表現するレフティ細川のテクニックに酔いしれる時間でもあった。

塩﨑が「おっしゃいくぞ!!! Oh Yeah!!!」と珍しく雄たけびをあげ、「狂喜乱舞」。めまぐるしくギターをチェンジする細川は、今度は右利きギターに。艶やかでド派手な照明が楽曲を彩るなか、全身全霊を注ぐかのような松川のボーカル、そしてステージ前方へと飛び出す両翼と、グングンと攻撃性を増していくLACCO TOWER。

重田の迫力たっぷりなドラムから始まった「林檎」でも、メンバーそれぞれの見どころ満載。ステージにしゃがんで背中を反りながらギターソロを放つ細川に、くるりと回転して演奏する塩﨑、スポットライトを浴びて、ここが見せ場とばかりの重田のドラミング。さらには椅子の上で駆け足を始めるほど興奮状態の真一。

バンド最大の武器のひとつである松川の歌声だけでなく、全員のキャラクターがいかんなく発揮される。それがLACCO TOWERのステージの魅力だ。

「雪」での、重田がスネアとバスドラを繰り返し何度もゆっくり叩く、どこか緊張感漂う冒頭からの、柔らかいメロディとコーラス。こういったアレンジを楽しめるのがライブの醍醐味でもある。

真一の長いピアノソロ、泣かせる旋律が続いてから一気にバンドサウンドがギュッと集中して爆発する、リスナーのアドレナリンが溢れるオープニングが最高にカッコいい「非幸福論」。松川の爆発的歌唱、クルクルと舞い踊りながら演奏する細川などチェックポイントも多い楽曲だが、個人的に
《幸せになるために 僕たちは泣いている》
のパートでの気持ちいいベースラインを推したい。また、このパートではなかったと思うが、腰を落とした構えでのプレイを見せる塩﨑のパフォーマンスにも注目だ。

「火花」では、照明の色合いとも相まってまさに真っ赤に燃え上がるステージが展開する。暴力的な真一のピアノや激しい重田のドラムも含め、全員戦闘モード。この曲では信じられない光景を目撃した。なんと曲中に細川が右利きから左利きギターに持ち替えたのだ。どこまでその可能性を広げていくのだろうか。

「今日は、集まってくれてどうもありがとう」

松川の言葉に、会場からは長く、大きな拍手が沸き起こる。

「喋りだす止まらなくなるので、言いたいことは曲の中で。最後の曲です」

そう告げると、本編ラストとなる「告白」を演奏。終盤での激しく躍動するパフォーマンスから180度転換し、じっくりと聴かせる美しい歌声とあまりにナチュラルなレフティギタリストのソロが会場中に響く。

余韻たっぷりなアウトロが流れるなか、松川は「どうもありがとう!」の言葉を残してステージを去っていった。

その後、メンバー全員が退場すると、会場からは大きな手拍子が。かつてのライブであれば「ラッコ節」と呼ばれるコールでアンコールが巻き起こるのだが、今はまだそれができる状況ではないことを、観客はじゅうぶんに承知していた。

そんなアンコールに応えて再びステージに現れたLACCO TOWERの5人。衣装をTシャツに着替えて少しラフなスタイルで臨むアンコール。言葉を挟むことなく、そのまま「花束」を披露する。観客一人ひとりの心に歌いかけるような気持ちの入った歌唱が胸に響く。バラードの中にも圧の強いドラムや耳に残るベースラインが組み込まれ、楽曲に厚みを与えているように感じる。

最後の曲を前に、LACCO TOWER恒例の、各メンバーからの挨拶があった。

塩﨑は、バンド結成20周年を迎えたことについての感謝を述べ、ツアーも順調ではないなかで、地元・伊勢崎のステージに5人で立てたことを嬉しく思う、と語る。そして、間もなく発売となるベストアルバムに触れながら、「なかなかライブできないなかでライブをやる。なかなかCD出せないなかでCDを出す。当たり前じゃない。いろんな人の支えがあってこそ、と思ってます」と話した。

続く重田は、今日この会場に集まってくれたことへの感謝と共に、おなじみのコール&レスポンスを繰り出す。
「今日は今日しか!」の叫びに、「ねえからな~」のレスポンスをする観客。コロナ禍で配信ライブしかできなかった日々を思うと感慨深い光景だ。

細川は、これまでのLACCO TOWERの活動において、ファンの見えないところでも様々なハプニングがあったことを打ち明ける。それは月に1回どころか3日に1回のペースで起こることもあったという。しかし、喧嘩も含めてそうした出来事を乗り越えるたびにメンバーやスタッフのことを好きになり、絆も強くなっていったと話す。さらに、応援してくれるファンがいるから自分たちは存在しているんだと、感謝を伝える細川。

また「延期公演もあって、ツアー前半終わってファイナルになってしまいましたけど、このままじゃ終われないと思っているので来年楽しみにしていてください」と、未来に向けて力強いメッセージも届けていた。

「以上のメンバーで…」という松川によるお約束のボケに「お~~~い!」とツッコミを入れながら割って入ったのはもちろん、真一だ。彼だけは他のメンバーと毛色の違うトークを展開する。

これまでのLACCO TOWERの歴史の中で、いろいろなものができました、と話すと、自身の代表作だという「サンキュージェッツ」を発表。さらにこの前できたという「サン、ニィ、シンイチ」。そしてこのツアーでできたのが、自身の衣装(牛柄)を指しながら「ミルクが欲しけりゃ俺にイェイ」。

思わず重田も「それ20周年で言うことかね?」と疑問を呈すが、意に介さず真一は「こういうのが増えていきます。30周年、40周年になるとどうなっちゃうんでしょうね。そこまで皆さん、応援よろしくお願いします!」と言って挨拶を〆た。

4人からのメッセージが終わると、「アンコールもう1曲やっていいでしょうか」という松川の言葉と共に、本日のラストナンバー「青春」を披露。最後は右利きギターを手に、切れ味あるギターソロで魅せる細川。日々進化する姿を堂々見せつけるプレイだった。

すべての曲を演奏し終えた後、全員で記念撮影を行い、これで終幕…というところで松川から「僕のほうからみなさんにお話しがあります」との言葉が。

それは、喉の調子を崩してしまい、7本のライブができなくなってしまったこと。そして心配させてしまったことへの謝罪だった。

さらに続けて、ふたつお知らせがある、と話す。ひとつは、松川の喉のこと。ライブをキャンセルするほどの不調が続いており、今日のファイナルも薬(とメンバーや音楽)の力を借りてなんとかステージに立てた状態とのことで、完治させるために当面の間、歌唱を伴うライブ活動を休止すると発表。

また、もうひとつのお知らせとして「いつも言っているけど、今日こそ笑って帰ってほしい。僕が次、戻ってくる場所、約束します。ここです。来年4月7日、ここで『I ROCKS 2023』やります」と、『I ROCKS2023』の開催を発表した。

「ちょっとの間、お別れですけど、終わりじゃなくて新しい始まりだと、そう思ってもらえるように。今日は笑って帰ってください」

最後にそう告げると、会場は温かい拍手に包まれ、ツアーファイナルは幕を閉じたのだった。

近年だけでも様々な問題に直面していたLACCO TOWER。特に細川のジストニア発症とレフティ転向のニュースは衝撃をもって受け止められたが、ここにきてさらにボーカリストの喉の不調という、あらたな困難と向き合うことになる。

しかし、これまでも幾多のトラブルを乗り越えてきた彼ら。細川が言うように、乗り越えるたびに絆を強めていった5人、そしてスタッフたちを信じて、松川の完全復活を待ちたいと思う。

そして、彼自身は来年4月に絶対戻ってくると語ったが、どうか無理だけはせずに。外科でも内科でも、目標があることで治りが早くなる可能性があるというのは多くの人が感じるところだ。そうあってほしいと願いつつ、優先すべきはスケジュールではなく、松川自身の体調だと思うから、ゆっくり、しっかりと治してほしい。

そして、松川不在の間は4人編成でライブを行うそうだが、果たして誰が歌うのか…!? 謎に満ちた「LACCO TOWER-1」(松川による仮称)も気になるところだ。

波乱万丈な2022年ももうすぐ終わる。松川の喉の不調も、コロナ禍での制約も、諸々吹き飛ばして完全復活なLACCO TOWERのライブが観られる、そんな2023年が来ることを期待したい。

セットリスト
01.棘
02.後夜
03.怪人一面相
04.未来
05.斜陽
06.花弁
07.蛍
08.鼓動
09.藍染
10.魔法
11.雨後晴
12.狂喜乱舞
13.林檎
14.雪
15.非幸福論
16.火花
17.告白

EN.
18.花束
19.青春

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